WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年1月の課題図書>マルドゥック・ヴェロシティ 文庫本班

マルドゥック・ヴェロシティ
マルドゥック・ヴェロシティ(1〜3)
冲方丁 (著)
【ハヤカワ文庫JA】
税込 各714円
2006年11月
ISBN-4150308691
ISBN-4150308705
ISBN-4150308713
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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★☆
 前作「マルドゥック・スクランブル」(しかし順番としてはこの「ヴェロシティ」の方が前の時代の話)の評判の高さは前々から耳にしていたものの、上中下巻という長さに恐れをなして読まずにきたことを激しく後悔した。本書にも、表紙の絵が恐いだの本文中の「=」や「/」の多用などに気取りが感じられるだのといったハードルもあるが、ぜひ読んでみていただきたいと思う。
 戦時中のある失態により特殊研究所に収容された男/ボイルドと知能を持つ万能兵器であるネズミ/ウフコック。途中まで読み進んだところで本に挟まれていたチラシを見て、「こんなに仲睦まじいパートナー同士が何故離反を!?」とますます続きが気になってしまい、困った。SF的なおもしろさはもちろん、これミステリーとしても読み応え十分!

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★★
 何より、文章のスピード感が心地良い。映画のカットバックを次々と見せられているようだ。最小限の単語だけで微妙な表情が描かれ、硬質なのに親しみやすい素敵な文章になっているように思う。
体のどこかを戦闘用に改造されながら、戦争が終わって不要になってしまった登場人物たちがギャングの抗争を解決すべく戦う。彼らはそれぞれ個性が際立ち、とても魅力的だ。ハードに、ドライに、ジョークを飛ばしながら生きていくものの、過去を背負って悩み苦しむ。ハードな設定と硬質な文章で哀しみや切なさ、激しい感情が描かれるのがたまらなくいい。フリークス的な描写も多く、主人公ボイルドの無口で冷静な性格も手伝ってハードボイルドな雰囲気に満ちているものの、登場人物たちが皆人情味たっぷりなので、ちっとも冷たい感じがしない。ハードさと情感を両立させ、なおかつカッコいいシーンがいっぱいなのは、SFならではだと思う。

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  島村 真理
 
評価:★★★★★
 軍研究所から生み出された兵器であるものたち。廃棄処分を免れたものたち。狂気に満ちた都市で戦う戦士たち。彼らの驚くべき能力に興奮し、チームプレイに感動する。そして、巨悪に立ち向かい、なにものをも恐れない彼らに拍手をおくる。/で区切られる文章はポップで臨場感があるし、文章という形なのに映像が浮かび上がってくるようです。ハードボイルドなストイックさが心地よくもある。けれど、得体の知れない不安があるのです。きっと最後には身も心もボロボロにされるだろうという予感。
 悪と戦うという前提の残虐な殺戮や、醜悪さと悪意と憎悪が生み出す熱狂が良心をゆさぶるし、その先の破局と崩壊の恐怖もあるからか。マルドゥック・シティを舞台に、都市の隠れた秘密、そして、“09”のメンバーの秘密が交錯するクライマックスは目を見張るし胸が詰まってせつなかった。

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  荒木 一人
 
評価:★★☆☆☆
 ハード・ボイルド風SF。言葉使いが不思議と言うか、理解しにくかった。散文的で読みにくい。内容にのめり込め無かった。表面を撫でただけの読過で終了した。
「徘徊者」の異名があるディムズデイル=ボイルド、青灰色の目を持ち、巨体を猫のように音もなく動かせる。友軍への誤爆という罪を犯した。自らを売り渡し、入った最後方支援施設。パートナーのネズミのウフコックは、あらゆる物体に変身できる「万能道具存在」。戦争終結に伴い廃棄の処分が下される。
 Prologue100からカウントダウンしていく方法も今ひとつ。場面転換を連想させるための/、−、も多用し過ぎで、文章がぶつ切れの印象を覚える。
 非常に好きなジャンルなのだが…前作を読んでおらず(読む意欲が起こらない程度の作品だったので)評価が辛いかもしれないが、どうにもオヂサンには付いて行けなかった。しかも、ひたすら虚無へひた走る主人公の最後の落とし処が始めに書かれていることも、残念。

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  水野 裕明
 
評価:★★★☆☆
 元来、超能力者やサイボーグなどが主人公の近未来戦闘娯楽活劇は大好きなので、おもいのほか楽しく読め、戦闘物や超能力などを扱ったコミック、例えばちょっと前になるが“ARMS”とか“銃夢(ガンム)”などに夢中になる読者には受け入れられそうなのだが、かなり好悪がはっきりと分かれる作品ではないだろうか。コミックとの比較という点でいえば、キャラクターの造形とか、ストーリーの展開とか、特殊検診=成果による特殊な能力など、かなり巧みに描き込まれいるけれど、戦闘シーンや武器の表現においてはコミックの方がはるかに優れているように思えた。単語とスラッシュやカッコくくりの組み合わせを多用し、ビジュアル的に読ませようとするなど表現に工夫をこらしているのだろうが、こういうテーマはやっぱりコミックの方が面白いのではないだろうか……。さらに、超能力・特殊な武器などに関していえば、菊地秀行の“魔界都市〈新宿〉”シリーズや“新・魔界行”シリーズなどでイヤというほど描かれているので、あまり新鮮味は感じなかった。

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