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藤川 佳子の<<書評>>



雷桜
雷桜
【角川文庫】
宇江佐真理
定価 580円(税込)
2004/2
ISBN-404373901X
評価:B
 赤ん坊の時に誘拐され、15年間山奧で男のように育てられた豪農の娘と心が病んでる殿様との恋…、と聞いただけでときめいてしまいます。狼女と呼ばれるほど男勝りな主人公・遊と徳川の血を受け継ぐ斉道との恋、そしてなぜ遊は15年前にさらわれたのかという謎が「桜(雷桜)」を鍵として展開していきます。二人の恋の幸せな時間も、桜のようにはかなく散っていき…。
春に桜にちなんだ本を読む。風流じゃないですか。季節にちなんだ本を読むというのも乙なもんです。またひとつ、読書の楽しみ方を覚えてしまいました。
本文は良かったのですが、解説を読んでテンションが下がってしまったのでB。

東京アウトサイダーズ
東京アウトサイダーズ
【角川文庫】
R・ホワイティング
定価 740円(税込)
2004/1
ISBN-4042471056
評価:A
 「東京アンダーワールド」を読んでいたので手に取りました。前回同様の読みごたえ、大物の名前はバンバン出てくるわ不良ガイジンたちは相変わらず暴れまくるわで、ため息をつきながら読みました。大人になったら、こんな風に東京ナイトライフを謳歌するはずだったんだけどな…。
私はこのシリーズを日本の裏戦後史として読んでいます。日本は戦争でアメリカに負け、その後50年以上もアメリカの影響をもろに受け続けています。日本とアメリカの関係はやはり特別なものなのだと思うし、日本はアメリカに冒され続けていると言われれば、そんな気もしないでもない…。けれども、「東京アウトサイダーズ」の中には傍若無人な不良ガイジンたちの間を、下心いっぱいでウロチョロするしたたかな日本人の姿もあり、そんな彼らが実に頼もしく見えてしまいます。「悪」と「感動」に国境はない!
人類みな平等という言葉が思い浮かぶ一冊です。
「東京アンダーワールド」も、続編「東京アウトサイダーズ」も、とくに若い人に読んでもらいたい。

幕末あどれさん
幕末あどれさん
【PHP文庫】
松井今朝子
定価 980円(税込)
2004/2
ISBN-4569661092
評価:A
 物語の二つの柱、宗八郎と源之介は共に武家の次男坊。家を継げない彼らはそれぞれに将来の道を探します。宗八郎は尊皇攘夷の風を避けるように芝居町へ入り浸り、あげく舞台作家の元へ弟子入りをし、源之介は陸軍に入隊して刀を鉄砲へ持ち替え幕府のために戦います。
幕末といえば「坂本竜馬」か「新選組」、幕末と芝居、幕末と陸軍という組み合わせはすごく新鮮。あの動乱を歴史の登場人物以外はどんな風に感じていたのかを初めて考えました。例えば、自分が生粋の江戸っ子だとして、西郷どんみたいな田舎侍たちがいつの間にか江戸の町を我が物顔で闊歩していたら…、やっぱり嫌だし腹も立つだろうな、と。そんな風に明治維新をとらえてみると、歴史を身近に感じてしまいます。大きな時代の流れを前に、一人の庶民の力なんてたかが知れているけど、それでも若いうちは流れから外れようとしたり、流れに立ち向かってみたり、とりあえずジタバタするべきでは。流されっぱなしだとアタマがパーになっちゃいそう。二人のあどれさんの生き方を読んで、そんなことを思ってみました。

心では重すぎる
心では重すぎる(上・下)
【文春文庫】
大沢在昌
定価 (各)660円(税込)
2004/1
ISBN-416767601X
ISBN-4167676028
評価:AA
 今月、いちばん面白く読めた本です。ハードボイルドはちょっと…、と敬遠していたのですが父が執拗に「貸してくれ」とせがむので、これは何かあると思い、読んでみたら没頭。
上下巻あるような長編だと、どこかで必ず飽きてしまうのですが今回は一気に読んでしまいました。お話のうねりにどんどん飲み込まれていく、というかんじです。
解説にもありましたが、作者の世の中に対するやり場の無い憤りみたいなものを感じました。何かを訴えたくてしようがない、でもその思いが先行することなく、物語りの面白さとうまく拮抗していて、スッキリした読後感のなかにもズシリと残るものがあります。FBIだのCIAだのが出てこないからリアリティがあって、本当に今こんな事件が起きているんじゃないかと思ってしまいます。だから込められたメッセージが胸にくるんですよね。登場人物の職業もバラエティに富んでいて、世の中の知らないことを知れたというお得感もありました。本当に面白かった!

サハラ砂漠の王子さま
サハラ砂漠の王子さま
【幻冬舎文庫】
たかのてるこ
定価 600円(税込)
2004/2
ISBN-4344404858
評価:A
 失礼ながら、てるこさんにシンパシーを感じております。辛かった就職活動、恋にオクテな性格…。自分と重なる部分があるように思われ、感情移入しまくりで読んでしまいました。あぁ、旅立ちたい! 
一人旅の女性がモロッコへ上陸するとどうなるか…。もう、がんがん色目で見られちゃうわけです。どこへ行っても、どんなに警戒していてもレイプまがいのことをされそうになってしまうのです。自分は女で、女は弱くて男に襲われる立場にあるということをことごとく思い知らされてしまう。日本で普段、「おまえはホントに色気ないな」とか言われている女性ほど、そういう事態にショックを受けてしまうのではないかしら…。そんな時に、颯爽とキアヌ・リーブス似のスペイン人が現れるわけです。さっきまで自分が女であることにほとほと嫌気が差していたてるこさんが、キアヌにコロっと恋しちゃうわけですよ。だって、キアヌは行動力と生命力に溢れた超イイ男なんです。しかもサハラ砂漠へ行く途中に出会ってしまうのです。さぁ、キアヌとの恋の行方は…!? 男っ気ゼロ、無意味なほどに清い生活を営んでいる私にとって、ちょっと刺激が強すぎたかな…。
『クラブ神助』でも、ラオス人の兄ちゃんとすったもんだの恋騒動を繰り広げていたし(その時も鼻血寸前でテレビに釘付け)、まさに「恋する旅人」!
恋と旅に飢えている方、人間不信に今まさになりそうな方におすすめです。