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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年4月の課題図書ランキング

九月の恋と出会うまで
九月の恋と出会うまで
松尾 由美(著)
【新潮社】
定価1470円(税込)
2007年2月
ISBN-9784104733026
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  小松 むつみ
 
評価:★★★
  退屈な日常に、こんなことが! 
 突然、人生が転がり始めることがある。アレアレという感じで、サイコロのようにころころと転がって思わぬ目がでる。例えば、恋の始まりも。
 たんなるOL小説かと思いきや、タイムパラドックスとか、4次元の世界とか、ちょっとSFチックな仕掛が新鮮。
 あまり理屈っぽい説明はないが、それがなくとも、まったく気にならない。すっきりと気持ちよく帳尻はあう。
 小道具としてのエピソードの挟み方が絶妙にうまく、一人ひとりの登場場面は少ないが、個性的な脇役たちが、どちらかといえば平凡な主人公を引き立てている。
 それぞれに、バックグラウンドが見えてくる。スピンアウトものも、ありなのでは?

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  神田 宏
 
評価:★★★★
  「よく女の人は献身的だっていうけど、女の人の場合はあれだよね、相手に見える形で尽くす。(中略)だけど男はそうじゃなく、相手の知らないとこでひそかに尽くす。そのことにロマンを感じる」。ある日、引っ越した先のアパート「アビタシオン・ゴトー」のエアコンの穴から「シラノ」と名乗る男の声が聞こえてきて、その声は隣の住人の尾行を依頼するのだが、旅行会社に勤めるOL北村は、未来から話しているという「シラノ」の依頼を素直に実行してゆくが。時間を巡るSFめいた恋の物語。「シラノ」のほんとうの目的とは? 冒頭の言葉を「アビタシオン・ゴトー」の他の住人から告げられた北村は見え隠れする恋の予感に揺れながらも核心へと向かってゆく。キャラクターが生き生きと立っていて、ハードに思える設定も重くなく、最後のカタルシスはこれが優れた恋愛小説であることの証明となっている。いいです。

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  福井 雅子
 
評価:★★★
  変わり者の老人が所有する快適な賃貸マンションに引っ越した北村志織は、エアコン取付け用の壁の穴を通じて、1年後の未来に生きる「隣の部屋に住む平野」と話をし、その「1年後の平野」から、水曜日だけ過去の自分を尾行して写真を撮ってほしいと頼まれる。そして、ミステリアスな穴と不可思議な依頼に振り回されるうちに、志織はいつしか「1年後の平野」に恋心を抱く。
 この本は、ミステリーでもありSFでもあり恋愛小説でもある。それだけに、それぞれの分野の本格小説と比べればやや浅い印象は否めないが、見方を変えれば、悪くないレベルで3つを一緒に楽しめる秀作とも言えるだろう。それにしても、時間SFはやっぱり難しい。「なるほど!」と思いながら読んでも、読後に「でもやっぱり何かおかしい」という感覚が残ってしまうのは私だけだろうか。
 恋愛小説としては内面の描写が弱いように思うが、素直でピュアな文章が初々しい印象を与え、さっぱりと透明感のある物語になっている。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★
  趣味の写真の現像について隣人ともめた志織は、芸術家(もどき?)であることが入居条件の不思議なマンション「アビタシオン・ゴドー」に引っ越す。そしてなぜか、エアコンの排気口から聞こえてきた謎の声に命じられ、隣室の青年を尾行することに――。
 SFの小技を効かせた、心あたたまるラブストーリー。登場人物たちのちょっと浮世離れした魅力と、次々に起こる不可解なできごとが、特筆すべきところはないかもしれないが嫌味のない語り口で描かれる。別世界というほどには日常とかけ離れない、つまり、ふとした弾みで自分にもこんなことあるかも?! 否、あったらおもしろいなという程度には腑に落ちる非日常感がわくわくさせてくれるのだろう。声の主の正体は誰なのか、予想通りのオチと思いきや、最後のどんでん返しがいろいろな意味でうれしい。

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  磯部 智子
 
評価:★★
  SF恋愛小説? 綺麗にまとまって読みやすく、どこがどうということはないのだが……旅行代理店に勤める27歳の志織の趣味は写真、それが思わぬトラブルの原因になり引っ越すことになる。新しい住まいの入居条件は「よそで3ヶ所以上断られたこと」「芸術関係」優先という風変わりなもので、後々の伏線にもなるのだが、日々の物語は緩やかに淡々と進む、ただ一点エアコンの穴から未来の隣人に話しかけられることを除いては……ここで当然志織は驚くのだが非常に冷静に驚くのだ、気持ち悪がってスタコラ逃げたりはしない。小説全体が、そのありえない状況を穏やかに受け止めている。さて読み手としてはそれをどう捉えるかだが、奇抜な設定とは対照的な年齢より随分落ち着いた古風な恋愛、男性の純情と受身の女性をこれ又当たり前のように読み、そのままするっと流れていってしまった。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★
  突拍子もなく思える設定に、自分だったらどうするかなんてつい考えてしまった。27歳の北村詩織の趣味は写真。撮るだけでなく自分で現像もする。しかしその現像しているところでトラブルが起き、とつぜんの引越を余儀なくされてしまう。新しい住居はちょっと風変わりなオーナーで、よそで3か所以上断られ、なおかつ芸術関係の人が優先されるという入居条件をもちだした。写真の現像が芸術につながり、彼女はまた趣味を楽しめる生活ができるようになる。ところが、部屋の壁穴から声が聞こえてきた……。
『シラノ・ド・ベルジュラック』から引用して、壁穴の声主はシラノと名乗ることになる。そしてこの物語も、シラノの戯曲さながらに展開していく。私は何年も前に映画で観たことがある。好きな映画だった。すれ違うせつなさと、再会の喜びがある話。ありえなさそうで、いまもどこかで起きていそうな恋物語だ。

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