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操上 恭子の<<書評>>
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Queen

「小説中華そば「江ぐち」」
評価:D-
ラーメン屋のカウンターで注文したラーメンを待ちながら、暇にまかせてそのラーメンを作っている店員の人となりや生活を想像してみる。誰にも経験のあることだと思う。そうやって想像したことなどを一冊の本にまとめてみたのが本書だ。面白くない、というわけではない。「江ぐち」の店の様子とか「ボク」友人たちのこととか、とても活き活きとリアルに描けている部分もある。だが、私にはこの本を楽しむことはできなかった。他人の覗き趣味につき合わされているような違和感、内輪受けを押し付けられているような不快感がつきまとった。あとがきまで読み進んで知ったのだが、作者は実在の「江ぐち」の人々に許可を求めるどころか、一言の相談も報告もなしにこの本を出版したらしい。結局、後味の悪さだけが残った。
小説中華そば「江ぐち」 【新潮0H!文庫】
久住昌之
本体 486円
2001/6
ISBN-4102901027
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「バルタザールの遍歴」
評価:B+
実はこの話、10年ほど前ファンタジー大賞を受賞したころに一度読んでいる。当時私は翻訳小説ばかり読んでいたので、この本も翻訳物を読んでいるつもりになっていたのだが、違和感はまったくなかった。その感覚は今も変わらない。ストーリーの方はすっかり忘れていたが、「一つの肉体を共有する双児」という基本設定と奇妙な小説だということだけはずっと印象に残っていた。今読みかえしてみると、とても面白いのだが、読んだ後になんとも気持ちの悪い余韻が残る。読後感が良くないと言えばいいのだろう。だからストーリーを覚えていなかったのだろうか。それにしても、こんな男のエゴ−猾さ、愚かさ、弱さを一人称で延々とつづった小説を若い女性が書いたというのは、それだけでもすごいことだと思う。
バルタザールの遍歴 【文春文庫】
佐藤亜紀
本体 600円
2001/6
ISBN-4167647028
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「ああ言えばこう食う」
評価:A
いやー、面白かった。問答無用の面白さと言っていいんじゃないだろうか。こんなに面白いと感じるのはもしかしたらオバサン感覚なのかも知れないと思って、夫にも読ませてみたのだが、オジサンにもじゅうぶん面白かったようだ。もう本当に言いたい放題。その殆どとはいわないまでも半分くらいが相手の悪口だ。相手に面と向かって口にできる、悪意のない悪口というのは、聞いていて小気味のいいものだ。だけど普通、どんなに仲のよい友達同士だってここまでは言わないんじゃないだろうか。いや、もしかしたら男同士ならあるのかも知れない、という気がしてきた。だとしたら、この二人はかなり男性的な性格で男っぽい友情を育んできたということなのかも知れない。だから嫁に行けないのか?
ああ言えばこう食う 【集英社文庫】
阿川佐和子・檀ふみ
本体 514円
2001/6
ISBN-4087473317
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「夜のフロスト」
評価:A-
イギリス人というのは、いつもとりすまして気取っているものだ。そういうことになっている。普通は。ところが、まったく普通でないのがフロスト警部だ。あまりにも下品で型破りで落ち着きがない。時に幼稚なこともしでかす。それでいて八面六臂の大活躍。いったいこの人は天才なのか無能なのか、計算づくなのか何も考えていないのか、真面目なのか行き当たりばったりなのか、奥が深いのか何もないのか、まったくわからない。わかるのは、とても魅力的だということだけ。天敵(というほど強くないが)のマレット署長があまりにも型通りの俗物なので、逆に愛しくなってしまう。※本書はシリーズ物だが、前作を読んでなくてもまったく問題なく楽しめるので御安心を。
夜のフロスト 【創元推理文庫】
R・D・ウィングフィールド
本体 1300円
2001/6
ISBN-4488291031
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「赦されざる罪」
評価:B
これも長く続いているシリーズの1冊。初めて読んだのだが、シリーズ物につきものの読みにくさはなかった。ストーリー的にも、読者をぐいぐい引っ張る力強さを持っていて、長さを感じさせない。ページ数のわりには、登場人物がとても少ないことに読み終わってから気づいた。容疑者も少ない。謎解きにウェイトを置いたミステリではないことのあらわれだろう。主人公デッカーの家庭が、複雑な関係なのにおとぎ話のようにうまくいっているのが不自然なようで気になったが、あとがきによると作者は確信犯らしいのでいいことにしよう。それにしても、最近のミステリの犯行の動機をなんでもかんでもPTSDに求めるのはどんなものかと思ってしまう。心理学的にはそれが正しいのかも知れないけれど、ミステリとしては面白みに欠けることになっているのではないだろうか。
赦されざる罪 【創元推理文庫】
フェイ・ケラーマン
本体 1260円
2001/6
ISBN-4488282091
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「エンデュアランス号漂流」
評価:B
素晴らしいノンフィクションだ。それは間違いない。実際にあった出来事を、様々な資料と丁寧な取材をもとに、臨場感あふれる物語として描き出している。ありがちな体験記ではない。作者はこの出来事があった時点ではまだ生まれてもいなかった元ジャーナリストで冒険小説家だという。残っている日記や得られた証言をコラージュするような形になっているため、所々にそれを書いたり話したりした人の主観が出てくる。そのせいで全体的に見るとかえって、客観的でありながらリアルな物語に仕上がっているのだろう。しかも結末は絵に書いたようなハッピーエンド。これが小説なら、こんな終わらせ方はできないだろうと不思議な気がする。だけど映画化するにはいい題材かも知れないな。最近は実話を元にした映画ばかりが作られていることだし。
エンデュアランス号漂流 【新潮文庫】
アルフレッド・ランシング
本体 781円
2001/7
ISBN-4102222219
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「クリスタル」
評価:C+
これもシリーズ物だ。それもあとがきによるともう11作め。さすがに突然読みはじめるには辛い。あとがきも登場人物紹介欄も見ないで読みはじめたので、主な登場人物の性別すらわからない(ミシェルが男なのか女なのか最後までわからなかった)。それぞれの関係もおぼろげにしかつかめなかったし、なによりも主人公バークの抱えている問題がはっきりしなかった。だが、シリーズの読者にとっては面白い一冊なのかも知れないと思った。あるいは賛否の別れる一冊か。シリーズ自体の転機となる作品という印象を受けた。小道具としてのインターネットの取り上げ方が面白かった。しかも、主人公バークが自分ではまったく使えない所など、妙にリアルで可笑しい。
クリスタル 【ハヤカワ・ミステリ文庫】
アンドリュー・ヴァクス
本体 980円
2001/6
ISBN-4150796106
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