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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年5月の課題図書図書ランキング

エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇
エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇
ナギーブ・マフフーズ(著)
【早川書房】
定価2100円(税込)
2007年3月
ISBN-9784152088024
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  川畑 詩子
 
評価:★★★
 アパートで一人の老人が殺される。温厚な人柄と静かな暮らしぶりで恨みの線も薄い。これを皮切りに無害な市民を標的にした連続殺人が発生する。警察は必死の調査を続けるのだが犯人は全く分からない。「正体不明の人間の紐ひとつで突然奪われ、その後は無に帰する人の命とはいったい何か。いや、それでも生きることに意味はある。それも大切な意味が。」捜査責任者の苦悩に満ちた自問自答。対する署長のあっと驚く対応が余韻を残す「容疑者不明」。
 主義に反することが重罪となることの窮屈さ。だが、それをストレートに風刺しているとも思えない、もの悲しくかつちょっと滑稽な雰囲気が漂う「奇妙な考古学」と「死んだバイオリン弾き」。選ばれた11編の作品は奇想天外な設定であったり、内面を執拗なまでに掘り下げるものだったり、いずれも「異色作家短編集・世界編」の看板にふさわしい短編ばかり。アラブ世界、信心深いユダヤ教徒、社会主義下のプラハなどなど普段なじみの無い社会が舞台なのもまた興味深かった。

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  神田 宏
 
評価:★★★
 アンソロジーの楽しみは、意外な作家との出会いに尽きる。そういった意味では『地球は広い まだまだ続く 不思議な国への旅』と帯にあるとおり、読書の幅を広げる水先案内にはうってつけの一冊。しかもそれが『異色作家短編集』とあっては、なおさらのこと。でるわでるわの珍妙さ。『奇妙な考古学』に描かれた今は懐かし東欧諸国の硬直したイデオロギー下に生きる人々の苦悩。『トリニティ・カレッジに逃げた猫』のマッドサイエンティストの馬鹿馬鹿しさ。『オレンジ・ブランデーをつくる男たち』の南米のマジックリアリズムの香り。『死んだバイオリン弾き』のB級ホラー映画のようなくすぐったさ。『誕生祝い』のバタイユを彷彿させるエロティシズム。不思議ワールド満載だ。しかし、表題作は2度通読したが最後まで「???」が頭から離れなかったぞ。それも「異色」なる所以だろうか?

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  福井 雅子
 
評価:★★★
 世界各国の鬼才作家の短編を11作品集めたアンソロジー。ユーモア、風刺、幻想、ホラー、ミステリ……そのどれにも分類できないが、「カテゴライズを拒否する奇妙な味わい」という点で一致する作品ばかりを集めたような短編集。
 ノーベル文学賞作家が2人含まれるなど、文学的には評価の高い作家ばかりで、作品もなるほど格調が高い。が、格調が高すぎるのか、こちらの文学や芸術、歴史的背景などの知識が不足しているせいか、読後、頭の中をクエスチョンマークがゆらゆら漂ってしまうような作品もあった。それでもなぜかこの本が印象に残るのは、国やジャンルによる分類を撥ね付けるような強烈な個性がそれぞれの作品から感じられることや、理解不能の奇妙さにかえって好奇心を刺激されるからだろうか。うまく説明できないが、変わったものが読みたくなったら是非この本を手にとって、奇妙な味わいの不思議世界を旅してみてほしい。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★
 エジプトからキューバまで、さまざまな国々の作家たちの織り成す、短いながらも “奇妙な味”が忘れられない物語の玉手箱である。
 個人的に、最もインパクトが強かったのは、「誕生祝い」(スコットランド)。中盤に至って、ふとタイトルの持つ意味の大きさに気づかされたときの衝撃はすさまじい。最も楽しんで読めたのは、「トリニティ・カレッジに逃げた猫」(カナダ)。『フランケンシュタイン』をめぐる「偶然の一致」が引き起こす「悲劇」が、ゴシック小説を揶揄するような独特の口調で語られ、終始ニヤついてしまう。最も趣味の良さを感じたのが、「エソルド座の怪人」(キューバ)。名作『オペラ座の怪人』にインスパイアされて、映画、文学、空想の世界を忙しなく行ったり来たりする作者の頭のなかを覗き見るようでおもしろい。見たい映画と読みたい本が増えるはずだ。
 それぞれに趣向が凝縮された11篇。GWにどこへも行けなかった方は、奇想に満ちた世界旅行に出てみてはいかがだろうか。

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  磯部 智子
 
評価:★★★★★
 11人の作家のうち知っているのは4人だけ、初めて聞く名前ばかりが並ぶアンソロジー。一作読み終えるたびに大きく溜息をつく。見事にどの作品にも似たところがなく、恐る恐る未知の世界を味わうが、一体何をどう調理しているのか解らないまま貪り食った気がする。最も解りやすいというか笑ったのが猫版フランケンシュタイン『トリニティ・カレッジに逃げた猫』で、これでも3色12匹分の猫の毛皮を正方形に切り幾何学的に規則正しく並べてぶち猫に見えるようにしたという……笑えない人には笑えない内容になっている。クノーの『トロイの馬』は木馬ならぬ馬が言葉を話し酒場に座っているし、二人のノーベル賞作家、シンガー『死んだバイオリン弾き』の民話的怖さにゾクゾクし、マフフーズ『容疑者不明』は得体の知れない殺人事件とそれ以上に怖い何かで話が締まる。マコーマック『誕生祝い』はイヤな話の白眉(!)読んでそのまま悶絶死。日常生活の中に想像力を軟禁された人間には刺激が強過ぎる、世界中から集められた珍味に敬意を表して★5。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★
 異色作家短篇集の最終巻。全部を読んでいるわけではないが、おさめられた短編のそれぞれの巻は常に読書の楽しみがあり期待を裏切らないシリーズだ。今回は世界編として、西欧から東欧、台湾、エジプトなどから集められた11編が収録されている。若島正氏がアンソロジーを編むのを楽しんでいるのが、作品ごとに添えられたひと言からよくわかる。
 もっとも笑って楽しんだのは「トリニティ・カレッジに逃げた猫」。タイトル通りのストーリーなのだが、いちだんと意味がわかるラストには吹き出してしまった。
 アイザック・バシェヴィス・シンガーの作品が入っていたのはうれしかった。児童書も書いているノーベル賞作家、シンガーの作品で紹介されているのは中編小説「死んだバイオリン弾き」。民話風の作品で、私も読みながら以前に読んだアイルランドの民話を思い起こした。娘にとりついた死霊の話なのだが、ペーソスあるおかしみとともに、腹の底に残る読後感がある。

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