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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年1月の課題図書ランキング

闇鏡
闇鏡
堀川 アサコ(著)
【新潮社】
定価1575円(税込)
2006年11月
ISBN-4103030712
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  川畑 詩子
 
評価:★★★
 戦乱が落ち着き始めた室町初期の京都。検非違使、白拍子、陰陽師が登場。雰囲気は満点。幽鬼の類が出ても不思議でない雰囲気は盛り上がる。
 権力の座も人々の考え方もダイナミックに転換しつつある時代背景を巧みに感じさせる。幽鬼の存在を信じる気分と、そんなものいはしないという気分とがまぜこぜになっている様子も描かれていて、現代人と通じる親しみもうまく持たせている。
 と、雰囲気は盛り上がるのだが、謎解きがあっけなく思える。いくら世話になって慕っていた人のためとはいえ、復讐のために遊女にまで身をやつすかなーとか。人間くさくて好感を持って描かれていた人物の扱いがラスト雑ではないかな、など。雰囲気にわくわくしていただけに、残念。

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  神田 宏
 
評価:★★★★★
 「最近、何か京都やばくねぇ」と読書好きの諸氏と交わしていた矢先である。別段、彼の地の治安が悪化して、幕末のように血風吹きすさんでいる訳では、勿論、ない。「京都」を舞台にした新刊本が「やばい」くらいに面白いのだ。そこに本書である。著者の博学に裏打ちされた時代を描く筆のリアルさがやばい。魔都、京を跳梁跋扈する魑魅魍魎たちの凍りつくような怖さがやばい。そして、ハードボイルドっぽいクールな描写と時代小説の人情味のぴたりとマッチングされたところがやばい。
 「闇は暗い。犬達も女の亡骸もこの世の森羅万象とは随分と懸け離れた陰気な存在であったためか、すっかりと深夜の死角に溶け込んでしまっていた。」とぞくっとさせられるような描写で鴨川縁の傀儡女(くぐつめ)の亡骸を見つめる検非違使(けびいし)の放免、清輔は女が毒殺されたことを見て取ると同時に、その手に握られていた一軸の絵を見つける...... 奇怪な殺人の捜査を始める清輔とその上司、龍雪であったが、闇夜を照らす煌々とした「白虹」という更なる怪現象や、洛中一の廓女の殺害など次々に起こる珍事に「陰陽寮」の者達も逃げ惑う始末。そしてどこからともなく聞こえてくる「寒露の宵にぞ、出て御座る。九つ此処なる悪所御殿、大路の方より呼ぶ声よ、天狗の踊るを見参らせ」の唄に誘われるように、「悪所御殿」に乗り込む龍雪であったが、傀儡女殺害の裏にある陰謀とは? そして骸に握られていた絵の謎とは?
 魔都、怪都京の闇に封印された物の怪達を時代を超えて蘇らせた背筋の凍える一篇です。おっさんもグビッと冷を飲みながら読みましたが、酔いどころか、怖さが五臓六腑に染渡ってしまいました。ゾクっ。やばい、まじ怖い。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★★
 南北朝の争乱の傷もさめやらぬ室町の頃。度外れた寒さに襲われる京の五条大橋の手前で、恋しい夫を一途に追ってきた傀儡女が無念の死を遂げるところから、物語の幕は開く。次々と起こる怪死に、それぞれに怪しい面々。跋扈する正体不明の輩たち。
 きちんとした時代考証と深い知識、この時代への愛情に裏付けられていることが端々に感じられ、語られる異世界をさらに魅力的なものにしている。緻密に練られたプロットは、後半、一気に加速して、連鎖的に謎が解けていく結末にもつれ込む。本作がデビューとはとても思えない、完璧すぎてややおもしろみを欠くほどの仕上がりには、恐れ入るばかり。
 自業自得とはいえ、癒えない心の傷を負い、想い続ける場所に戻れなかった猪四郎や、つらい劣等感や妬みを心に潜ませた犯人の哀しさがしみじみと胸を締めつけるが、一方で主人公の龍雪の人間くささや、狂言回しをつとめる食えない清輔の飄々とした風情が救いとなり、程よい余韻を残している。

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  磯部 智子
 
評価:★★★
 京都が舞台か……時代小説だから仕方ないが、寺社仏閣、歴史を書くだけで、風土にどっぷり浸かったいけずな都人を書きこまなければ、京都とは言えないものだなあ、と感じた。その掘り下げの為か、多少のひっかかりは否めないが、勢いがあるので楽しんで読むことが出来た。装丁のおどろおどろしい煽りはあるが、主人公で検非違使の龍雪が妖怪幽霊の類を怖がるという性格設定の為か、入り込むというより二元的に読んだ。時は室町時代、龍雪が追うのは、京を脅かす怪異な事件の謎。まやかしと現実の境を上手くすくい上げて、ホラーのようなミステリのような、着地するまで何処に連れて行かれるのか分からない面白みがある。男女のもつれもしっかりと書き込まれ読み応えがあり、この青森出身の新人作家、いつか雪深き地にまつわる怪異譚など書かれた場合、又読んでみたいと期待する。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★★
 冒頭は飢えた野犬も喰おうとしない女の死骸からはじまる。毒殺された女体は、飢えきった野犬すらも忌む。なぜ女は殺されたのか――プロローグを思い出すのはずっと後になってから。
 室町時代、いまでいう警察の役割を担っていた検非違使らが京の町を平安にすべく動いていた。しかし奇妙な難事件は起こる。果たしてこれは人間のしたことなのか。
 歴史的背景をうるさくなく話にとけこませ、風変わりで謎をもつ人物らが効果的に登場し、最後までひきつけられた。漆黒の闇夜で起こった事件が次第に周りに影響を与え、ひとりふたりと様子が変わっていく緊迫感にぞくりとする。人の情念の濃さにしみじみする読後感。事件の謎をとくミステリーな華々しさだけでなく、時代と人を丁寧に描くところに時を忘れて読みふけった。

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