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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2006年11月の課題図書
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血の協会
血の協会 (上・下)
マイケル ・グルーバー (著)
【新潮文庫】
(上巻)税込780円 (下巻)税込740円
2006年9月
ISBN-4102143238
ISBN-4102143246
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★☆
クセのある人物達。ひとつの事件から加速度的に多岐にわたって複雑化していくストーリー。
まるで映像を観ているような文章が、その複雑にもつれていく関係性をとても上手く処理していて、ボリュームはあるけれどすぐに読んでしまいました。
元娼婦のシスター、エミルーという容疑者が綴る手記と主人公の刑事ジミー・パス、精神科医ローナの人間模様でグイグイとひきこまれてしまいます。
印象的なのはこのエミリーという人物。とにかく不気味な存在感!
まだ娼婦だったころのエピソードも凄惨なものがあるし、シスターになってからの行動も狂信的な感じで。
悪魔が見えたり、奇蹟を起こしたりという現実には起こりえないエピソードが満載なのですが、何故か納得しちゃいました。
ブードゥー信仰などのエッセンスも効いてましたねー。これもまた違和感がなく世界観にひたれました。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★☆☆
 “ベターホーム協会”や“家の光協会”など、自分と縁の薄い協会は世に多々あるが、「血の協会」などという恐ろしげなものとは金輪際関わり合いを持ちたくないものよ…と思いながら読み進めたが、それ自体(正式名称は「キリストの血の看護シスター協会」)は別段恐怖心を煽るような存在ではなかった(ぶっとんだ組織ではあるが)。
 物語の合間に挿入される謎の女(殺人事件の容疑者でもある)エミルー・ディデロフの手記がとにかく続きの気になる文章でページをめくる手が止められなくなるが、気づいたときには予想もできなかった方向に話が進んでいる。ところどころ差し挟まれるオカルト的な描写も、読者の興味を煽る効果を上げているだろう。

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  島村 真理
 
評価:★★★★★
 魅力的な主人公、何重にも包まれた真相、ミステリアスな出来事。私にはど真ん中の本書。はまりました。戦慄と興奮に襲われます。
 パス刑事シリーズ、「夜の回帰線」に続く2作目だそうです。発端はマイアミのホテルでの転落死亡事件。現場にいた精神異常者とみられる女性の確保で事件の解決は容易そうですが、不自然さを見逃すパス刑事ではありません。それは、仕組まれた陰謀とひとりの女性の壮絶な人生、神の奇跡へと繋がるのだから。「この本、面白いどー」と叫びたい気分です。
 さて、ストーリーの面白さは実際に読んでもらう事にして、主人公ジミー・パスについて紹介したいと思います。彼はキューバー系黒人で、頭脳、肉体、料理と三拍子そろっています。モーニングコーヒーと一緒に手作りクッキーもそえてくれたりなんかして。刑事としての優秀さだけでなく、男性的な魅力にも大いにあふれているという逸材なのです。
面白いミステリが読みたいと思う方はすぐに手に取るべきです。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★★
 物語はマイアミ警察の殺人課のジミー・パス刑事を主人公として、殺人事件の容疑者としてパス刑事に検挙される女性エミルーの視点で書かれた手記や、本作のタイトルとなっている「キリストの血の看護シスター協会」の成立物語を織り交ぜながら、マイアミのホテルで起こった殺人事件が、エミルーという一人の女性の辿った数奇な、そして凄絶な半生をあぶりだしてゆく様を描く。
 この物語、パス刑事シリーズの第2作ということだ。このパス刑事が何ともかっこいい。女性にすごくもてる。高校しか出ていないのに非常に博識で、女性を惹きつけるために、哲学書や、有名詩人の詩の一節をさらっと口にしたりする。これ、日本人がやると100%嫌われるだろうが、キューバ系のパス刑事だと実にかっこよく決まるのだ。しかもパス刑事はこれらの知識を、口説き落とした知的な女性たちとのベッドでの会話から仕入れているのである。
 しかしこのパス刑事もエミルーの強烈な個性の前には影が薄くなるほど。面白かったのは、エミルーの手記に、今月の課題図書の他の作品、例えば、桐野夏生の「グロテスク」を思い起こさせるような箇所があるかと思えば、信仰を獲得したエミルーが自分のことを「神の道具」として表現するシーンがそのままアーヴィングの「オウエンのために祈りを」の中のオウエンの言葉とだぶっていたりしたところ。信仰の意味について深く考えさせる点で本作は「オウエン〜」と共通したものがあった。圧倒的なスケール、魅力的な人物造形。これはお勧めです。シリーズ第1作もぜひとも読みたくなった。

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  水野 裕明
 
評価:★★★★☆
 スーダン人の墜落死から始まった物語は、冒頭から神に対する不可思議な発言を行う女性エミルーが登場するのを始め、現在の教会の腐敗、神の奇跡や存在についてなどがかなり強烈に数多く語られていて、サスペンススリラーやミステリーと呼ぶよりも神の福音や力を説く啓蒙の書という趣が強いように感じた。物語は犯人と目されたエミルーを中心にして刑事や女性精神科医が真相を解明していくというオーソドックスでかなり面白い展開なのだが、宗教色が強い結果ミステリー部分がサブストーリーと思えるほどであった。良くも悪くも、サスペンスと信仰が作者の中でせめぎあって生まれた、かなり力の入った快作(怪作?)と言えるのではないだろうか。

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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2006年11月の課題図書
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