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きみがくれたぼくの星空
きみがくれたぼくの星空
ロレンツォ・リカルツィ(著)
【河出書房新社】
定価1680円(税込)
2006年6月
ISBN-4309204619
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  清水 裕美子
 
評価:★★★★★
 妻を亡くし、老いぼれてしょぼくれた学者トンマーゾが老人ホームで天井の節穴を見ながらぼやく日記。介護師の名前を忘れる、トイレに行かなくていいことも忘れる。出来ないこと、自分の衰えへの嘆き、つらい毎日が描かれる。そして80歳の彼はエレナに恋をする。
 章が変わり、別の人物がトンマーゾのその後を語る。ブラボー!と叫びたいくらいトンマーゾの中に起こった変化に大興奮する。いくつになっても変化できる、それが半身麻痺の状態であっても。人格地殻変動音がバリバリ!くらいの変化は、恋だよ恋! 愛だよ愛!と大発見したような気分になる。エレナの愛とトンマーゾの素敵さが心憎い。
 読後感:超々々々口コミ発信機発動!なオススメ度

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  島田 美里
 
評価:★★★★★
 老後のこと、考えてますか? こんな風に書くと、保険のCMみたいだが、老後に備えるなら、この本を読むことをおすすめしたい。
 年老いたら、後は死を待つだけと思ったら大間違い。老人ホームに入居している80代のトンマーゾのように、70代のエレナと恋に落ちることだってできるのだ。ただ、老いには、気が滅入ることもつきまとう。トンマーゾのいる老人ホームでは、老人たちがささいなことで争ったり、ある老婆は、今は亡き娘を捜して徘徊する。年を取ると、ますます頑なになるところが悲しい。だけど裏を返せば、年老いて社会生活を引退しても、自分の中から湧き出る思いは途切れないのだとも言える。体が不自由なトンマーゾと、病を抱えるエレナは、ただ心細いからじゃなくて、心から相手を思うからこそ一緒にいるのだ。
 このふたりに、人生は青年期であっても老年期であっても値打ちは同じだと教えられた気がする。80年のうち、どの1年を抜き出して比べても等価値なのだと思ったら、年を重ねることも怖くなくなってきた。

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  松本 かおり
 
評価:★★★★★
 老人ホームに暮らす主人公・トンマーゾは、80歳にして恋に落ちる。お相手の「エレナ・マッティは七十七歳で、とても美しい人」。ふたりは「年が若かったらこうはいかない」やり方で、ゆっくりと親密な関係を築いていく。トンマーゾへの誕生日プレゼントや、彼宛ての手紙から伺えるエレナの賢明さと愛情の細やかさは、とりわけ印象に残る。
 また、理学療法士・ステファノが、トンマーゾの劇的な恋愛以後を綴った最終章は必読。もはやトンマーゾは単なる恋する老人ではない。たとえば彼は言う。「もう手遅れだという日を待っていないでくれ。そんな日は遠からずかならずやって来る。その日になったら気がつくだろう」「人生はもう、わずかな部分を残して、生き直すこともできなくなっていることに。その日になって後悔しないでほしい」。長きに渡って喜怒哀楽を味わい尽くし、しかも老い先短い<人生の先達>としての彼の言葉に説教臭さは微塵もない。経験からくる事実の重みにただ打たれるのみ。最期まで自分自身を生きたトンマーゾは、幸せな男だ。

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  新冨 麻衣子
 
評価:★★★★★
 子供もなく妻にも先立たれ独り身の「ぼく」ことトンマーゾ・ペレツは、脳血栓による半身不随で老人ホームに入ることに。もと研究者で若い頃から気難しく皮肉屋であった「ぼく」はホームに入居して以降さらにその皮肉っぷりに磨きがかかり、職員からは「ミスタークソッタレ」と呼ばれるほどだ(職員に向かって「クソッタレ」と吐き捨ててるからなのだが)。そんな「ぼく」を支えていたのは、同じ入居者の女性エレナの存在だ。二人は夫婦のように寄り添いながら、お互い素直に愛情を示すことができずにいた……。
 著者は自身で老人ホームを運営していたとあって、この物語の大部分の舞台である老人ホームの雰囲気や、面会に来る家族の描写などのリアリティは圧倒的だ。<老い>によって抑制の外れた、生々しい感情がぶつかりあう様を描くエピソードは秀悦。シニカルな「ぼく」を視点とすることによって、それらはユーモラスに描かれる。またエレナとの恋を自覚することによって、どんどん前向きになる「ぼく」の豹変ぶりも、人間そのものがむき出しになっていて目を背けたくなるような生々しさがある。80歳を過ぎてなお成長する人間の姿は、心強くてハートフルなのだ。

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  細野 淳
 
評価:★★★★★
 恋愛小説、特に純愛ものは全般的に苦手なのだけれども、この物語は別。読んで良かった、と素直に喜ぶことができる本だ。
 脳梗塞を起こして体が不自由になってしまい、老人ホームに入ることになった主人公。かつては学者として研究の第一線で活躍していたのに、オシメをし、介護を受けなければ生活できないような立場の人間となってしまう。入所してからしばらくの間は周囲に心を閉ざし、誰とも口を聞かずにいた。だが、同じ入所者の一人の老女と出会うことによって、少しずつそのような態度を変えていく。
 主人公がまるで子供のように老女に対して嫉妬する場面も面白いし、老人ホームでの他の人物たちのしぐさをユーモラスに描いているところも面白い。でも、それと同時に悲しくもあり、また勇気づけられる物語でもあるのだ。舞台が老人ホームという限定された場所であるが、そこに収められた人間模様は濃い。人生の様々な味わい・喜怒哀楽、そして醍醐味が詰まっている小説であるのだ。

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