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勝手に目利き
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藤川 佳子の<<書評>>


暗黒童話

暗黒童話
【集英社文庫】
乙一
定価 619
円(税込)
2004/5
ISBN-4087476952

評価:B
 ゾゾゾと痛い物語。残酷さとエグさが、いかにも現代っぽいお話です。左の目ん玉と同時に記憶を失った主人公の少女が、新しい目ん玉を移植されたことで、その目の持ち主だった少年が生前に見た殺人事件を左目を通して知ってしまい…。
 また目ん玉だよ! 『逃亡作法』でも目ん玉飛び出てたよな。目玉をくり抜いたり、目玉が飛び出たりって、ビジュアル的に一番オェっときませんか? しかもですね、手足を切断されたまま袋詰めになって生きてる女の子や、胴体同士をくっつけられた男女カップルなどが登場するんです。おぉー、駄目だー、読めない。いや、最後までもちろん読みましたよ。指と指の隙間からそーっとね。
 こういう残酷な描写がお好きな方にはオススメです。

笑うニュ−ヨ−クDANGER

笑うニュ−ヨ−クDANGER
【講談社文庫】
竹内玲子
定価 700
円(税込)
2004/5
ISBN-4062747766

評価:B
 『鎮魂歌』を読んで、こんがらがった頭をどうにかスッキリさせたいと思い、思わず手に取った一冊。なーんも考えずに、あははと読み進めるのも、これ読書の楽しみ方のひとつ。ニューヨークをこよなく愛す著者・玲子ことリンコとそのヘンテコな仲間たちのおかしな日常がテンポ良く描かれています。ドラマや映画で見たようなあんなこと、こんなことをリンコが体験すると…。身近でそれでいて新鮮なニューヨークの風景が目の前に広がります。

キャパ その戦い

キャパ その戦い
【文春文庫】
リチャード・ホイーラン
定価 620
円(税込)
2004/4
ISBN-4167651408

評価:A
 ものを知らないこの私、実はキャパの存在をしったのもつい最近のことなんです…。そんな私でも銃に撃たれた瞬間の兵士が留まっている「崩れ落ちる兵士」の写真ぐらい、まぁなんとか知っており…。それがなに、贋作!? ホンモノ? ヤラセ? どっちにしても良い写真だと思うけど…。
 戦争写真家として徐々に名声を得ていくキャパの姿が描かれています。戦争やジャーナリズムというものを、もう一度よく考えてみたくなる一冊です。

鎮魂歌

鎮魂歌
【ハヤカワ文庫FT】
グレアム・ジョイス
定価 882
円(税込)
2004/5
ISBN-4150203644

評価:AA
 愛や性や宗教について、とても深く考えさせられた一冊です。物語の舞台となるエルサレムの熱気が字間から行間からムンムンと伝わってきて、ちょっと読んだだけで目眩を起こしてしまいました。荘厳かつスキャンダラス! 
 妻を亡くした主人公が、女友達を訪ねてエルサレムへ赴くところからお話は始まります。亡き妻が死ぬ前に夫婦で行きたいと熱望したエルサレムで、主人公の男性は少しずつ妻の幻(その他もろもろ)に惑わされていきます。キリストにまつわる死海文書も相まって、話は思わぬ展開へ…。キリスト教圏で、今もなお根付き続けるキリストの教えの強さを改めて感じました。
 眠れない熱帯夜に、ぜひ。

世界の涯の物語

世界の涯の物語
【河出文庫】
ロード・ダンセイニ
定価 893
円(税込)
2004/4
ISBN-4309462421

評価:A
 子どもの頃『トルストイこどものための本』やアンデルセンを読んだことを思い出しました。子ども時代に培ったなにかを刺激するような、不思議な物語の数々。大人になって再びファンタジイを読むと、あの頃と同じような感覚に陥る部分もあるし、そうでない部分もあり、自分自身を測る上での格好のメジャーと言えるかも知れませんね。