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黙示の海
ティム・ボウラ(著)
【東京創元社】
定価2100円(税込)
2007年4月
ISBN-9784488013264
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
川畑 詩子
評価:★★★
難破船が漂流した島で始まるサバイバル。少年は舵取りを誤った自責の念でいじいじする一方、両親に禁止されているにもかかわらず好奇心のままに島をうろつき、そこで見かけた少女を追いかけてしまう。そんな少年がみせる成長の著しさに瞠目した。何が大事で自分は何をなすべきか定まった人の強さには納得。
自分にそっくりな男や、異様なまでに敵意に満ちて暴力的な村人たち、沖から聞こえる不気味な音。不思議で不気味なことだらけだが、謎を解いてつじつまをあわせることはしない。不可思議で神秘的な一連の出来事の意味は明かされるが、理詰めで理解できるような説明ではないものの、違和感はなかった。
ただ、押し寄せる波の恐怖やスケールが思い描きにくかったのと宗教に対する強い感情が今ひとつ分かりにくく、今ひとつストーリーを楽しめなかった。
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神田 宏
評価:★★★★★
クライマーとカヌーイスト必読の冒険奇譚。と思いきや本書はそんなに単純ではなかった。両親とヨット「ウィンドフラワー」に乗って大海を行く少年「キット」は霧深い島に座礁してしまう。そこには、悪意に満ちた閉鎖的、狂信的終末論を信奉する島民達がいた。両親とはぐれた「キット」の前に現れる少女と、謎の裸体の男。そして海から聞こえてくる不気味な声。キリスト教的終末を強く感じさせながらも、島を囲む大海の霧深い乳白色の海にはそれがまるで生命を宿すかのようなアミニズム的世界が広がる。島民の原始的宗教観も強くアジア的なものを惹起させる。島民の信奉する「神」への反感から「神なんか信じたことはない」と少女に言う「キット」であったが、過酷を極める現実にやがて「善なるものを信じたい」と強く願うようになり、絶望からやがて、死をのぞむようになる。丸山健二を彷彿させる世界観。そして訪れる黙示録的終末。一神教と多神教、神と悪魔、そういった2項対立には分化され得ない物語。水のイメージが強く惹起される、冒険奇譚の装いを纏った魂の書である。
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福井 雅子
評価:★★★★
両親とともにヨットで旅をする15歳の少年キットは、ヨットが難破してたどりついた不気味な島で、不思議な少女や自分にそっくりな謎の男に出会う。島民たちの憎悪、次々に襲いかかる災難、海中をうろつく不気味な生き物と恐ろしい叫び声、あたりにただよう異様な冷気、悲劇的な状況のなかでキットはあきらめずに立ち向かう。
神、悪魔、呪い、怨霊、タイムスリップ、海中の不気味な生物など、SFもオカルトも冒険小説もなんでもありの中身の詰まった物語である。緊張感のある文章が物語を盛り上げ、ただでさえ波乱に満ちたストーリーが映画のような迫力を伴って迫ってくる。主人公の少年が見違えるように強くたくましく成長してゆく姿も十分に楽しめる。謎の男の正体や不気味な生き物の正体が最後までわかったようでわからないなど、いろいろ盛り込みすぎてやや収拾がつかなくなった感はあるが、少年が愛と勇気と希望を胸に命をかけて闘い成長する物語という部分では、スケールといい迫力といいまさに大型冒険小説であり、読み応え十分である。
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磯部 智子
評価:★★
あれっ?と思い、子供の本棚を捜してみるとボウラーのカーネギー賞受賞作『川の少年』があった。ああ児童文学なのかと思い読み始めたが、かなり厳しい展開だった。児童文学が、あまり人生を否定的に捉えると、これからという時に気持ちを挫いてしまう。かといって、あまりに作家が過去を(子供時代を)美しいものとして描くと、現実との間に溝が出来る。この作品では困難があっても立ち向かう、そういう姿が描かれているが、あまりに大きく得体が知れない「黙示」そのものに困惑してしまった。15歳のキットが両親と航海に出てから、ずっとおかしなことが続いていた。結局船は難破し、やっとたどり着いた島には、奇妙で異常なほどの敵意を持つ島民たちがいた。そこから凄まじいサバイバルの幕開けとなるのだが、タイトルからも想像できるように、敵の正体がかなり暗示的で、「黙示をとめること」の意味を絞り込めず、理不尽さと戦うという目的より、その過程における暴力の印象が勝ってしまった。
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林 あゆ美
評価:★★★
ティム・ボウラーは怖い。この本を読むはじめたら、空は真っ暗、雨は滝のようで、まさにぴったりのシチュエーションで、あまりに物語と現実の空気がシンクロしていて、何度も本を閉じた。
家族3人は海に出るが、突然、コンパスもきかなくなり、島に漂流する。無人島かと思いきや、そこは、独自の宗教を信仰している人たちのコロニーで、外から入ってくるものは、すべて邪悪だと信じていた。なぜ、少年の家族はこの島にきてしまったのか。島の地元民らとの対立は、悪い方向にばかりいき、とうとう、少年の両親はいなくなってしまう。そんな時に出会う、不思議な少女、少年と同じ顔をした男性が登場。次から次へと襲ってくる災難に果敢に立ち向かい、最後までハラハラと、本を閉じたり開いたりしてしまう。
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