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佐久間 素子の<<書評>>
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愛なんか
愛なんか
【幻冬舎文庫】
唯川恵
本体 495円
2002/4
ISBN-4344402367
評価:C
 こういうのを読むと、改めてわからなくなる。これって恋愛小説なの?そもそも、恋愛って何だったっけ?共感を誘う話がおもしろいというわけでなく、共感を拒む話が退屈だというわけでもないのが不思議な12の短編集だ。巻頭の『夜が傷つける』と巻末の『ただ狂おしく』が、合わせ鏡のように見えてしまった。深くカラダにおりていく感じ。それだけで必要十分なただのカラダに返っていく感じ。いざというとき頭より心より信じられる、この体というものについて。同じことを語りながら、こんなにも離れている。その距離感が何より印象的だった。しかしこの短編集、私が好きな彼、ではなく、彼のことを好きな私、が肥大していくのがいずれも悲しいのだよね。

燻り
燻り
【講談社文庫】
黒川博行
本体 571円
2002/4
ISBN-406273415X
評価:C
 私はネイティブではないのだが、関西歴は丸9年、大阪だけでも5年目を迎えているので、自分では使えないにしろ、関西弁に違和感はない。ないはずなのだが、読みづらかったなあ。聞くと読むではやはり違うのだろうか。下手な俳優がしゃべっているように思えるのは、私の脳内音声変換装置がへっぽこなせいだろうけど。ピカレスクというには、あまりにしょぼいアウトローたちの野望をえがいた9編を収録。野望もせこい!じわりと情けなさがこみあげる。自己中心的なのに、憎めないのはそのせいか。『二兎を追う』の空き巣など、運の悪さも、ここまでくるとまぬけといういい例だ。おちで情けをかけず、ぽいと放り出して終わりというスタイルが、いっそ気持ちいい。

アトランティスのこころ
アトランティスのこころ
【新潮文庫】
スティーヴン・キング
(上)本体 781円
(下)本体 819円
2002/5
ISBN-4102193251
ISBN-410219326X
評価:A
 大好きな『スタンド・バイ・ミー』より、よかった。びっくりした。これはもしかして・・・と期待して映画まで見てしまったが、さわやかにまとめられてしまっていて、こちらはいまいち。暗さも重さもともに抱える原作のが格段にいい。読むべし。変わった形の連作集で、上巻はまるまる11才のボビーにおこった夏のできごとに費やされる。下巻の半分以上は、ボビーのガールフレンドだったキャロルと大学で出会ったピートの話。そして、ベトナム戦争を経て、大人になったいじめっこの話があり、ボビーの親友の話があり、またボビーにバトンがわたる。未来には無限の可能性があり、希望にみちあふれている。自分なんて卑小な存在でしかないと気づく絶望がある。若さ故の馬鹿さがある。若さ故の気高さがある。光があり、闇がある。愛があり、憎悪がある。これは、そうしたすべてを飲み込みつくす時間についての物語だ。だからこそ、全てが過去になったとき現れる「魔法」の美しさに胸がしめつけられるのだろう。

囁く谺
囁く谺
【創元推理文庫】
ミネット・ウォルターズ
本体 1100円
2002/4
ISBN-4488187056
評価:B
 食料のある家のガレージで餓死した浮浪者「ビリー」。浮浪者は誰なのか、何故この家を選んだのか、何故餓死なのか。過去に起こった失踪事件との関わりが浮上するも、さらに謎はもつれてしまう。実に読みごたえがある。正直、筋を追うのに必死だったが、脇役にいたるまで人物がくっきりしているため、物語が複雑な割には読みづらくはない。とりわけ、ホームレスの少年テリーの存在がうまく利いている。混沌とした世界にずかずかはいりこんでくる、饒舌で賢い少年はかわいいったらない。テリーが導いてくれなかったら、最後まで読みきれたかどうか。テリーといつも共に在るのに、ビリーのことは皆目わからない。ラスト、その真実は想像を越える。

神の街の殺人
神の街の殺人
【文春文庫】
トマス・H.クック
本体 638円
2002/4
ISBN-4167527995
評価:E
 最初から最後まで息ぬきするところがない。ずっと暗いし、どうにもこの思わせぶりな悲壮感が苦手なのだ。敬虔なモルモン教の街ソルトレークでおこる連続殺人。ニューヨークを捨ててきたものの、ソルトレークになじめない刑事トムは、組織に反発しながら真実を追う。でもって、たまに挿入される狂信的な殺人者の独白。あーあー人物もストーリーも定石どおりじゃん。

グランド・アヴェニュー
グランド・アヴェニュー
【文春文庫】
ジョイ・フィールディング
本体 771円
2002/4
ISBN-4167661012
評価:A
 四人は、2才前後の娘がいて、近所に住んでいるという共通点があって、友人となった。年齢も性格も生き方も違うのに、こんな曖昧な根拠で、四人はつながり、それは23年後、一人が殺されるまで続く。決して殺人にむかって話が進んでいくわけではない。犯人は誰なのか、なぜそんな事件がおこったのかを書くために、この小説が存在しているのではない。ここにあるのは、殺されるという人生だ。友情とは離れたところで、四人はそれぞれの人生を生きる。友情なんて他愛なくていい。だって、スーザンの母親のお葬式で、四人が下品な言葉を口に出しあって笑い転げる場面をみてよ。こんな些末なことで救われて、生きていく。この愚かな時間こそが何より必要なのだ。

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