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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年6月の課題図書 文庫本班

タイタニック号の殺人
タイタニック号の殺人
マックス・A・コリンズ (著)
【扶桑社ミステリー】
税込880円
2007年4月
ISBN-9784594053581

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 冒頭著者は言う。「歴史の中にミステリーを見つけるのが好きだ」と。誰もが知るタイタニック号の出航から氷山接触、そして沈没するまでの5日間に起きていたのは身分違いの恋物語だけではなかった。殺人事件もあったのだ。だがしかし、まず目を奪われるのは、船上社交界の華やかさだ。バルコニーや図書室などの船内装飾、手紙を書くことくらいしか思い浮かばない時間の流れ、食事、ステッキや帽子に見られる当時の衣装、客室の階級の違い、そこに集う人々の多様性。ミステリーに付随するあれこれを読み込んでいるうちに、犯人探しをすることになった推理作家は、犯人であって欲しくないと密かに祈っていた人間を言い当ててしまう。願っていたのは小さな幸せだったはず。イブニングや大理石の階段ではなく普通の生活…沈没というゴールを知っているがために、せっかくの本人の悔い改めの決意から残されている時間の少なさが余計残忍に思える。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★☆☆
 いつもいつも本格ミステリーの書評を書かせてもらうときには枕詞としてつける「アタシ、ミステリーちょっと苦手なんです」。最近はミステリーを読むのも楽しくなってきたのだけれど、やっぱり得意じゃあないのです。しかし、確かに得意にはならないのだけれど、最近ちょっと好きになってきた。今回のこの作品も、本格ミステリーの楽しみを存分に味わえる大満足の一冊です。
 『タイタニック号の殺人』、著者は言わずと知れたマックス・コリンズ。作品全体としては、実在した推理作家フットレルを主人公に、タイタニック号の上で繰り広げられる事件(こっちはフィクション)を紐解いていきながら、結果的には私たちがよく知っているあの悲劇へと向かっていくという、なんとも哀しい作りになっている。登場人物たちのキャラクターがとてもいとおしく描かれており、それゆえ、タイタニック号で起こった事件であるという設定がものすごくうまく作用している。本格ミステリーとしてだけでなく、レオ様とケイト・ウィンスレット(私の年代で言えばこれぞタイタニックという印象なのだが)が演じた二人の恋愛のような美しさと切なさまでが、織り込まれているような、本当に読み応えのあるストーリーでした。
 眠れない夜には読まないほうがいいと思います。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 破滅へ向かって航海を続ける豪華客船タイタニック号の船上で事件は起こった。
謎を解くのはたまたま乗り合わせた高名な推理小説作家のフットレル氏。
 閉鎖された空間での殺人事件、容疑者である一棟客室の乗船客には全員に動機があるときたもんだ。しかしまあ、ほっといても四日後には海に沈んじまうのだから、なにもタイタニック号の中でわざわざ殺人事件を起こさなくったっていいんじゃないの?との声も聞こえてきそうではあるな。
 『タイタニック号の殺人』ミステリーとしては素直すぎて、いまひとつ盛り上がりに欠ける作品と言えるかもしれない。
しかし、ほっといても舞台である客船タイタニック号は個性的な面々を乗せてドラマティックに海原を進むのだ。したがって船内の風景や、登場人物の向こう側に当時の空気を読み取ることもでき、広い意味で楽しい読み物に仕上がってはいる。

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  三浦 英崇
 
評価:★☆☆☆☆
 『思考機械』シリーズが提供してくれる、論理的で美しい謎の数々に、中高生の頃浸りきっていた俺にとっては、「ジャック・フットレルを探偵役にして、タイタニック号で起きた連続殺人事件の謎を解く」というあらすじを読んだだけで、山ほど夢が見られた訳ですが……実際の作品は、正直なところ、夢とのあまりの落差に凹みそうでした。
 いや、過剰な期待をしちゃった俺も悪いにゃ悪いですけど。でも、本格推理小説の偉大なる先達が、自ら乗り出して解くには、あまりに謎のレベルが低すぎやしないかと思うのです。たとえて言うなら、スーパーコンピューターを使って、小学1年生の計算ドリルを解かせるようなものかと。
 かろうじて点数を献上できる点は、ジャックの妻のメイが、非常に魅力的な女性に描かれていて、こんな素敵な妻に支えられていたからこそ、あの数々の珠玉のミステリが生み出されたんだなあ、と思えたことくらいでしょうか。非常に残念です。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
文句なく面白かった。
かつて私が小学生時代に、ルパンシリーズを夢中になって読んでいたあのワクワクする感覚がふと甦ってきました。

歴史ミステリーという分野、これは確かに一粒で2度美味しいキャラメルのようだ。
なにしろ舞台はあの悲劇の豪華客船タイタニック号!
そして登場人物はなんと全員が実在の乗船客員なのが凄い!

読み進めながら、映画「タイタニック号」の船内にシーンが頭の中をかすめる。
あの部屋で、あのデッキで、あのレストランで…。
実際にはじっくりと垣間見ることはおそらくできないであろう一等船室の室内装飾の重厚さに心を奪われ、ディナーのコース料理に舌鼓を打ち、そして着せ替え人形のようにとっかえひっかえ変わるご婦人方のファンションを楽しんだ。

主人公はたまたま乗船していた推理小説作家で、彼が船内で発生した殺人事件を真相究明の乗り出すわけだ。
彼の妻もまた作家で、二人の間のかわされるウイットに富んだ会話がなんとも楽しかった。
読み終えてまたすぐ読みたくなるほど面白かった一冊。

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