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夜をゆく飛行機
夜をゆく飛行機
角田 光代(著)
【中央公論新社】
定価1575円(税込)
2006年7月
ISBN-4120037525
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  清水 裕美子
 
評価:★★★★☆
 角田光代さんが気になる。なぜなら女性誌等で占星術師の鏡リュウジにホロスコープ解読指南を受け始めて、ちょっと変わったような気がするから。髪型が変わったのも、新作の内容も、伊藤たかみ氏芥川賞受賞も何だか影響あったんじゃあ?とその影を見つけたくて躍起になっています。関係ないですか。そうですね。
 小説の方は(すいません)酒屋の谷島家の4姉妹が登場。筆者の色々な部分を分けてあるのかな〜と思いながら、駆け落ち、小説家、玉の輿狙い、空想女子高生、そして末の弟への語りかけを……楽しく拝読する。主人公里々子の『残酷な気分の最高峰』や、登場人物の受け答えの絶妙な間合い、恋をされている人たちと恋をしている人たちがガラス戸で隔てられた部屋の様子など、スケッチされる家族の行く道をしみじみ味わう。薄い感想ですが、占い要素は見つけられませんでした。
 読後感:何となく楽しい飲み会の後のような

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  島田 美里
 
評価:★★★☆☆
 家族にまつわる思い出の品を処分するときのような、ちょっとセンチメンタルな気持ちがこみあげてくる物語だ。
 大きなスーパーマーケットに経営を圧迫されている、小さな酒屋が舞台。両親と4人姉妹の6人家族のゆるやかな変化が、四女の里々子の語りで描かれる。読者の生き方を変えるほど劇的ではないけれど、今ここにある家族の態様は永遠ではないってことを覚悟させられたような気がした。次女の寿子が書いた、自分の家族をネタにした小説が賞を取ったことがきっかけで、長女は夫と不仲になり、三女は酒屋を建て直そうとし、末っ子の里々子は実らぬ恋をする。それぞれの人生が複雑化していくと、それまでの家族の空気感も変わってしまうところが寂しい。
 今まで生きてきた軌道から少しずつ離れて、次のステージにいく感じが、学校の卒業みたいだなと思った。学舎を後にするときの、楽しい記憶とさよならし難い気持ちを思い出す。後ろ向きにも前向きにもなれない読後感だった。それを味わうべき作品なのかもしれないけれど。

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  佐久間 素子
 
評価:★★★☆☆
 縁がなくて、著者の作品はほぼ初読。本好きの例にもれず、私は書評を読むのも好きなので、著者ほどの有名作家ともなれば、作風についても色々予備知識があるはずなのだけれど、不思議と印象に残っていない。今回、自分で読んでみて、なんとなく納得。だって、感想書きづらいんだもん。喜劇的すぎず、悲劇的すぎない。現実的すぎず、空想的すぎない。しかし、カテゴライズしがたいという曖昧さは、小説においては立派な長所に違いない。どこにも属さない、このぱっと見、平凡な物語の深さは、結局読まなきゃわからないのだ。
 本書は、小さな酒屋を営む一家におこるできごとを、四人姉妹の末っ子が語るという家族小説なのだが、この設定にして、ちっともハートウォーミングじゃないのが新鮮だ。語り手の里々子は辛辣だし、観察眼もシビア。でも、年相応に感傷的な部分もあって、たまに顔を出す、そのやわらかさに刺激されてしまう。変わらないということは、さほど価値あることじゃない。ゆっくり時間をかけて、家族という幻想に別れを告げたあとには、きっと新しい関係が待っているのだ。

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  延命 ゆり子
 
評価:★★★★★
 ひどい郷愁を感じた。私は4人姉妹でもないし、酒屋の娘でもない。家には物干し台もなかったし、正月に親戚中が集まることもなかった。なのにこんなに懐かしいのはなぜ?懐かしくてせつなくて、泣きたくなるのはなぜ。
 谷島酒店の高校生の4女、里々子が語る家族の話。退屈で平凡なはずのその家族に様々な事件が訪れ、知らず知らずその形は変わってゆく。長女は夫のいる家から飛び出してくるし、次女は家族のことを小説に書いて賞をもらう。3女は酒屋の改装計画に夢中で、父と母はなんだか小さく頼りなくなる。
 小さい頃。父と母はいつでもそこにいて、安定していて絶対的で、ひどく退屈な存在だった。家族とは、空気のようにそこにあるもので、無数の会話の中に沢山の苛立ちと安らぎがあった。いつからだろう。両親もただの迷える男女に過ぎず、ひどく小さい存在であることを知ったのは。絶対的な家族が危ういバランスの上で成り立っていたものだと知ったのは。だからこそ、この家族のおろかで理不尽で不器用な生き方が愛しくてたまらない。その日々は二度と戻らないことを今は知っているから。

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  新冨 麻衣子
 
評価:★★★★★
 主人公は酒屋の四女で高校生の里々子。長女はすでに結婚して家を出た有子、次女は引きこもりがちな寿子、三女は物干し台をルーフバルコニーと呼び読者モデルに憧れる素子、そして学歴にコンプレックスを抱く父親と母親。変わることのないと思われた家族の変容がじっくりと描かれる。
 ここで描かれるのは、<家族>の変化である。時を経るにつれ<家族>が変化していくことを、わかっていても認めたくない、心の中にある<家族>のままであってほしいと、実は誰もが思っていると思う。成長した子供である自分自身が壊していることを認識しながら、<家族>の変化をすでに知っている親よりもずっと、変化してほしくないと願う、その丁寧に描かれた気持が切ない。
 この作品に関しては「読んでほしい!」というしかないです。損はさせません。

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  細野 淳
 
評価:★★★☆☆
 女ばかりの四人姉妹がいる家族。自分にとっては最も遠い家族の形態のように感じる。家に男ばかりいる家庭で育った人たちにとっては、多分、全く未知の世界。ともあれ、そんな家族の移り変わりを、一番末っ子の娘、里々子の視点から描いた作品だ。
 末っ子とはいえ、主人公はかなりしっかりとした存在。ただ、どちらかといえばおとなしくて、ひっそりと生きているような人物だ。それに対して、三人の姉たちの方は存在感があるし、各々のエピソードには事欠かない。そんな姉たちをはじめ、家族が様々な事件を家庭に持ち込んでくる。でも文体自体はどこか、ひっそりとした雰囲気。末っ子である主人公の視点がそのようにさせているのだ。
 一番好きな登場人物は、主人公の父親。頑固者で、家族を揺るがす大きな事件があったときにこそ、自分自身の生活スタイルを変えたくない、と言い張るような人物。そんな妙な意地の張り方、何だか男らして共感してしまうのだ。

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