第179回:田丸雅智さん

作家の読書道 第179回:田丸雅智さん

ショートショートの書き手として、次々と作品集を発表、さらには一般参加者が作品を作る講座など、さまざまなイベントも精力的に開催している田丸雅智さん。幼い頃にハマったのはもちろん星新一さん、ではいちばん好きな作品は? 他にもハマった作家や作品や、さらにデビューに至るまでの苦労や現在の活動についてもおうかがいしました。

その4「読み手と書き手を増やしたい」 (4/5)

――さて、江坂さんに作品を送った後、転機がきたというのは。田丸さんは2011年に『物語のルミナリエ』に作品が掲載されてデビューされていますよね。

田丸:江坂さんが井上雅彦さんという、星新一コンテスト出身の方に僕の作品を褒めてくださって、それでショートショートのアンソロジー『物語のルミナリエ』を作る時に何か書いてみないかと言ってくださって、すでに書いてあった「桜」という作品に思い入れがあったので、「これでいかせてください」と言って見せたら気に入ってくださったんです。他にも、名前をあまり出すとご迷惑になると思うんで伏せますが、WEBなどに掲載していた作品を読んで気に入ってくださって、僕が一冊目を出すことになる出版芸術社の会長さんに「本にするべきだ」と言ってくださった作家の方がいて。そこからはトントン拍子で話が進みました。

――いきなり『夢巻』と『海色の壜』の2冊を刊行されて、話題になって。

田丸:いや、本が出るまでがものすごく大変でした。正直、虐げられていたと思います(笑)。「ショートショートは人間を描くことを重視しないので文学じゃない」とか「ショートショートみたいな短いものを書いているうちは未熟だ、長いものを書いて一人前だ」などと言われたことは何度もありますね。

――まあ、そんなことが。田丸さんは長篇を書くよりショートショートを広めていきたい、とはっきりとおっしゃっていますよね。

田丸:本当にそのつもりです。もちろん未来は分かりませんが、でも長篇を書くことはほぼないと思います。持久力の長距離走と瞬発力の短距離走みたいなもので、競技が違うんですよね。求められている才能が違う。両方できる人もいるんですけれど。僕は、自分ができているかどうかは別ですけれど、ちゃんと短いものの良さを伝えていきたいというのがあります。性格上のこともありますね。僕は工作は好きだけれど、自分一人でちまちま作るのが好きで、工場とかでいろんな人と一緒に何かを成し遂げようというのが苦手で。みんなで車を作るというよりも、一人でトミカを作りたいというか(笑)。早く作って早くみんなに楽しんでもらいたいというのが僕の根源的欲求なんです。せっかちなんですね。今も速いペースで書きすぎなんじゃないかと言われることがあるんですが、別に急いでいるわけじゃなくて、これが自分のペースなんです。

――デビューする前に200篇くらいアイデアがあったそうですね。

田丸:そうですね。書いていたのが150篇くらいで、ネタはもっとありました。もちろん最初の頃のものは下手すぎてお見せできませんが。

――今、各地でショートショートを創作する講座を開かれたりしていますよね。つまりは各地でご自身の創作の手の内を明かしている。

田丸:結局、読み手を増やすために書き方講座をやっているんです。今、僕の本を読んでくださった方が他にショートショートを読もうとしたら、「星新一はもう読んだしな」となって、そこで終了してしまう。あるいは僕の本が合わなかったから他のショートショートが読みたい、となっても、ほかにショートショートの作品集がほとんどないんですよ。僕はジャンルとしてのショートショートを定着させたいので、まず書き手を増やさないといけないと思っています。その最先端に自分がいられたらという気持ちはあるけれど、「自分が独占したい」っていう気持ちはゼロです。
ショートショートは素人でも、90分の講座で書き切れるんです。最初のハードルが低い。もちろん、その先にはかなり高いハードルがあるんですけれど。今たぶん、講座では8000人くらいに教えてきたと思うんですが、小学生からシニアまで、全世代の方がいます。そういう方たちに楽しんでもらったら、一定数は読み手にまわってくれると思うんです。だから読み手を増やし、書き手を育成するためにいっぱいイベントをやっているんです。作り方を教える講座だけでなく、ゲストの方を招いて即興ライブもやります。スクリーンにパソコンのモニタを映し出して、カタカタ文字を打ってその場で作品を作り上げるという内容です。僕には興味のない、ゲストの方のファンの方が来てくれて、最後には「ショートショートって知らなかったけれど面白かった」と言ってくれる。
そうやって業界が盛り上がって発展していくと市場も大きくなりますよね。書店に「ショートショート」という棚を作るのが僕の目標です。

――ご自身で「ショートショート大賞」を立ち上げていますよね。

田丸:僕のデビューの経緯から分かる通り、ショートショートのコンテストはなかなかデビューに結びつかないんです。僕が持ち込みでデビューできたのは運がよすぎただけで、デビューするには努力だけでは突破できない厚すぎる壁がある。それで、一本バシッとした賞を作らなければ、という意識が前からあり、それが結実したのが「ショートショート大賞」です。育成していくことに重きをおいているので、受賞者には編集者が付きます。去年の第一回では約8000通の応募が来ました。第一回にしてみては多いですよね。ありがたいです。大賞1名、優秀賞3名、計4人だったんですけれど、受賞作4作品を集めた冊子は書店で無料配布させていただきました。そして早速この12月に、第一回の大賞受賞者・堀真潮さんのショートショート集『抱卵』が発売されました。本当にうれしく、感慨深いです。ただ、ぼくとしては安心している場合ではなくて、本当の勝負はこれからなんですよね。これがきちんと継続して、しっかりショートショートが世間的に根付いていかなければ意味がない。重責なんで胃が痛くて(笑)。でもそれくらい覚悟を持って立ち上げた賞なので、ぜひとも受賞者の方の本は売れてほしいですし、ショートショートがもっともっと広がっていけばいいなと願っています。

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