第214回:凪良ゆうさん

作家の読書道 第214回:凪良ゆうさん

引き離された男女のその後の時間を丁寧に描く『流浪の月』が大評判の凪良ゆうさん。もともとボーイズラブ小説で人気を博し、『神さまのビオトープ』で広い読者を獲得、新作『わたしの美しい庭』も好評と、いま一番勢いのある彼女ですが、幼い頃は漫画家志望だったのだとか。好きだった作品は、そして小説を書くようになった経緯とは。率直に語ってくださっています。

その6「一般文芸も書き始める」 (6/7)

  • 神さまのビオトープ (講談社タイガ)
  • 『神さまのビオトープ (講談社タイガ)』
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  • 墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)
  • 『墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)』
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    610円(税込)
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――さて、BLを書いているうちに、他のジャンルからも「うちでも書いてみませんか」というお声がかかったのでしょうか。

凪良:そうですね。はじめて声をかけてもらったのはコバルトでした。でもずっと忙しくて何年か「待っていてほしい」と言っている間に担当さんが部署替えになっちゃって、コバルトからオレンジ文庫になり、そのうち依頼も立ち消えとなり、その次に声をかけてくださったのが、富士見L文庫さん、その次が講談社タイガさん。でも、書いたのはタイガさんが先ですね。

――声がかかった時、ご自身でも「書いてみよう」と気持ちが動いたのですか。

凪良:さっき言ったようにBLは約束事が多いジャンルですし、当たり前ですけれどボーイズラブってボーイズの世界なので、女性を書けないんですよ。絶対に主人公は男性だって最初から決まっていて。でも、10年間も書いているとさすがに「もっと違うものも書きたい」という欲が溜まっていたんだと思います。声をかけてもらった時、「できるかな」という不安はありましたが、「女の人を主人公にしてもいいんだ」という解放感のほうが大きかった。それで、やりたいなって思いました。

――講談社タイガ文庫から出されたのが『神さまのビオトープ』ですね。これはどのようなイメージで書きはじめたのですか。

凪良:「タイガではこういうのを出しています」と言って送ってくださった本が全部ミステリーだったので、「これはミステリーを書かなくちゃいけないんだ」と思って、最初、がんばってミステリーのプロットを送ったんですよ。そしたら「これは別に求めていない」ってボツになりました。「うちのカラーとかではなく、自分らしい話を書いてください」と言われたんですが、そのミステリーで出したプロットの中のひとつのエピソードとして、亡くなった旦那さんと暮らしている女性というのが出てきたんですよ。じゃあ、ここを膨らませていこうという感じで。

――そうして『神さまのビオトープ』を出したら、それを読んだいろんな他社の編集者から声がかかって...。『流浪の月』の版元の東京創元社もミステリーやSFのイメージが強いですが、最初に声をかけられた時はどう思いましたか。

凪良:いたずらかなって思いました(笑)。ミステリーって今まで本当に読んだことがなかったんですよ。小池真理子さんのミステリーを大昔に読んで、いちばん「わあ、面白い」と思ったのが『妻の女友達』という本で、あとホラーも混じってるんですけど、『墓地を見おろす家』というのがとっても面白かったです。読んだのは何十年も前なのに、いまだにマンションのエレベーターに乗るとこのまま地下に連れていかれるんじゃないかと思います。まあわたしとミステリーは本当にそのくらいの浅いつきあいで......。
 東京創元社のお仕事はチャンスなのでもちろんお引き受けしたんですけど、ただ、タイガさんの時のことがあったので、がんばってミステリーのプロットを出すという同じ失敗はしませんでした(笑)。そもそも、東京創元社の担当さんからは最初に「絶対ミステリーを書かないでほしい」って言われたんです。

――それが今大変評判となっている『流浪の月』という物語になったのはどういう経緯だったのでしょう。事件扱いされたことで引き離された二人の長い年月にわたる物語です。

凪良:やっぱりミステリー専門の編集者の方ということで、事件性のある話に寄せたのかもしれませんね。自分でも書きたいことを書いたんですが、内容的に、ほとんど受け入れてもらえない、ちょっと嫌う人のほうが多いだろうと思っていたので、そうでもない反応をいただけた時に、嬉しくもあり意外でもありました。BLは恋愛を扱うジャンルなので「善」を求められることが多くて、それに慣れていたので、一般文芸は受け入れ幅が広いんだな、というのはちょっと新たに感じたことでした。どっちがいい悪いの話じゃないんですけれどね、はい。

――新作の『わたしの美しい庭』は、『流浪の月』と平行して書かれていたわけですか。また違って優しさ溢れる内容ですね。

凪良:最初に依頼をいただいた時に「児童書を出している会社なので、ネタ的にあんまりどぎついのは...」というオーダーがあったので、初稿を書いている時に、あまり深堀しないように気を付けたんですよ。最初は正直ちょっとストレスだったんですけれど、書いているうちに「あ、この深度じゃないと見えないものがあるな」と気づいてびっくりしました。海でいうと、光の届くところで書いているって感じですね。『流浪の月』はもうちょっと深く、ぐぐっと潜る感じなんですよね。でも同じ海だっていう。だから『わたしの美しい庭』はポプラ社さんの担当さんとだから作れた本だし、『流浪の月』は東京創元社の担当さんとだから作れた本だと思います。

――『わたしの美しい庭』は、屋上に縁切り神社のあるマンションの住人たちの話。一般的にすぐ想像つく家族構成だったり、マジョリティのイメージとはまた違うけれど、でも絵空事でなく実際に存在していそうな人たちが登場しますよね。最初の発想はどこにあったのかなと思ったのですが。

凪良:やっぱり、生きづらい感じの人というか、普通にしていると世界とあんまり仲良くできそうにない人をいつも書いているのかもしれないです。あんまり意識したことなかったんですけれど、訊かれると、確かに毎回そういう人が出てくるんですね。自分自身が普通にしているだけでも弾かれてしまうことが多いので、自然とそういう題材が多くなっていくのかもしれないです。

――自然と弾かれてしまうことが多いですか。

凪良:そうですね。目に見える大きな事件があって弾かれたというなら話しやすいんですけれど、結構、今の弾かれ方って、つらい弾かれ方という気がしていて。私は言葉ではうまく言えないんですけれど、小説だったら書けるのかなとは思っています。
 自分がやってきたことを振り返ると、本当に言いづらいことが多いので...。コンプレックスのほうがやっぱり大きいので。

――生きづらさというものが共通しながらも、作品の読み心地はまた違いますね。

凪良:結構、担当さんのカラーを読みながらプロット出ししたりします。嫌な感じに聞こえたらごめんなさい、なんですけれど、担当編集者さんと話す時って、結構観察しているんですよ。ご挨拶とか、雑談とかの時に。「こういうのが好きなんだ」「ああいうのが好きなんだ」とか。担当編集者さんって、最初の読者さんじゃないですか。ずっとエンタメでやってきたせいか、「楽しんでほしい」という気持ちがいちばんに来るので、担当編集者さんが面白がれる話を書きたいなって思うんです。

――今、BLと一般文芸と両方書かれているわけですか。

凪良:今は3冊連続で一般の小説を書かせてもらっていて、その合間にBLのシリーズものを書いています。こんなに一般のほうから依頼をもらえると思っていなかったので、嬉しがって全部受けていたら、そんなスケジュールになってました。

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