WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年7月の課題図書 文庫本班

痙攣的
痙攣的
鳥飼否宇 (著)
【光文社文庫 】
税込620円
2007年5月
ISBN-9784334742447
商品を購入する
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  荒又 望
 
評価:★★☆☆☆
 ロックや現代美術、イリュージョンなどを題材にした異色の短編集。
 タイトルのインパクトも強烈だが、中身も相当にアクが強い。一応、推理小説。でも謎解きに主眼が置かれているわけではない。一応、連作短編集。でも各篇のつながりは実に微妙。と、なんとも歯切れの悪い表現しかできないような奇奇怪怪さ。
 なんなんだ、これは? と首を傾げっぱなしで読み進めるうちに、わけのわからなさは加速していく。どんどんどんどん暴走して、もう誰にも止められない。読み終える頃には、ぐるんぐるんに振り回されて攪拌されて、右も左も上も下もわからなくなる。なんなんだ、これは! と叫びたいような気持ちに襲われ、怒れば良いのか笑えば良いのか、途方に暮れてしまう。きっと著者は、そんな読者をどこかから見ていて、ニヤリと笑っているに違いない。小説というジャンルの懐の深さにつくづく感服してしまうほど、もうなんでもアリの1冊だ。

▲TOPへ戻る


  鈴木 直枝
 
評価:★★☆☆☆
「おたく小説!?」が第一印象。登場人物の当て字名、なにげで捲った箇所に並ぶ0と1の2進法の行列、〜モンド氏の逆説というサブタイトルの意味不明。だが、実際は、神話的ロックバンド「鉄拳」の初ライブ中にメンバーが消えプロデュサーが変死した事件を、関係者が視点の角度を変えながら追究していく。同じ読みをする名前が別の章で登場する。「アイダアキラ」「ヒグラシモンド」。時に辛口の音楽批評家だったり気象学者だったり人格分裂を起こしたりで、正直よくわからない。が、理解出来ないながらも読むことを止められないのは、スピード感と先が読めないことの成せる技だ。
「これは何?」「私はどこにいるの?」日本海の孤島で雷を呼び込むイリュージョンアート会場で起こる死亡事件を扱った「神の鞭」、まっとうな大人が皮のスーツを着て格闘する、もう笑うしかないという設定の「電子美学」など後半も読ませる。
 書店で好んで手にすることはなかったかもしれないが、読書の幅を楽しく広げてくれた作品だ。その彼が「激走福岡国際マラソン」も執筆している。こちらにも興味がある。

▲TOPへ戻る


  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
高度である。読者を選ぶ作品だ。まずミステリーを普段から精読していて既存の枠からはみ出ていないと満足できない人。
それに加えて現代アート、ロック、サイエンスなどの今日的話題についていける人。
そもそもこのタイトルから人を選んでいるような態度であるから、手に取るような読者はこの条件を満たしているのだろう。
作者が読者を試しているのと同様に読みながらこちらも作者がどこまで行くのかを見届けるような具合である。
ただしその見届け先にカタルシスは予感してはならない。裏切りとギリギリのパフォーマンスも含めて芸といわなければならないだろう。上記に挙げた条件以外でも単純に現代アートの雰囲気を味わいたい人でも楽しめるかと思う。
ただしこれらのジャンルに精通している人にとってはむしろそれらが単に装置として書かれているだけなのが不満に残るのではないかと思う。

▲TOPへ戻る


  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
『痙攣的』とはまた挑発的で衝撃的な題名じゃないのと読み始める。
 まずは壊滅的に炸裂的なロックグループのデビュー公演で起こった謎の殺人事件を振り返る二人の男の物語。ミステリー仕立てで挑戦的なもっていき方、これはなかなか魅力的な作品だとページを進める。
 続いては、先進的で現代的なアートイベントにおいて繰り広げられる殺人事件。一話目と同じ評論家が登場するところを見ると、芸術を題材にした連作の短篇ミステリーであったかと論理的に納得。
 続いては幻想的で超自然的なイリュージョンの幕が切って落とされ、そこで突発的に起こった神罰的な事故。
 しかしある意味系列的で調和的に進んできた物語の方向性は、このあたりから錯乱的に暴走的な展開を見せる。「いいのか?これでいいのか?」と啓示的な声が頭に響いた気はしたが、とりあえず「これでいいのだ!」とバカボンのパパ的に無理矢理納得し、僕は本を閉じた。

▲TOPへ戻る


  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 作者の作風について予備知識がないと「ええと……これはどういうこと?」と思うタイプの連作短編集です。
 最初の何作かは、端正でややビターな感じの本格ミステリが並び、せいぜい、登場人物が微妙に被ってるなあ、ってのが気になる程度ですが、読み進めるに従い、予想をはるかに超えた展開になって「はぁ?」と思ってしまう。一歩間違うと、本を投げつけちゃう人が出かねない、おかしな場所に連行されるのです。俺にとっては面白かったけど、人を見て薦めた方がいいのかな、と思います。

 洋楽を全く聴かないので、要所要所に散りばめられてるロックについてのネタも、知ってたらきっと面白かろう、とは思いながら、さらっと流す破目に……もし、この音楽ジャンルがお好きな方でしたら、薦めても怒られないかもしれません。

 にしても、何で俺は、こんなに恐る恐る推薦文を書いてるんだろう? 強くは推せませんが、好きな人にはたまらない、そんな作品集。

▲TOPへ戻る


  横山 直子
 
評価:★★★☆☆
こだわって、こだわって、こだわって書かれたのだと思う。
例えば、「廃墟と青空」を例にとれば、私はロックの知識がからきしないので、そのこだわりに気づきようもないのをまことに残念と言わざるを得ない。
逆にロックに明るい人であれば、これほど面白い小説はないのかもしれない。

本格的推理小説なので、殺人事件が続出なのだが、どうにも読んでいてニンマリしてしまう。
ブラックユーモアとダジャレが怒濤のように押し寄せてくるのだ。
特に「電子美学」と「人間解体」ではいかのオンパレードでつい先日、生協で注文したばかりあのいかの角切り(切れ目入)が脳裏に浮かんで、笑えて仕方なかった。
なにしろ、いか、いーか、いっかの世界なのだから。
この笑いを誰かと共有したくてたまらない。
だからあなたに読んで欲しい。

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年7月の課題図書 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved