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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2006年11月の課題図書
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真夜中の青い彼方
真夜中の青い彼方
ジョナサン・キング (著)
【文春文庫】
税込900円
2006年9月
ISBN-416770529X
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  松井 ゆかり
 
評価:★★★☆☆
 久々に正統派のハードボイルドを読んだなあという気がした(やっぱり語り口は一人称で、主人公は「わたし」って言わなくちゃね!)。犯人が大して意外な人物でないところも。
 ただ、主人公マックス・フリーマンの過去の痛ましい事件(警察官時代に正当防衛とはいえ銀行強盗をはたらいた12歳の少年を射殺してしまったこと、妻が他の男に心変わりしたこと)がややとってつけた感がある気がした。まあ、マックス・フリーマン・シリーズはすでに4作を数えるというから、他の作品ではこの設定がもっといきているのかもしれない。
 この作品の読みどころは、どちらかというと脇役の造形にあるのではないかという思う。とりわけ、フリーマンの親友であるビリー・マンチェスターは魅力的。ハンディキャップも持つ人物だが、それ自体が彼の素晴らしい持ち味だと思わせる描写力に著者の筆力の高さを見た気がする。

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  島村 真理
 
評価:★★★★☆
 自責の念をかかえてリタイアした元刑事が幼児の死体を発見する。マックスは連続幼児誘拐殺人事件の関与を疑われ、単身調査をはじめる。
 沼と湿地帯であるエヴァーグレイズ国立公園の夜の風景が美しい。マングローブの木立の横をカヌーで進む姿が眼に浮かぶ。移住したころは自然の音をかき乱すものだったマックスが、もはや自然から受け流されるものとなっていることに満足を覚えるシーンは印象的。そこでくり広げられる事件の展開はまさに静と動なのだ。
 特にマックスの過去の苦悩、古い住民と開発の確執、事件の指揮をとる刑事とのやりとりなど、湿地帯のごとくじめじめした前半から一転する後半の格闘シーンは見ものだ。
 ひとり敵に立ち向かうマックスだが、その友人がまた魅力的。発音に障害があるが、優秀な弁護士ビリーはどこか母性本能をくすぐる。彼もまた無鉄砲な友人を陰でささえるヒーローなのだ。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★☆
 ある事故がきっかけで警察を辞め、フロリダの湿地帯で隠遁者のような生活を送る主人公が、静寂の支配する夜の川で一人カヌーを漕いでいて、月光に照らされた岸辺に少女の死体を発見する――この、非常に印象的なシーンから、この物語は始まる。
 ミステリーの醍醐味であるところの、意外性だとかどんでん返しだとかに重きを置く読者にとっては、この作品はちょっと物足りないかもしれない。だが澄み渡った夜空に浮かぶ満月のように冴え冴えとした、端正でクールな文章は、読んでいて実に心地よかった。インテリジェンスを感じさせる文章というか。かといって、決してよそよそしい感じでもない。無残な死体の描写ひとつとっても、そこに忌まわしさとかグロテスクな感じはほとんどなく、むしろ犠牲者の遺族の怒りや悲しみ、事件に心ならずも巻き込まれる主人公の、被害者に対する哀惜の念などといったものの方が強く伝わってくる。
 また、主人公と女性刑事とが、互いに惹かれあうところは、ほのかにアダルトな展開を期待しつつ読み進んだが…うーむ。何とも渋い。さすがだ。暴力とセックスの叩き売りのようなB級サスペンスとは格調の高さが違う。著者にとっては本作品が処女作であるが、すでに余裕綽々の手練れの技を感じさせる。完成度の高いハードボイルドである。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★☆
 正当派、現代ハードボイルド小説。マックス・フーリマン(元フィラデルフィア市警警官)シリーズの第一作。著書と翻訳者のマッチングも良く、一気呵成に読める。有り勝ちなプロットなのに、全く飽きない。ページを捲る手が停まらない。一読三嘆。
 本書がデビュー作であるジョナサン・キング。よくデビュー作には、その作家の全てが現れると言うが、その台詞が本当なら、凄い作家に成っていくのだろう。このシリーズの原書は、第四作まで出版されている。
 ハードボイルドはちょっと苦手と言う方にも是非。ほんの10ページ(第二章のさわりまで)で良いので読んでみる事を御勧めする。
 身長6フィート3インチ、体重200ポンド少々、母に言わせると明晰な頭脳を持ったわたしは警察官の仕事に向いていた。生意気盛りの十九歳で警察官を拝命し十二年間それなりに勤めていた。自分の犯した過ちに対し自責の念を抱え森で隠棲していた。タイトルを返上して二年。川の流れに揺さぶられている子供を発見してしまう。わたしは、悪運と不運の双生児を一蹴し、平穏な生活に戻れるのだろうか。

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  水野 裕明
 
評価:★★★★☆
 一人称というハードボイルド作品によく見られるスタイルをとっていて、本の帯にも“大人のための正統ハードボイルド”とあったが、主人公自体はそれほどハードボイルドでも無く、孤高を愛するわけでもないように思えた。構成自体も、少年を正当防衛とはいえ殺してしまったため警察を辞めてフロリダ州エヴァーグレイズへ隠棲した元警察官が、連続殺人事件を解決するという、典型的な巻き込まれ型のミステリーであり(警察を辞めて隠棲しているわけだから、自分から出向いて犯罪を調査するわけでもなく、本人の意思に反して犯罪に巻き込まれるという形になるのは当然ではあるが……)、スピーディーな展開でページを繰る手が止められないと言うアメリカのサスペンススリラーとは一線を画していて、さらに主人公には探偵としての力量とか魅力はあまり感じられ無かった。………が、である。主人公が生活する沼と森林の国エヴァーグレイズの豊かな自然などの描写が本当に素晴らしい。さらに、随所に出てくるアメリカンフードがシズル感タップリで美味しそうで、作者には申し訳ないのだが、私はアウトドア小説として楽しんでしまった。

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