第200回:白岩玄さん

作家の読書道 第200回:白岩玄さん

『野ブタ。をプロデュース』で鮮烈なデビューを飾り、その後着実に歩みを続け、最近では男性側の生きづらさとその本音を書いた『たてがみを捨てたライオンたち』が話題に。そんな白岩さん、実は少年時代はほとんど小説を読まず、作家になることは考えていなかったとか。そんな彼の心を動かした小説、そして作家になったきっかけとは?

その2「イギリスで小説と広告に目覚める」 (2/6)

――卒業後はどうされましたか。

白岩:高校を卒業してすぐイギリスに留学しました。うちは父も母も姉2人も、みんな留学しているんですよ。なにせ父と母はアメリカで出会っているくらいなので。だから大学に行くという選択肢が家庭内であまりなくて、どちらかというとみんな留学の話のほうをよくしていたから、自然とそういうものなのかなというのが自分の中でありました。
それに、大学受験したくなかったんです(笑)。勉強がそんなにできなかったというのもあるし、高校生活が実質2年しかないというのが嫌だったんですよ。3年間あるけれど、最後の1年は夏くらいからみんな受験勉強を始めるじゃないですか。そうすると受験のための1年になってしまう。高校生活は3年間じゃないかという気持ちがあったから、意地でも受験勉強はしないというのを決めていました。みんなが「お前、大丈夫なん?」とか言うなかで、「いや、俺は絶対そんなんせんから」って意地を張って留学したというのもあります。まぁ、今思えば、逃げたようなものなんですけど。

――向こうでは英語の勉強をして、小説を読むこともなく?

  • 冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)
  • 『冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)』
    辻 仁成
    角川書店
    518円(税込)
  • 商品を購入する
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    honto

白岩:いえ、向こうで江國香織さんと辻仁成さんの『冷静と情熱のあいだ』の、辻さんのほうを読んで、そこではじめて「小説って面白いんだ」というのを知ったんです。
きっかけは、友達が貸してくれたから。僕はそれまで小説を読んでこなかったから、その時も「いや、いいよ。どうせ読まないから」って断ったんです。でもイギリスにいると当然、生活が全部英語なので、日本語に飢えていたんです。で、とりあえず読んでみようかと思って読みだしたら、思いのほか面白くて。「思いのほか」って失礼ですけれど(笑)。「あ、小説ってこういうものなんだ」とはじめて知って、それで結構ショックというか、「ああ、すごいな」と思って。
その時期も相変わらず文章を書くことは続けていたんです。語学学校が休みの間は近場のアイルランドやフィンランドやポルトガルに行ったりして、あちこち見たものを旅行記にして実家に送っていたんです。日本語が書きたかったし、文章を書くことが得意だと思い込んでいるから、自己満足で実家に送っていたんですけれど、家族も優しいから「どんどん次送ってこい」と言ってくれるので。それと小説を読んだ時期が重なって、「じゃあ、この旅行記を小説の形を使って書いてみよう」と思い、辻仁成さんの文体をパクッて(笑)、縦書きの小説の形で書いて、紙を切って文庫の大きさの本を作って、それを家族に送ったりしていました。

――帰国されてからは。

白岩:広告の専門学校に行きました。イギリスに留学した時に向こうのテレビCMを見て、その面白さに衝撃を受けたんです。カンヌのCMなどをばんばん獲るようなクリエイターが海外にはいる。ものを作る土壌が日本と全然違っているんですよね。それで「こんなに面白い世界があるんだ」と広告に興味を持って、日本の広告も見るようになりました。だから「何かを伝える」という媒体として、広告はすごく影響を受けていると思います。僕、一時期、作家さんの名前よりもCMクリエイターの名前のほうが知っていたくらいでしたから。

――参考までに、クリエイターではどなたが好きでしたか。

白岩:そんな話したら長くなりますよ(笑)。そうだなあ、佐々木宏さんという、リオデジャネイロのオリンピックの閉会式のクリエイティブスーパーバイザーをやられた方。手がけたCMとか見たら「ああ、知ってる」というものばかりだと思いますよ。抜群にエネルギーがあって、人を「面白い」と思わせる、興味を引かせる力が恐ろしく強い。それと、大貫卓也さんという、としまえんの「プール冷えてます」の広告とか、資生堂の「TSUBAKI」のボトルを含めたデザインを作られた方。その2人が好きですね。
当時、第一線で活躍されていた人たちの影響はかなりあると思います。自分が一番、ある種多感だった時期に本当に好きだった人たちなんで。ずーっと広告のことを考えて、ずーっと広告のことを喋っていた学生時代でしたし。すでに小説でデビューしていたんですけれど、広告のことを考えている時間のほうが長かった。

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