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内山 沙貴の<<書評>>
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「Twelve Y.O.」
評価:A
あまりにもすごすぎる光景を一瞬スクリーンに映し出してあっという間に消えてしまった白昼夢。展開の個々を見れば長すぎた、何がどうなっている?と感じるのに、物語はいたって単純、一つの思いに向かって突っ走る、ある事件のほんの一部分を語っているに過ぎない。どの人間も人間離れしているハードボイルド。しかしそれらの人間も超人や機械じゃなく人間として描かれているからスゴイ。物語自体も現実離れし過ぎてもはや「これくらいのことなら起こりうるかもしれない」という次元をゆうに超えてしまっているが読ませる。大掛りで立派で圧倒されるセットの中でも物怖じせずに生身の血の通った人間が堂々と大通りを歩く。好きな人には堪らない。多少気弱な主人公に物語が振りまわされている観はあるが。
【講談社文庫 】
福井晴敏
本体 648円
2001/6
ISBN-4062731665
●課題図書一覧
「小説中華そば「江ぐち」」
評価:C
なんだか懐かしい。懐かしすぎて泣ける。店の人に勝手にあだ名をつけていろんな想像を膨らませて、ちらちら横目でばれていないことをうかがいながらコソコソ背を丸めて囁き会う様はまるで小学生である。それがまた堪らなく懐かしい。ほのぼのしていて外界から守られ安息していられる場所。何も知らないくせに安心して騒いでバカなことをやっていられる時間、時代の中で、何が大切なのかをちゃんと分かっている。そんな懐かしさに男臭さで味付けしたようなおもしろい小説だった。
【新潮0H!文庫】
久住昌之
本体 486円
2001/6
ISBN-4102901027
●課題図書一覧
「バルタザールの遍歴」
評価:C
夢を見ているようだ。他人の生涯を翔けた、大輪の花が咲き誇る色鮮やかな夢。目の前に映る壮大で素敵な湿り気と色のある夢。ドキドキする。やはり人の物語とはそういうもの。そして胸がちくちく痛む。失われた想いともう二度と戻れない時代が我が身のことのように心を引き裂く。主人公たちの上手くいかない人生を眺めているしかない私は、嬉しいのか、悲しいのかもはやそれすら分からなくなる。しかし全体が未熟な感じがした。壮大なプロットと文章のミスマッチ、伏線とのミスマッチ。物語は巨石のように壮観で重たいのに細かな場所の未熟さが目に付く。この物語が完全に熟したものであれば、私は驚いたであろう、なんてずっしりとした立派な文学だろう、と。
【文春文庫】
佐藤亜紀
本体 600円
2001/6
ISBN-4167647028
●課題図書一覧
「ああ言えばこう食う」
評価:C
著者二人、云うこともやることもとにかくおもしろい。一応往復エッセイだが微妙に話がかみ合っていないところもまたおもしろい。なんか傑作なエッセイである、と感じる。家族という切っても切れない縁をちゃんと根本に持った二人に触れていると、普段は忘れてしまう大切な存在が身に染みてくる。ではこの二人の関係は何なのか。悪口を云う友?何を言っても平気な相手?私は二人のことをただの友人だと思う。気に入らないところは直させる。意地でも自分の意見は通す。本来友人とはこうあるべきではないかと思う。やりとりが活字になった瞬間言葉では見えにくかった相手への思いやりが見え隠れし始める。読んでいて気持ちのいいエッセイだった。
【集英社文庫】
阿川佐和子・檀ふみ
本体 514円
2001/6
ISBN-4087473317
●課題図書一覧
「夜のフロスト」
評価:B
“下品なジョーク”というオビを見ても敬遠しないでほしい。主人公や背景の前にどっしりと腰を据えた上質な事件と推理が描かれているのだから。事件はすべてわた雲のようにふわふわとしていた。わた雲に鋭いメスが入れられるはずもなく、しかし放っておいたら勝手にわた雲が答えの形になっていたというものすごい話である。こんなに分厚い本など読めるわけがないと思った方も待たれたい。長い長い1週間。いろんな事が起こったために1週間が何年も前のことに思えてしまう。なのに一瞬で週間前の情景が目に浮かぶ。これはそんな本だった。見た目は厚いが読み終わってみるとあっという間だったと感じる。よくこれだけのものをうまく収束させたものだと感心させられた。
【創元推理文庫】
R・D・ウィングフィールド
本体 1300円
2001/6
ISBN-4488291031
●課題図書一覧
「赦されざる罪」
評価:C
これもまたぶ厚い本だが長さを感じさせなかった。私の中ではあるべき姿のまま破綻せずにいる家族というのはなかなか想像が出来ないけれど、この本の主人公の家族はなぜか安心できる。“あるべき姿”なのかもしれない。題名が「赦されざる罪」、事件はまだ生まれたばかりの新生児誘拐という凶悪犯罪の相を呈していたが、収まるところはどこにでも在る人の影であり、WANTEDの張り紙に描かれた凶悪犯罪者ではない。忍び寄る手などなく、純然たる事実が残るのみのドライな捜査。ぞっとするような心は暴かれないし、それなりの救いの手は差し伸べられる。ひたすら暗い救いようのない推理小説かと思っていたのだが違った。おかしな云い方だが、安心できる推理小説だった。
【創元推理文庫】
フェイ・ケラーマン
本体 1260円
2001/6
ISBN-4488282091
●課題図書一覧
「エンデュアランス号漂流」
評価:B
まるで小説のような物語だ。ジュール=ヴェルヌのSFに劣らぬ冒険とスリルであった。雪の白と雲と海の灰色と黒。もう90年近くも昔のことであるのによく映えた白と黒と、大きくうごめく雲とうねる海の様子が厳しい冷気と共にぴりりと肌を指す。恐怖の爆弾を腹に抱え、それでも希望を捨てられなかった彼らはやはり冒険者なのだ。当たり前のように全員帰還してしまった。すごい。彼らは本物の英雄である。もっとたくさんの人々に知ってほしい、人類の誇りだと思う。
【新潮文庫】
アルフレッド・ランシング
本体 781円
2001/7
ISBN-4102222219
●課題図書一覧
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