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松田 美樹の<<書評>>


都市伝説セピア
都市伝説セピア
【文藝春秋】
朱川湊人
定価 1,650円(税込)
2003/9
ISBN-4163222103
評価:C
 ホラーと言うと、どこか怖がらせよう怖がらせようとする意図が文章に見えかくれするのですが、この本に関しては淡々とあったことだけを書いているというような感じを受けました。どうだ恐いだろ?という話よりも、より恐さが迫ってくるような印象です。ただ、ホラーとはいっても、お化け屋敷的な恐さではなく、読み終わった後にひたひたと迫ってくる恐さと言えばいいでしょうか。1人で夜に読んだからといって、眠れなくなるような恐い話ではありません。
「アイスマン」「昨日公園」など5つのお話がありますが、中でも「死者恋」が一番無気味でした。若くして自殺してしまった青年の本を読んで、思春期の女の子2人が少女らしい理想を重ね合わせ、理想の男性像を作り上げていきます。初めは、ありがちな少女の思い込みの強さだけだったのが、少しずつ度を超していき、お互いに青年に近付こうとするそれぞれの方法に鳥肌が立ちました。

HELP!
HELP!
【光文社】
久美沙織
定価 1,470円(税込)
2003/9
ISBN-4334924069
評価:B
 久美沙織がコバルト文庫で少女小説を書いていた頃から読んでいる私にとって、この人の作品はキャラクターがいつもきちんと確立されてるなあと思います。すんなり世界に入ってすぐに理解ができるのが特徴でしょうか。
 表紙は、黒ぶちの牛を下からのアングルで撮っている写真。追い討ちをかけるように、帯には「良い乳(ミルク)だすわよ。」とあります。書店に並んでいるのを見た時は、何の話だ?と頭に疑問符がたくさん浮かびましたが、「搾乳ヘルパー」という耳なれない人たちが主人公のお話です。殺人事件あり、狂牛病騒動ありと、平和な下九一色村を次から次に襲う楽しい(?)毎日を描いています。読んでいるうちに、搾乳ヘルパーという仕事にも詳しくなれます。なーんにも考えずに、ぽんっとこの世界に入っちゃって下さい。

山ん中の獅見朋成雄
山ん中の獅見朋成雄
【講談社】
舞城王太郎
定価 1,575円(税込)
2003/9
ISBN-4062121131
評価:A
 いやー、変わったことを考えつく人がいるもんだ、というのが読後の感想。最初は、才能ある好青年が人生を切り開いて行くっていうストーリーかなって思いながら読んでいたのが、途中から「異世界」が少しずつ流れ込んできて、「何だ?」と思っているうちに、主人公(獅見朋成雄)は何の躊躇もなく「異世界」に行ってしまうし、突拍子もない行動に出るしで、どんどん違う世界に飛んで行く話に付いていくのが大変でした。難点は、ラストシーンがちょっと説明不足なこと。対立する2人の言い分がよくわかりませんでした。
 舞城王太郎は初めて読みましたが、いつもこんな感じなんでしょうか。ちょっと癖になりそうな独特の味わいがある作家です。今まで全然気が付きませんでしたが、他にも何冊か出版されているようなので、遅蒔きながら注目の作家の1人となりそうです。

東京湾景
東京湾景
【新潮社】
吉田修一
定価 1,470円(税込)
2003/10
ISBN-4104628018
評価:B
 出会い系サイトで知り合った亮介と美緒のラブストーリー。「出会い系サイト」というだけで、何だか純粋な恋じゃないような、肉体的な繋がりだけを求めているような印象を受けますが、純粋で自分の気持ちを素直に表現できない不器用な2人のラブストーリーです。
 吉田修一らしく、恋愛小説とはいえ、生々しいところはなく、どこか醒めた、自分のことなのに1歩下がったところから見つめているような感じは変わりません。だからこそ、すんなりとは上手くいかない恋にもどかしさがあり、せつなさが増しているような気がしました。出会いが出会いなだけに、信じたいのに信じられない、そんな気持ちがさらに恋しさを募らせ、せつない恋を演出する上手い設定になっています。ストーリーの中で時々描かれる東京湾(夕暮れ時だったり、夜だったり、明け方だったり)が美しい。

天正マクベス
天正マクベス
【原書房】
山田正紀
定価 1,995円(税込)
2003/9
ISBN-4562036834
評価:A
 織田信長が統治する時代に、あのシェイクスピアが日本に来ていた!?という変わった設定のお話です。信長の甥・信耀とジャグスペア(シェイクスピア)、道化師・猿阿弥の3人が出会うミステリ。
 時代に合わせて、台詞は「信耀様はいずこにおわすや」などなど古めかしい言葉遣い。最初は読みづらいかな?と恐る恐る手に取りましたが、だんだん言葉の調子がぴたっとハマり、彼らが現代語で話してた方が違和感を感じただろうなと最後は思うまでになりました。
 ミステリについては、この時代だからこそできるトリックがあり、時代小説が舞台だとこういうことができるのねと感心。不思議な能力を持つ人物たちが魅力的に映りこそすれ違和感がなかったのも時代背景を味方に付けた作者のなせる技でしょうか。

太ったんでないのッ!?
太ったんでないのッ!?
【世界文化社】
檀ふみ・阿川佐和子
定価 1,365円(税込)
2003/9
ISBN-441803515X
評価:B
 おなじみ檀ふみと阿川佐和子の凸凹コンビが放つ往復エッセイ。今回のテーマは「食」。フグの白子のリゾットからクジラ、トロ、ワイン、クレームブリュレなどなど、お2人とも食べる食べる。でも「○○レストランの××は、口当たりがまろやかで最高!」なんていうのでは勿論なくて(そういうのも中にはありますが)、沖縄から臭い島ラッキョウを(引き止められたのにもかかわらず)持ち帰る話や、「アジの干物と納豆と青菜漬け物の茶漬け」(いったいどんな味???)など、ふふふ、あるいはハハハッ、もしくはでへへへっと思わず笑ってしまうエピソードがいっぱいです。
 お互いの欠点や弱点を暴露しながらも(時々、いいの?と心配になる)、ちゃかすことのできる友達関係ってうらやましいなと思ったりも。それぞれでも楽しい2人なんですが、コンビになることでさらにパワーアップしています。