WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年1月の課題図書>水滸伝と日本人 文庫本班

水滸伝と日本人
水滸伝と日本人
高島俊男 (著)
【ちくま文庫】
税込924円
2006年11月
ISBN-4480422749

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★☆☆
 高島俊男先生が中国文学研究者であるということを、本書を読んで初めて知った。週刊文春の「お言葉ですが…」わりとよく読んでたんだけどなあ(言われてみれば中国文学の話題も出てきてた気もするけど)。
 さて、先月の課題図書であった第1巻を読んでにわか水滸伝ファンとなった自分にとって、この本で披露されるのは知らなかった事実ばかりである。漢文の記述が多く出てくるのが難だが(高島先生はこの程度は一般教養の範囲内と思われているのか、懇切丁寧な訳文は無し)、「水滸伝」がその昔はこんなにも人気の書であったということがわかって驚きだった(そんなことも知らないで、ファンを名乗るのもおこがましいようだ)。翻訳家同士の確執など、ゴシップ趣味的な部分もあって固い一方の内容でないところもおもしろい。
 ひとつ残念なのは、北方水滸伝について一言も触れられていないこと。翻訳ではないからしかたないのかもしれないが、高島先生がどのような感想を持たれているのか気になる。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 「水滸伝」がいかに日本人とともにあったか。それをていねいに解き明かしてくれています。とにかく、この物語にまつわる書物の多いこと多いこと。江戸時代初頭から現在に至るまで、原文で、あるいは絵本として、また、翻案というかたちで物語の素材として、幅広い読者をとりこにしているのだ。そんなお話って他にあるんでしょうか?すごいですよね。
 おもしろいと思ったのは、「水滸伝」の出版の変遷とともに書かれている江戸時代の本の制作過程のもろもろについて。貴重な輸入本を和刻というコピーを作って流通させること、主要な場面を絵にして、そこに簡単な文をつけて出すこと、著者が途中で変わること、現代の出版や本をめぐる状態を考えたら想像のできない世界で新鮮。
 今読んでいる北方謙三氏バージョンはもちろんのこと、より原書に近いものにも興味を惹かれてきます。魅せられた人の熱意とこの物語の周辺を知ることのできる本です。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★★
 水滸伝という物語は中国の四大奇書のひとつとはいえ、一応しっかりした原典があって、それが限られた人たち(北方センセイもその一人)の手によって比較的忠実に翻訳されたものが出版されているのだろうと思っていた。ところが実際には、原典の成立には曖昧な点が多く、しかもすごい数の人々によって、意訳なんて生易しいもんじゃなく、とんでもなくいじり倒されまくった水滸伝が乱立しているらしい。いやはや驚いた。著者はそういういじりのうち、許せるものを「翻案」と位置付けている。一方で、わが国の水滸伝の翻訳の歴史を、不幸だったとも書いている。例えば、中国語もろくに解らないインチキ先生(実名で名指し!)が無責任に訳した代物が、戦前の水滸伝の口語訳のお手本となっていたのだとか。
 今月の北方水滸伝の、武松と潘金蓮の悲劇も、どうやら北方センセイによってかなり大胆ないじりを加えられているのだということが、本書を読めば理解できます。でもそういうのって…素朴な水滸伝入門者としては、ちょっと考えさせられてしまうのも事実。確かにこのシーン、原典よりも北方水滸伝の方がずっと面白いし感動的なんだけれども。

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  荒木 一人
 
評価:★★★☆☆
 水滸伝の歴史解説本。学術的要素が強めなので読者の興味のある無しが大きく分かれそう。著者自身もまえがきに記しているが、比較文学の側面も強い。私は、感心する事ばかりで非常に面白かった。只、一般受けはしないかも(笑)
 第一部:江戸時代の水滸伝 川柳から始まり、当時の庶民の文化等も記しながら、水滸伝伝来からの歴史を口語調で紹介している。翻訳の段階的分け方や貴重な本の写真も沢山あり興味深い。「翻案」についての説明は若干諄め。
 第二部:明治以降の水滸伝 日本の作家、芥川龍之介、幸田露伴などの水滸伝との関わりも面白い。森鴎外の問題提起は流石と思わせる。後半は文学論色が強め。巻末の年表が非常に参考になる。
 中国の四大奇書(最近では三大奇書とする事も多い様だが)が好きな人にはなかなか興味深い記述も多い。娯楽の少ない時代、日本人が如何に水滸伝や三国志が好きだったのかがよく分かる。著者の九割以上出来ているという、水滸伝の語彙辞典の完成を切に望む。

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  水野 裕明
 
評価:★★★☆☆
 北方水滸伝を読んでからこの作品を読むか、それともこの本を先に読んでから北方水滸伝を読むか?ちょっと迷うところであるが、躊躇なく先に北方水滸伝を読むことを奨めたい。もしもこの本から先に読み出すとどうなるか?いきなり楊子がどうしたとか、花和尚がこういう風に描かれていて…などという表現が出てくるのである。水滸伝を詳しく知っているならいざ知らず、楊子がどんな人物で、どう水滸伝中の人物と関わりあってくるのかまったくわからない状態で読まないといけないのは、かなり辛いものがありそうである。実際、北方水滸伝を読んでから本作を読んだので人物名やエピソードなどがよく分かって興味が持てた。ただ、読んでいて面白かったのは近世以降のよく知っている作者による水滸伝の紹介で、江戸時代とかの水滸伝の紹介は実際に紹介されている本を読めるわけもなく(かなりの古書になってしまうから、普通には販売されてないだろうから)ちょっと退屈であった。

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