
作家の読書道 第214回:凪良ゆうさん
引き離された男女のその後の時間を丁寧に描く『流浪の月』が大評判の凪良ゆうさん。もともとボーイズラブ小説で人気を博し、『神さまのビオトープ』で広い読者を獲得、新作『わたしの美しい庭』も好評と、いま一番勢いのある彼女ですが、幼い頃は漫画家志望だったのだとか。好きだった作品は、そして小説を書くようになった経緯とは。率直に語ってくださっています。
その2「二次創作を始める」 (2/7)
-
- 『クララ白書I (集英社コバルト文庫)』
- 氷室冴子
- 集英社
-
- 商品を購入する
- Amazon
-
- 『アグネス白書I (集英社コバルト文庫)』
- 氷室冴子
- 集英社
-
- 商品を購入する
- Amazon
-
- 『シンデレラ迷宮 (集英社コバルト文庫)』
- 氷室冴子
- 集英社
-
- 商品を購入する
- Amazon
-
- 『KISSxxxx 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)』
- 楠本まき
- 集英社
-
- 商品を購入する
- Amazon
――中学生になってからはいかがでしょう。
凪良:ずっと漫画が好きだったんですけれど、中学に上がると友達から氷室冴子さんを薦められて。それまでも『赤毛のアン』とかは好きだったんですけれど、小説ってこんなに身近で面白いんだと思ったのは、氷室さんが初めてです。
――『クララ白書』なのか『なんて素敵にジャパネスク』なのか...。
凪良:『なんて素敵にジャパネスク』がすごく人気だったんですけれど、私は『クララ白書』から『アグネス白書』、それと『シンデレラ迷宮』が大好きでした。他の作家のコバルト文庫もたくさん読ませてもらったんですけれど、やっぱり記憶に残っているのは氷室冴子さんですね。
――漫画を読んで自分でも描きたくなったように、少女小説を書いてみたくなったりはしませんでしたか。
凪良:あ、そのくらいになるともう、漫画で投稿を始めていたんですよ。プロになりたいと思っていました。全然ダメだったんですけれど。だから、「いつ作家になりたいと思ったんですか」とよく質問されるんですけれど「小説家になりたい」と思ったことは小さい頃から一度もないんです。
――投稿されていた漫画はどういう作品だったんですか。
凪良:「マーガレット」に投稿していたので、少女漫画でした。
――作風とか画風に影響を受けた漫画家の方はいましたか。
凪良:投稿していた時期か、もうちょっと後かもしれないんですけれど、楠本まきさんの絵には影響を受けました。『Kissxxxx』という漫画があって、物語的なものは特にないんですが、とにかく絵が美しいっていう。当時、あの絵を真似する人は多かったと思います。
ただ、ずっと好きなのは大島弓子さん。全部好きなんですけれど、衝撃を受けたのは『ダリアの帯』という、女の人が少しずつ精神を病んでいく話なんです。みんながその主人公のことは「頭がおかしい」という扱いをするんですけれど、最終的には「おかしいのは僕たちのほうじゃないのか」みたいな問いかけを含んだ話で、そういう話をそれまで読んだことがなかったので、すごく考えさせられたというか。私が今まで信じていたものは正しくないのかもしれないとか、そういうことをはじめて考えさせられた漫画です。
――そういう価値の反転をはじめて体験すると衝撃を受けますよね。
凪良:氷室さんの『シンデレラ迷宮』とかでも、孤独とか、「男性に幸せにしてもらおうなんて、思っても叶わないわよ」みたいなことが描かれていて、その時も読んで結構、「ほう」と思いました。
――漫画を投稿する際に、物語づくりでは苦労はありませんでしたか。
凪良:特にはなかったです。あの、腐女子だったので、すでに。自分の好きな作品とかアニメとか、そういうものの二次創作的なこともたくさんやっていたので。
――おお、すでに。二次創作を始めるきっかけって何かあったんですか。
凪良:たぶん、「花とゆめ」。唯一、姉ではなく自分がお小遣いで買っていた雑誌だったんです。今どうなっているのか分からないんですが、当時の「花とゆめ」は普通に男性同士のカップルとか性描写が雑誌の中に入っていたんです。そういうのを小学生の時にもう読んでいたので、全然抵抗がなかったのかもしれませんね。
――世の中に二次創作というものがあるというのも、すでに知っていたわけですか。
凪良:本屋さんにアニメ雑誌とかがたくさんあって、そういうのを見ていると、読者がアニメの絵を真似したイラストを投稿するコーナーがあるんですよ。「ぱふ」という雑誌なんかは、本当に同人誌をそのまま紹介しているようなコーナーがあって、「ああそうなんだ、そういうものがあるんだ」って。それが中学生だったんじゃないかな。あとは友達に教えてもらったりとか。
――なるほど。それで二次創作をはじめ、その後オリジナルで書き始めて。投稿してみて、いかがでしたか。
凪良:せいぜいAクラス賞とかだったんですが、それでも編集者さんから短いコメントがもらえるんです。とっても厳しくも温かいコメントなんですが、まあ子どもが見ると厳しいんですよね。やっぱり真剣に書いてくださるので、10代の子が読むと立ち直れないくらいで。もう、傷ついたし、泣きましたね。その後しばらく投稿しなかったかもしれない。私なんか全然ダメだというのがよく分かったので、簡単に心もポキッと折れちゃったんです。
――そんなことが...。
凪良:投稿でポッキリ折れた気持ちがまた二次創作のほうに向かいました。「ちょっとこっちで心を癒やそう」みたいな。その頃、田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』とか『創竜伝』とかも好きで読んでいたんですけれど、その二次創作をしていましたね。
――ああ、「銀英伝」がお好きだったのですか。
凪良:最初にアニメを見て。それでめちゃくちゃ面白いと思って、小説が原作なんだと知って、読みたいと思って、読んだらすっごく面白かったんで。『創竜伝』はその流れで読みました。
――ほかにどんな小説を二次創作していたのか......いや、二次創作していなくても好きだった作品は。
凪良:小学生くらいの時にはまっていた『リングにかけろ』は全然二次創作じゃなくて、漫画として面白いなと思っていただけで。でも「ジャンプ」で同じ車田正美さんの『聖闘士星矢』の連載が始まった時には「おう」っていう。王道路線で『キャプテン翼』も好きでしたし、そこらへんはきっちり順序は踏んで。