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操上 恭子の<<書評>>
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「新青年」傑作選
「新青年」傑作選
【光文社文庫】
ミステリー文学資料館編
本体 800円
2002/2
ISBN-4334732828
評価:C
 掲載されている短編は、どれもよくまとまっていてそれなりに面白い。たが、ページ数が少ないせいもあるだろうが、謎解きが単純であったり、現在の感覚ではミステリとは呼べないであろう物が少なくない。日本の探偵小説の黎明期の作品を読むという資料的価値を考えなければ、それほど楽しめる物ではないと思う。だが、大事なのはその資料的価値のほうだ。この「幻の探偵雑誌シリーズ」に取り上げられている他の雑誌と違い、この「新青年」はミステリ専門誌ではない。にもかかわらず、現在のミステリを読んでいると、この「新青年」という雑誌名を一番多くで見聞きしていたように思う。そして、今回初めて、こういう小説の載る雑誌だったと知った。今度は是非「新青年」に掲載された翻訳小説を、当時のままの翻訳で読んでみたいなあ。

大正時代の身の上相談
大正時代の身の上相談
【ちくま文庫】
カタログハウス編
本体 680円
2002/2
ISBN-4480037101
評価:C
 理屈は抜きにして、単純に面白い。昔の人はこんなことを考えていたのだなあとか、あのころはこういう時代だったからなどといろいろ分析をするのもいいのだけれど、まあそういうことは抜きにして、何も考えずにただ面白がって読むのもいいんじゃないかと思う。もともとこういう公共の場に相談を持ちかける人というのは、答を得ることよりも自分の悩みを人に知ってもらうことが目的だと思うのだが、それに生真面目に答える当時の記者の回答と、わざと斜に構えている現在の編集者のコメントの対比が可笑しい。このコメントをつけた人の名前が載っていないのが残念だ。

シッピング・ニュース
シッピング・ニュース
【集英社文庫】
E・アニー・プルー
本体 895円
2002/2
ISBN-408760408X
評価:B
 映画の公開にあわせての文庫発売。こういう場合、本を先に読むか映画を先に観るか迷う所だと思うが、本作品に限っては、私は映画を先に観ることをお勧めする。本書の出だしの部分はかなり取っ付きにくい所があるし、ニュー・ファンドランドの情景なんて、決して簡単に想像できるものではないからだ。映画の方は、珍しく原作のエッセンスをうまく抽出してまとめてある。ちょっとラブストーリーに重きを置き過ぎだし、ケヴィン・スペーシーは格好よすぎるけれど。そして、その後で本書を読んで物語の背景をしみじみと噛み締めればいい。言ってしまえば、単なる30過ぎの冴えない男の成長物語なのだが、舞台となるニュー・ファンドランドのエキゾティックな魅力とあいまって、とても味わい深い小説に仕上がっている。

人にはススメられない仕事
人にはススメられない仕事
【角川文庫】
ジョー・R・ランズデール
本体 686円
2002/2
ISBN-404270106X
評価:B-
 二人組というのは物語の一つの原形なのだろうか。本シリーズのハップとレナードの二人組は、いろいろあっても対等な関係の友人同士という印象だったのだが、本書では情けないハップの面倒を万能のレナードがみているという感じになっている。同時に、ハップが根暗になったせいなのか、シリーズを貫いていた下品で破天荒なノリが薄れて、しみじみとした味わいが出てきている。私はこういうのも結構好きだ。ただ、レナードとブレッドという強烈な二つの個性に挟まれて、ハップの影が薄くなってしまっているのは残念だ。ブレッドもとても魅力的な女性なのだけど。やはり三人ではうまく行かないものなのか。 それにしてもアルマジロ。いいな〜。

いつかわたしに会いにきて
いつかわたしに会いにきて
【ハヤカワepi文庫】
エリカ・クラウス
本体 700円
2002/2
ISBN-4151200150
評価:C-
 最初は連作短編集なのかと思った。一つ一つの短編のエンディングがどうも中途半端に思えたから。だが、改めて読み返してみると、あえてそこで切ったのだとわかる。「それで結局どうなったの?」という疑問に答えはないのだ。作者はカタルシスを与えてくれない。読者は自分で考えなくてはいけないのだ。この放り出される感じを評価する人もいるのかも知れない。物語そのものには、どれもさほど目新しい物はない。結婚や子供、恋愛や情事に振り回される女達。だが、その肝心の女性像が今一つはっきりしない。読者がそれを自分に当てはめることができれば、感慨深い作品になるのかも知れない。私にはどうも消化不良が残ったが。

暗殺者
暗殺者
【講談社文庫】
G・ルッカ
本体 971円
2002/2
ISBN-4062733730
評価:B
 アティカス、かっこいい。最高。どうしてこんなに惚れっぽいんだろうと自分でも嫌になるけれど、私は小説の登場人物にすぐ惚れてしまう。実在の男は(俳優なども含めて)滅多に好きになることはないのに、不思議だ。それはともかく、本編のアティカスは、本当にいい。前作、前々作では、根暗でうじうじしていて全然魅力を感じなかった。本作でも、暗くていろいろ迷っていることには変わりがないのだが、何故かとても格好いいのだ。きっと、エリカという家族ができたことと、トレントやモウジャーといった敵役(というほどじゃないが)が明確になったことで、アティカス君も男として一本筋が通ったんだろうな。
 さて、本作は前作、前々作で私的にも仕事の上でも、大きなダメージをこうむったアティカスの再出発の物語だ。今後の活躍がとても楽しみである。

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