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中川 大一の<<書評>>
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GOTH
GOTH
【角川書店】
乙一
本体 1,500円
2002/7
ISBN-4048733907
評価:B
 この作者の名前って、「乙」が姓で「一」が名? 「山田乙一」とか「乙山一彦」の省略形じゃなく?……負けた。私も、氏名の画数の少なさには自信もってたんだけどねぇ(失笑)。この人ならさぞかし速くサインが書けることでしょう(苦笑)。……閑話休題。オープニングはバラバラ殺人。それももう、思いっきりバラバラ。ところが不思議と恐怖感は湧かない。スプラッターじゃないからでしょう。また、グリム童話などの、ちょっと現実味を欠いた残虐性に通じるところがあるかも。一方、主人公たちにはまるで人間性が感じられない。それまた嫌悪感は湧かない。死への純粋な興味が凝り固まったような人物で、粘着質ではないからでしょう。ということで、全般にドライな感覚のホラーとしてさばさばと楽しめる。

斬られ権佐
斬られ権佐
【集英社】
宇江佐真理
本体 1,600円
2002/5
ISBN-4087745813
評価:B
 「中川さん、今月の『コンビニ・ララバイ』にはずいぶん辛い評価つけてますよね?」「えっ?」「本書も、同じく子どもや年寄りが出てくるし、登場人物の死によって泣かせる人情譚ですけどB。どう違うんです?」「こっちは、江戸時代」「そんなこと分かってます」「あっちは、現代」「分かってる、って言うのに! 結局、時代物が好きなんですか?」「どっちかって言うと、苦手」「じゃあ、伏線の張り方がいいとか」「伏線は、ない。そのまんまの話し」「謎解きが面白いとか?」「バレバレ」「じゃあ、どこがいいんです?」「すーっと、話しに入っていって」「ふんふん」「すーっと、話しから出てくる」「何じゃそりゃ。もっとちゃんと採点してくださいよ」「お父っつあん、あったかい…」「だめだ、こりゃ」

コンビニ・ララバイ
コンビニ・ララバイ
【集英社】
池永陽
本体 1.600円
2002/6
ISBN-4087745864
評価:D
 チープな、あまりにチープなストーリー。小説家が読者を泣かせたいとき、まず思いつく手段は? 一つ、登場人物を死なせること、二つ、登場人物の近親者を死なせること。では、小説家が読者を微笑ませたいとき、まず思いつく手段は? 一つ、いたいけな子どもを登場させること、二つ、か弱い年寄りを登場させること。(しつこいけど)次に、小説家が読者を怒らせたいとき、まず思いつく手段は? 馬鹿な若者に、子どもや年寄りをいじめさせることだろう(この手の愚かな若者=悪役という図式は、前作『ひらひら』にも出てきた)。だが、読者はパブロフの犬じゃないぞ。必ずしも、決まり切った道具立てで決まり切った感情が発動されるわけではあるまい。ベルとよだれとの間に、もう一ひねり所望。

石の中の蜘蛛
石の中の蜘蛛
【集英社】
浅暮三文
本体 1,700円
2002/6
ISBN-4087753034
評価:C
 人並みはずれた聴覚をもってしまった男が、「音」を頼りにある女を捜す。部屋の中に聴診器を当ててまわると、過去に住んでいた人間の足音や聴いていた音楽が聞こえてくる。そうすると歩幅から身長、体格、趣味嗜好まで分かるという仕掛けだ。また、鍵なんかもピンがシリンダーの内部に当たる音を聞きながら開けちゃう(この、マンションの扉を開錠するシーンは、とくにうまい)。なるほど現代は圧倒的な視覚優位の時代だから、こういう視点は面白い。でも、住人の尻の大きさやセックスの体位まで分かるのは一体どういうことか? 尻を乗っけてた場所は他と音が違うっていうんだが、それは聴力が鋭いんじゃなくって、単なる超能力でしょう。挑戦意欲はよろしいが、時々床を踏み抜いた、という感じでしょうか。

それでも、警官は微笑う
それでも、警官は微笑う
【講談社】
日明恩
本体 1,900円
2002/6
ISBN-4062112132
評価:B
 この作者の名前って、「たちもり めぐみ」って読むのか。本名かね? お〜い、全国の図書館司書の皆さ〜ん、蔵書カード作成、あるいはデータ入力のときはくれぐれも気をつけましょう。……閑話休題。主人公は、武骨な正義漢と、軟弱お笑い系の刑事コンビ。な〜んだ、パターンじゃん、と思うでしょ? ところが本作の魅力はいわゆる「キャラ立ち」のよさにある。硬骨漢がうじうじと思い悩んだり、軟弱者が突っ張ったり。その重層性が、彼らの生い立ちが描かれることによって、あざとさを感じさせずに頭に入ってくる。敵役もまたしかり。主役たちが追いかける悪の中味がかなり「ぬるい」のはやや難だが、これも、麻薬やテロなどの定型を脱するのに一役買っているとも言えましょう。

壜の中の手記
壜の中の手記
【晶文社】
ジェラード・カーシュ
本体 2,000円
2002/7
ISBN-4794927320
評価:B
 皮肉屋で近寄りがたい、おそらくはパイプをくわえて嫌味を撒き散らす――そんな著者の姿が目に浮かぶようだ。現実に付き合うのは御免だが、書いたものだけで接するのはわれら読者の特権。未開を嗤い、障害をしゃれのめす。王は道化と化し、死の商人が舌なめずり。マッド・サイエンティストは踊り、火星人がワープする。作者が目指したのは、一つには表題作で自らがなぞったアンブローズ・ビアスの作風であろう。黒い哄笑と紙一重のヒューマニズム。あるいはその逆。どちらが好きな人も、眉をひそめつつ楽しめる。40〜60年前の作品であるし、翻訳ものの常として、それほど読みやすいわけではない。でも、少々の忍耐の甲斐は十分ありましょう。

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