第214回:凪良ゆうさん

作家の読書道 第214回:凪良ゆうさん

引き離された男女のその後の時間を丁寧に描く『流浪の月』が大評判の凪良ゆうさん。もともとボーイズラブ小説で人気を博し、『神さまのビオトープ』で広い読者を獲得、新作『わたしの美しい庭』も好評と、いま一番勢いのある彼女ですが、幼い頃は漫画家志望だったのだとか。好きだった作品は、そして小説を書くようになった経緯とは。率直に語ってくださっています。

その4「デビューしてからの悩み」 (4/7)

――ああ、では「プロになった!」みたいな実感とかは。

凪良:なにもなかったです(笑)。小説を書き始めたきかっけも「銀英伝」の二次創作で好きなキャラクター同士、まあ男性同士の話を書いていたし、投稿するオリジナルのものもその延長で楽しく書いていたので、あんまり自分の中で「作家だ!」というハードルがなかったのかもしれないです。まあ、でも担当さんがつくと全然楽しくなくなっちゃったんですけれど。

――というのは。

凪良:本当にしごかれる。文章から、表現から、ストーリー展開から。とっても厳しい担当さんだったので、プロットが通って書き上げてもすべてに赤が入って、最終的にできあがったものを読んでボツ、とか。「あなたにこれは書けない」と言い切られるタイプの方だったので、そうすると結構心も折れるんです。でも10代の頃は子どもだったので簡単にポキッと折れてやる気もなくなったりしていましたが、その時はもう30歳過ぎていたので、なんとか耐えることができました。何回折られても「頑張ろう」って思えて。

――他の方が書いたボーイズラブ小説を読まれたりはしましたか。

凪良:「花丸」に載っている先生たちの話は読みました。でもやっぱり、木原音瀬さんが一番ガーンときました。「こんなBLあるんだ!」って。
 私が10代の頃に読んでいた時は、まだBLという言葉ができていなくて、男性同士の話は「ジュネ」とかそういう呼び方がメインだったんです。内容もシリアス寄りで、心理描写も深くたっぷりとあって、読後感もビターテイストなものが多かった。30歳過ぎてからもう一回そこに戻った時に、世界がまったく変わっていて驚きました。「ジュネ」から「ボーイズラブ」というジャンル名が変わってるし、登場人物も「受け」「攻め」という呼び方になっているし、テイストも思いきり甘くなっていた。男同士なのになぜかその時は花嫁ブームがきていたり......。「男同士でどうやって結婚するんですか」と担当さんに訊くという、それくらいボーイズラブについて知らないまま飛び込むことになって戸惑うばかりでした。

――そういうなか、木原音瀬さんという方は...。

凪良:そういうブームとは無縁の作風でした。ボーイズラブは恋愛ジャンルなので、最後は絶対にハッピーエンドに着地するんですけど、木原さんの話は甘さがほとんどなくて、容赦なくて最後も手放しでハッピーエンドとはいえない話もあったので、「あ、こんなのも書いていいんだ」って目から鱗が落ちたし、安心もしました。
 自分の書きたい方向が見えたのに、でもその時のブームが花嫁だったので、求められるものは全然違う。はじめて壁にぶつかったんですね。

――なるほど、そういうブームがあるんですねえ...。

凪良:レーベルや担当さんにもよると思うんですが、わたしの場合は縛りがきつくて、デビューさせてあげる代わりに内容は絶対に花嫁もので、本のタイトルにも「花嫁」という言葉を入れること、と言われていたんですよ。「この条件がのめるならデビューさせてあげる」っていう話でした。
 そこで「これを私は書きたいのかな。自分は何を書きたいのかな」と考えたのは、そういう条件を突き付けられた時でしたね。
 まあ、花嫁ものをちゃんと書きました(『花嫁はマリッジブルー』)。ただその時に、条件は全部クリアしつつも、自分のカラーだけはなんとか入れようとがんばって、そこで結構鍛えてもらった気はします。ただ、よく作家さんって「デビュー作に(その作家の)すべてが詰まっている」って言うじゃないですか。あの言葉を見るたびに、「私のデビュー作には詰まってない」と、すごく葛藤が生まれます。

――その束縛みたいなものからだんだん自由になっていけたのですか。

凪良:ラッキーなことに、デビューさせてもらったレーベルが姉妹レーベルを作ることになったんです。デビューしたレーベルは甘め傾向のレーベルだったんですけれど、新しく創刊するレーベルはブラックレーベルといって、重いシリアスでもいいし、どエロでもいいし、なにを書いてもいいって言われて、そこでやっと好きなものが書けたんです。「やっと」と言っても、花嫁もののデビュー作が出た翌年にそのレーベルができたので、結構早く息を抜くことができました。だから、自分では、その2冊目(『恋愛犯 LOVE HOLIC』)がデビュー作なんだって思っています。意地みたいに。

  • 花嫁はマリッジブルー (花丸文庫)
  • 『花嫁はマリッジブルー (花丸文庫)』
    凪良ゆう,唯月一
    白泉社
  • 商品を購入する
    Amazon
  • 恋愛犯~LOVE HOLIC~ (花丸文庫)
  • 『恋愛犯~LOVE HOLIC~ (花丸文庫)』
    凪良ゆう,サクラサクヤ
    白泉社
  • 商品を購入する
    Amazon

» その5「好きな女性作家たち」へ