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勝手に目利き
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ボトルネック
ボトルネック
米澤 穂信(著)
【新潮社】
定価1470円(税込)
2006年8月
ISBN-4103014717
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  小松 むつみ
 
評価:★★
 ガールフレンドが死んだ場所で、ふいの眩暈に襲われ、目覚めるとそこは、そのガールフレンドが生きている世界だった。運命の分かれ道の、右の世界と左の世界――交わるはずのない世界への、『ねじれの扉』を抜けてしまった『僕』は、そこで図らずも自らの真の姿を見ることに。
 でも、どうでしょう? それは高校生の「僕」には余りに辛すぎる答えではないですか? 
 誰でも、お互いの人生に関わり、関わられながら生きている。たったひとつでも、選んだ道が違えば、その後の人生はまったく別のものかもしれない。生死を分かつほどの選択を、実は日々迫られている。
 もうひとつの世界で出会った、生まれなかったはずの『姉』に引っ張られ、少しずつもつれたロープを解いていく。
 すごーくアイデアはいいと思う。買う!でも、ちょっと入れ物が……。仕掛けのわりに、立ち回る世界が意外と狭いのが残念だった。
 これで、どうやって終わるのだろうと、へんなところに興味津々で読みすすめてしまった。う〜ん、やっぱりちょっと風呂敷広げすぎたよね。

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  神田 宏
 
評価:★★★
 お互い家の外に恋人のいる両親と、「自分探しの旅」に出かけ事故にあい死んでしまう平凡でステレオタイプな兄。そんな兄を見下す事で溜飲を下げている主人公。破産した「ヒューマニスト」の父と、そんな父に愛想を尽かして出て行った「モラリスト」の母のようにはなりたくないと「何にでもなくなる」恋人のノゾミ。「フツー」だからこそひとの不幸に興味のあるノゾミの友人、フミカ。そんな現実が、生まれる事が無かった、主人公の姉、サキのいる世界では両親はいがみ合うことなく、兄も生きていて、そして恋人のノゾミまでが天真爛漫だった。存在しない世界にまぎれ込んだ主人公は「生きたくない」と自分を呪うようになるが……。
 現在の若者たちの青春と浮遊感、寄る辺なさを描いた傑作ミステリです。自分が不幸だと思っている君に一読を薦めます。

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  福井 雅子
 
評価:★★
 恋人を弔うために事故現場に行ったリョウが、自分が生まれずに代わりに「姉」が生まれた世界へと迷い込むパラレルワールド+ミステリー+青春小説の作品。
 パラレルワールド・ミステリーものとしては途中までかなり面白く読めていたが、結末がやや難解に感じた。いろいろな読み方ができるということなのかもしれないが、なんだか納得できないようなモヤモヤ感が残ってしまった。そして、読後感が重い……。本を閉じるときに「はあ……」というタメイキとともに体が重くなる感じ。ただしこれは好みの問題なので、その重さがイイ!という人にはおすすめできる。文章は淡々としたリズムを持っていて読みやすいと思った。

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  小室 まどか
 
評価:★★
 『素晴らしき哉、人生』という映画をご存知か――度重なる不運と失敗に絶望して自殺を図ろうとしていたお人好しの男が、天使の導きで自分の存在しない世界を覗くことで、かけがえのない存在としての自分に気づくという、アメリカ映画の名作だ。
 『ボトルネック』の主人公リョウも、自分の生まれなかった世界に足を踏み入れてしまう。普段は意識していない他人の人生に、ちっぽけなはずのひとりの人間が、どれだけの影響を及ぼしているか、というテーマは上記の映画と同じだが、その影響の方向がネックになる。
 ミステリ的要素も織り込まれ、リョウとともに、もうひとりの主人公「サキ」の行動力と魅力に引っ張られる。不条理な設定になんとなく不穏な予感を感じつつも、終盤までホラーだと確信できなかったこの話運びのうまさには脱帽。しかし、それに対比して、不自然なまでの急展開の上で読者にすべてを投げた結末は、殊更後味が悪く、残念だった。青春の陰の部分を描くには、リョウのむしろ疲弊した中年のような性格設定に難があったか。

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  磯部 智子
 
評価:★★★★
 東尋坊、金沢、冬の北陸の空の色はどんよりとした鉛色。表紙に描かれた薄青い空を見ながら思う、時々しか現れなかったこんな空が貴重だったと。2年前に死んだノゾミを弔う為に訪れた東尋坊で「ぼく」は強い眩暈に襲われた。気がつけば金沢に戻っていたのだが、そこはぼくリョウが生まれなかった世界、死産だったはずの姉サキがいるパラレルワールド。「大抵の事はそのまま受け入れる」サンドバッグのような性格のリョウと正反対の性格のサキが出合い二つの世界が縒り合わされると差異が際立ち、間違い探しの様相を呈し……非常に複雑な読後感が残る作品。大人がもしリョウ達の両親のように子供たちの子供時代を守ろうとしなかったら、充分な準備が整う前に子供たちは一人で外界と対峙しなければならなくなる。ここでも繊細な一人は気持ちを鈍麻させてゆき、強い一人はより強くなった。人間はその資質によって淘汰されるべき存在=ボトルネックなのかという問いかけは誰にとっても厳しく、取り戻す事ができない日々を「今」生きる若さの辛さを思い出す。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★
 恋した人は崖から落ちて死んだ。それから2年たち、ようやく落ちた場所まで出向けるまでになった「ぼく」。ところが、崖に立たった時に強いめまいを感じ、そのまま下に落ちてしまう……と本人は思ったのだが、意識がもどった時には、住み慣れた金沢の街中にいた。たしかに東尋坊に行ったはずなのにと思いながら、自宅にもどってみると、そこには、いるはずのない身内がいた。
 時間空間のゆがみなのか、「ぼく」は自分のよく知っている世界と似ていて、けれど、決定的に違う世界に入り込む。パラレルワールドの住人となり、「ぼく」は考える。自分のいた世界と違うこと。その違いはどこからきたのか。なぜという疑問を徹底的にほりさげていくことで、見えてくるものにゾクリとする。あの時こうしていたらという一瞬の後悔が目の前に繰り広げられたら、どうだろう。個々の誰しもの未来はただひとつ。しかし、常につきまとう、あの時への願望。ぱたぱたとカードを開くように、見えるもうひとつの世界を後にした、その直後の言葉がなんともつらい。

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