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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年3月の課題図書 文庫本班

我らが影歩みし所(上・下)
我らが影歩みし所(上・下)
ケヴィン・ギルフォイル (著)
【扶桑社ミステリー】
税込940円
2006年12月
ISBN-9784594052966
ISBN-9784594052973
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  荒又 望
 
評価:★★★★☆
 クローン技術による不妊治療が可能となった近未来の米国が舞台。愛娘を何者かに殺害されたクローン推進派の医師デイヴィスは、犯人を捜し出すため、ある行動に出る。
クローン児の誕生も、全世界で人々が夢中になる仮想現実ゲーム「シャドー・ワールド」も、デイヴィスのとった行動も、狂信的な集団によるクローン推進派への襲撃も、まるで今も頻繁に起きていることのようにリアリティあふれる描写になっている。そう遠くない将来、もしこの物語に出てくるようなことが本当に起きたら……? 果たして自分はどうするのか、社会はどうなるのか、世界はどう変わっていくのか。考えずにはいられない、でもできるだけ答えを出すのは先延ばしにしたいような、そんな問いかけの連続だ。
こうするしかなかったのか? これで良いのか? という幕切れ。最後の最後まで、読み終えてからも、考えさせられる。
翻訳モノは読みづらくて、と敬遠する人も多いと思うけれど、これは非常に読みやすい。もともと日本語で書かれた小説だと言われても、うなずけるほど。「外国の小説は翻訳がねぇ」という方も、ぜひどうぞ。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★☆☆☆
 人の欲望はいつになったら尽きるのだろう。「もっと上より多く」これ以上の何かを望み過ぎた果て…おそらくそう遠くない明日にでも起こりうるかもしれぬ。テーマはクローン。愛娘を絞殺された医師がその犯人を突き止めるため、施した手段は自らのクローン技術を駆使し再生させること。無いものを意図的に人工的に作る。ある日、自分に酷似した誰かに遭遇する怖さを想像出来るだろうか。自然界のルールに反した行為の報復は幾人もの人生を狂わせて行く…。子どもの成長年齢に合わせた章の構成が、文庫本2冊の長さを感じさせない。リズムある会話、自然な訳が翻訳独特の疲労を感じさせない。後半の急転直下の展開に思う。人間よ驕るなかれ。 

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 クローン児という重いテーマに身構えてしまったが、なんだ予想に反してサクサク読めるじゃないか!と頁を進める。しかしサクサクどころではなかった、いつの間にやらガシガシいやグイグイ引きこまれる引き込まれる。気がつけば、もうやめられないとまらない、まさにかっぱえびせん小説。
 物語の舞台は近未来のアメリカ、娘を惨殺された医師が偶然犯人のDNAを手に入れる。怒りに駆られた医師は過ちを犯し、あろうことか不妊治療のために保存されていたドナーのDNAとそれを入れ替え、かくしてとある夫婦の子供としてそのクローン児はこの世に生を受けたのだった。
根本に大きな倫理的問題をはらんだ作品であるにもかかわらず、それが霞んでしまうほどに純粋な読み物としてこの小説は面白い。
 ただ一点、この題名だけはいかがなもんなんでしょう?内容が良かっただけに実に悔やまれる。原題『キャスト・オブ・シャドウズ』他にもうちょっとピッタリくる訳し方ってなかったんでしょうかね?

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 生物学的な意味で瓜二つの「クローン」。そして、オンラインゲームの世界において、自分の操るキャラクター「アバター」。ある意味、両者とも、現実世界にいる生身の自分の「分身」な訳ですが、この、科学の最先端にある双子の技術を、作者は巧みに使いこなし、いったん読み始めたら下巻の最後まで一気に読まずにはいられない、濃いめのミステリに仕立て上げてくれました。

 元・ゲーム屋としては、当然、オンライン上のもう一つの世界「シャドー・ワールド」での推理劇にも興味を惹かれるのですが、現実世界で起こった医師の娘の惨殺に端を発する、クローン技術の禁断の利用法と、それからの十数年に及んで積み重なっていく悲劇の方も「ああっ、確かにクローンというのは、まさにそういうものだっ」と、思わず膝を叩いてしまいそうな展開です。

 かなり陰惨な展開にはなっているので、好みが分かれるところですが、少なくとも俺にとって今月の一番のオススメ。  

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