WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年7月の課題図書 文庫本班

伝説のプラモ屋
伝説のプラモ屋
田宮俊作 (著)
【文春文庫】
税込600円
2007年5月
ISBN-9784167257040
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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 世界有数の模型メーカー「タミヤ」社長の著者が、模型を、会社を、そして人を語る。
 技術屋、機械屋など「○○屋」という自称には、自身の仕事への強い誇りと愛情を感じる。伝説のプラモ屋。タイトルだけで、胸がときめく。
 社内外を問わず、タミヤに関わった人々が実にたくさん登場する。カルロス・ゴーン、アイルトン・セナなどの名前ももちろん目を引くが、「アキハバラとシズオカ(タミヤの本社所在地)に行きたい」と願う観光客や、市長に直談判してタミヤ研修留学を果たした青年など、無名のファンのエピソードが光っている。ひとりひとりについてもっと詳しく読みたい気もするが、きっと著者は「あの人もこの人も」と皆のことを書きたくなったのだろうと想像すると、物足りなささえ好ましい。
 残念ながら専門用語はちんぷんかんぷんだが、プラモデルとは無縁でも、じゅうぶん楽しめるはず。特に『プロジェクトX』が好きだった方ならば、胸熱くすること間違いなし。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
「なにくそ」とはカージナルスの田口壮が試合に出場出来なかった頃自分を奮起させるために使った言葉と聞いたが、本作も田宮俊作の「がむしゃら」の意気がほとばしる言葉の列挙だ。今でこそ1億あまりの日本人が一人1台以上買っている計算になる世界最大の田宮模型だが、高い技術力を誇る会社の多くがそうであったように「売れない、借金」のどん底期の「今畜生」が根底にある。遮二無二働き、金のないときは知恵をだし、文句を言う前に研鑽努力してきた。だからこそ、人が技術が客が着いて来た。始めに道は無かった。田宮が歩き汗した後に道が出来たのだ。亡父の愛用ノートの最期の言葉は「流汗悟道」。現実には努力の数だけ報いがないこともある。誰しもが成功企業の社長になれないかもしれない。けれど、本当に退路を絶たれた時の踏ん張りの強さや「これでもかこれでもか」という粘りには、恐れ入る場面が多い。プラモデルやミニ4駆への苦労の軌跡も多いが、趣味の範疇にない私にも十分に楽しめた。
 へなちょこに安穏と生きる自分の小ささを見せ付けられ、座禅で背中を思い切り叩かれた気分。(って座禅したことないけれど)

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★☆☆
 タミヤって言ったらもう、私の小学校時代においては子どもたち全員のもんのすごい憧れでした。おそろしく流行った言わずと知れるプラモデル会社。そのタミヤを作った人の本をこんなところで読めるなんて、とても嬉しい気持ちで少しずつ読みました。
 社長や、何かの一代を築いた人というのは、必ず何らかのドラマを持っています。田宮さんももちろんそう。父を継いで会社を続けていく決心に始まって、ワールドワイドな業務の運営、「ものづくり」というあらゆるものの原点を極めるということ。子どもの頃夢中で作っていたプラモデルが、こんなにたくさんの人々の夢や希望を載せたものだったとは、その頃は気づけなかった。だから今読んで、すごく良かったな、と思っています。
 今年の春入社したばかりの私は、隣の席の先輩に「ソツなくまとまるより、新人は度肝を抜くようなことをやれ! それが武勇伝になるんだから!」と言われ、かなりびくぅぅ、としていたのですが、確かにそうなのです。ソツなくまとまるのはいつだってできるのだが、そうではなかった“かつて”を持っているというところにその人の勝因はあるのですよね。この本を読むと、それがよくわかります。この田宮さんも、最初から度肝を抜くようなことをかーなりやっています。
 彼が持つ多くの人間関係や武勇伝が余すところなく感じられる、パワーのみなぎった本です。仕事を頑張る元気がわいてくるような素敵な自伝を読ませていただきました。

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  松岡 恒太郎
 
評価★★★★☆
 どっぷり昭和の少年であった子供の頃の僕にとってプラモデルは、人生の必須アイテムと言っても過言ではなかった。しかし月々の小遣いで買えるのはいつもイマイのロボダッチが関の山で、僕はタマゴロウその他四体が入った安っぽい箱を握りしめながら、棚に並んだ別格の模型たちに熱い視線を送り続けていた。たかが模型と言うなかれ、神々しく輝くタミヤのツインスターのマークは、いつも少年達の憧れの的だったのだ。
 こだわりを持ちつづけること、努力を惜しまぬこと、儲けを優先しないこと。そんなあたりまえの企業哲学を貫き通すことが重要なのだと田村氏は言う。戦後の焼け野原がスタートの静岡の小さな模型屋が、いかにして世界のタミヤ模型になりえたかの理由は、きっとそこにあるのだろう。
 そしてタミヤという砦には、いつしか七人の侍のごとく一癖も二癖もある魅力ある人材が集まったのだった。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 人の一生の大半は、仕事に時間を取られる訳でして。ならば、好きなものを仕事にすることが、人生において最も重要だ、と俺は思っています。現在の自分は、その点でちょっとそれちゃってるかも、と思うこともあるのですが……それはともかく。

 この本では、70歳を過ぎた今も、プラモデル制作に日々精進する「世界のタミヤ」の社長が、「やっぱプラモって楽しいわー。プラモは天職」と語りまくっています。あ、こんなに砕けた物言いじゃないですよ、念のため。

 俺自身は、子供の頃は家が貧乏だったので、プラモもラジコンも買ってもらえず、タミヤのツインスターは手の届かない憧れでしたが、可処分所得がそれなりにある今なら……家族に怒られるので手が出せません。しょんぼり。

 好きなものについて、好きなだけ語るその言葉に、心打たれないようなクリエイターは、エンターテインメントに関わる資格は無いです。ものつくりに携わるすべての人の必読書。

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  横山 直子
 
評価:★★★☆☆
かすかな記憶をたどれば、幼い頃、父が戦艦大和のプラモデルを作っていたのを手を出さずに息を殺さんばかりに見ていた。
一つひとつ部品をはずしたり、接着剤でパーツをつけるのを側でじっと見ていた。
そんな場面をふと思い出した。

本著はプラモデルの世界最大メーカーと言われる田宮模型の社長が書いた一代記である。
富士山に抱かれた静岡でプラモデルを作り始めた昭和30年代から、フィリピンに生産工場を構え、世界90か国へ輸出するようになった現在にいたるまでの軌道。
田宮俊作さんのモノをつくる楽しさが各ページから満ち溢れている。
その中に、とても心に残るエピソードがあった。
「人はだませても自分はだませない。自分が愛せないキットを発売してしまったら、自分自身を許せなかったに違いない」。
数字にすれば一ミリにもみたない誤差ながら、「何となく厭だ」という気持ちを尊重し、キットの販売を遅らせた。
その結果、数千万円の費用と一年の時間がかかったそうだ。
ここまでのこだわりに、頭が下がった。しみじみ感動した。
F1ドライバーのセナ氏や日産のカルロス・ゴーン氏とのプラモデルを通じての触れ合いも読んでいて心温まるものがあった。
プラモデルを前にすると、誰もが少年の心に戻れる瞬間があるようだ。

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