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藤川 佳子の<<書評>>



脚美人

脚美人
【講談社文庫】
宇佐美游
定価 490
円(税込)
2004/6
ISBN-4062747979

評価:A
 宇佐美さんは女性の「弁慶の泣き所」をうまーく突く作品を書かれるなぁ、と思います。競馬で当たった47万3千円を脚の整形に使おう、という主人公の発想がニクイ。脚ってなかなか痩せないからね、足さえ細くなれば……、って思っている女性が世に何人いることか。
「調子のいい女」でも、女同士の複雑な友情が描かれていたけど、ここでも女同士の表立って言って欲しくないような、あまり美しくない友情が書かれています。

十八の夏

十八の夏
【双葉文庫】
光原百合
定価 600
円(税込)
2004/6
ISBN-4575509477

評価:A
 オトナだよなー、この主人公の男の子。私の18の夏ってどんなだったかな? もう、忘れてしまいました。
 18歳ってなんだか特別な年齢ですよね。オトナでもなく子供でもない宙ぶらりんな状態がとっても色っぽいっていうか……。反対にすごく大人びているというか。
 そんな18歳の夏に起こった、甘くて切ない事件。最後のタネ明かしで、胸がキュンとなったらアナタもまだまだ青春中ということです。

沈黙博物館

沈黙博物館
【ちくま文庫】
小川洋子
定価 714
円(税込)
2004/6
ISBN-4480039635

評価:AA
 亡くなった人の遺品を展示物とする世界で唯一の博物館を建設するため、とある小さな町に訪れた主人公。町で誰かがなくなるとその人を一番表す物を遺品としてこっそりと持ち出し、博物館の展示物として収集していくのです。そんな盗人のような行為に戸惑いを感じながらも主人公は「死」というものを受け入れていきます。
 生きるとか死ぬとかいう重苦しいテーマも、小川洋子さんの手に掛かると、こんなにも幻想的な物語りになってしまうのですね。静かで優しい空気に満ちている小川ワールドは本書でも健在です。

蹴りたい田中

蹴りたい田中
【ハヤカワ文庫JA】
田中啓文
定価 735
円(税込)
2004/6
ISBN-4150307628

評価:A
 まさかこの作品が茶川賞を獲るなんて! 日本の文壇もずいぶんと進んだ……、いや、崩壊したのか? 敗戦間近の日本の軍隊を舞台にした、異色の問題作。大和魂とSFが出会うとこんな物語が出来上がるのか……。最後のオチに度肝を抜かれること間違いなし! でも、なんで艦隊の名前が〈和紀〉なのか、私には良くわかりません……。

悪魔はあくまで悪魔である

悪魔はあくまで悪魔である
【ちくま文庫】
都筑道夫
定価1,365
円(税込)
2004/5
ISBN-448003966X

評価:A
 「恐怖小説」という言葉のぴったりな小説です。もしかすると、怪奇現象のほとんどは、人間がこの世に残した恨みつらみが原因なのかもしれませんね……。あれこれ科学の理屈をこねるホラー小説もいいけど、人の情が怪奇現象のすべての発端というシンプルな小説もいいもんですね。夏の納涼に。