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キリハラキリコ
キリハラキリコ
紺野 キリフキ(著)
【小学館】 
定価1470円(税込)
2006年8月
ISBN-4093861722

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  小松 むつみ
 
評価:★
 子どものころ、「星の王子さま」を読みはじめたが、ちっともおもしろくなくて、途中でやめてしまった。
 大人になって、「あのころは私が子どもだったから、理解できなかったに違いない」と思い直して、もう一度読みはじめたけれど、やっぱり最後まで読めなかった。多くの人が絶賛しても、どうしても自分にはその価値や良さがわからないというものがこの世にはある。
「ライ麦畑でつかまえて」もそうだった。そして、「キリハラキリコ」もそうだった。
だから、「キリハラキリコ」は、「星の王子さま」や「ライ麦畑」にならぶ、名作なのかもしれない。
 ただ、私にそれがわからないだけで……。

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  川畑 詩子
 
評価:★★★
 10代の女の子の日記という体裁なので、短くまとまっているし文章も子どもらしく平易。それで初めはとりとめがないという印象を持っていたのだが、謎の暦屋が頻繁に登場するあたりから、文章はそのままなのに段々とドラマチックに盛り上がってきて、この不思議な町と住民に引きつけられていた。
 放課後の人気のない教室の孤立感を思い出す。それと、私がよく見る夢で会社になかなかたどり着けないというパターンがあるのだが、その時の通勤路はこんな感じかも……。
 とぼけているがどこか突き放したような会話や、風物詩的に発生する停電、なんだかひどく象徴的な遊び「おにんぼ」などの書き込み方のセンスが良いと思う。軽い気持で読み始めたのだが、思いの外イメージがふくらむ話だった。本はやっぱり読んでみないと分からない。

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  神田 宏
 
評価:★★
 不思議でシュールで不条理な世界。日記形式にしたためられた奇妙な世界についてのフレーズの集積。うーんこの感じ、この違和感どこかで味わったような感じがする.……ねこぢるの漫画だっけ? 夢の様な既視感。目覚めたら大体は忘れてしまっているのだけれど、頭にこびりついたイメージがなせる軽い倦怠感。巧く表現できないが不思議ワールドが一度読むとこびりついて離れないんだよこれが。窓の外には山高帽の「暦屋」がカレンダーをめくろうと待っている気がするし、マンホールの中にはネズミと人間のできそこないみたいな生き物が、人間の手を食っている気がしてくるし、学校の校長はパワースーツを着込んで筋肉隆々で、「セックス部」の男子生徒は裏保健室で「ヘベイ出血熱」にやられ「グハッ」と吐血している気がしてくる。何がなんだか分からないが、そんなイメージが頭から離れなくなってくる。ウヘー気持ちワルー。ぺっ、ぺっ。と振り払ったところでだめなのである。完全にキリハラワールドに毒されてしまった。異才である。

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  福井 雅子
 
評価:★★★★
 キリハラキリコの日記という形で、シュールで不思議な世界の出来事が語られてゆく。暦屋、暦屋の娘、なぞの男ミスター水村、季節停電という長期停電、うその教室など、登場人物もストーリーも現実世界ではありえない設定なのだが、淡々とした語り口に独特のリズムを持ち、ページの約半分しか埋まっていないほど無駄を省いた少ない文字数で「キリハラキリコ・ワールド」というひとつの不思議な「世界」が表現されていることに驚く。
 冷たいようでどこか温かみのある視線、シニカルなようでいてかわいらしくもあるキリコの世界は、時々ぎゅっと読者の心をつかむ。理解や共感を超えたもっと感覚的なところに訴えかけてくる魅力があるようだ。ヘンテコな世界なのになぜか気になる、不思議な本である。

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  磯部 智子
 
評価:★★★
 目は文字を追いながら頭ではずっと「だいたひかる」の声で音読していた。シュールでエキセントリックでちょっと脱力気味、日記形式で一話(一日分)がとても短い。くすっと笑える話が多いが油断していると時々チクリとくる。携帯サイトの連載で大人気だったらしいが(納得)それが一冊の本になり読み通すのはどうなのかと思ったが、なかなかどうして一発芸では終わらない。季節停電、2年7組がふたつあるうそ教室、駄目ロボットのロボ太郎、贋作の古本屋などなどキリコの迷い込んだ世界は不思議がいっぱい。その浮遊感に安心していると危ない話が紛れ込んでいたりもする。止まった時間の中に生きる「職に結びつかない類稀なる才能の持ち主」ミスター水村と、時を知らせる暦屋の父娘が牽引力になってキリコの日記が最後のページになる。秩序は戻り、動くべきものが動き出し、終わるべきものが終わった。それでもキリコは「いっつもどうり適当」やはり並ではない。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★
 キリハラキリコちゃんは、4月の始業式に学校に行っても教室に誰もみつけることができない。そこで、することもないので、数学のノートになるはずだったものに、日記を書きはじめる。
 シュールな世界が日記に日々綴られる。ほのぼのとしていたり、殺伐としていたりするけれど、どこかユーモアがあって、読んでいるとくすりと笑ってしまう。たとえば、4月13日には、ロボットのロボ太郎がキリコちゃんちを訪問する。ロボ太郎は自分がなぜロボットであるかの意味を考えると、存在価値を見いだせなくてロボットを辞めたいと愚痴る。そして、キリコちゃんちでごま油をこくりと飲む。おわり。5月1日にやってきた暦屋おじさんの来訪時間は夜中の3時。暦をめくるのを忘れた家を訪問しているらしい。おわり。すると今度は次の日の日記には、暦屋おじさんの娘が訪ねてきた。この娘は壁をよじのぼって、キリコちゃんに侵入し、小型の日めくりカレンダーをめくって満足する。おわり。この暦屋の娘はそれ以後も何度も日記に登場するので、だんだん親しみをおぼえてくる。一行で終わるときもあれば、ひとつのお話のような長さのものもあり、ふわふわしたユーモアがだんだんくせになりそう。携帯サイトの人気作で一日平均6万アクセスをほかった作品の単行本化。

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