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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年7月の課題図書ランキング

百歳の人―魔術師
百歳の人―魔術師
オノレ・ド・バルザック(著)
【水声社】
定価3150円(税込)
2007年4月
ISBN-9784891766368
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  神田 宏
 
評価:★★★
 バルザック。恥ずかしながら未読である。イカン!と思い立ち『人間喜劇』を探しに書店に。見つからない。絶版かい?と思いつつも『谷間のゆり』を手に取り、えーい、ままよとばかりに、買わない。てなわけで初バルザック。おー、1822年刊、とは思えないみずみずしさ、現代のオカルトティズムにも通用するまがまがしさ。ナポレオン軍に使えるベランゲルト将軍。そして彼に似た「百歳の人」と呼ばれる人が病に苦しむ父親を思う少女をさらって〈グランモンの穴〉に消える。それを偶然、目撃した将軍の脳裏に浮ぶ過去。ゴシック的まがまがしさに、大仰なロマンティシズムをブレンドしたようなキッチュな感覚。メスメルなる実在の医師による生命流体を応用した謎の医学、薔薇十字なるこれまた実在の秘密結社の錬金術を背景にした幻惑的イメージの作品への投射は巻末の解説に詳しい。革命に揉まれ神学世界が相対化され、やがて時代のパラダイムシフトが変遷しようとしている時、青年バルザックはそういった時代の雰囲気を生き生きと通俗小説の上に定着させていたのだった。ニーチェ生年1844年。フロイト同1856年。時代の胎動が始まる息吹を感じさせる作品だ。

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  福井 雅子
 
評価:★★★
 バルザックが若かりし頃に書いた流行小説で、バルザックの全作品の中でもやや異色の作品。謎めいた不死身の老人を軸に怪奇、幻想を盛り込んだゴシック風の物語。
 ゴシック調の時代がかった雰囲気を楽しもうと読み始めたが、物語としても十分に楽しめる内容だった。構成が入れ子状になっていてややわかりにくい部分もあるが、翻訳が新しいため、とても読みやすい。大衆小説的筋書きながら、人物の描写やストーリーテリングに才能の片鱗が感じ取れ、たとえこれがバルザックの作品だと知らずに読んだとしても、大衆小説として読み捨てられるには惜しいという思いは確かに残るだろう。作品の完成度は決して高くないように思うが、後の大作家につながる才能のきらめきを拾いながら読む楽しみがある作品。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★
 若き天才ベランゲルト将軍の人生には、常に自分と同じ名前、同じ顔を持つ老人の影がつきまとっていた。一説によれば300年近く生きているというその「百歳の人」は、べランゲルトを時に助け、時に苦しめ、奇怪な事件を巻き起こしながら、秘儀の生贄を求めて、異様な光を湛えた目で周囲を見つめていた――。
 19世紀フランス最大の小説家バルザックが若かりし頃に物した、糊口を凌ぐための変名によるゴシック小説。永遠の生への憧れと死を操る者への畏怖、死後の世界の想像、という普遍的なテーマを扱っていることもあるが、ナポレオン戦争当時を描き、典型的なゴシックの手法を用いながらも古くさい感じはせず、あふれんばかりの想像力(幻想力といったほうがふさわしいかもしれない)に彩られた世界に惹き込まれた。バルザックといえば文学史的な知識だけで読んだことはなかったのだが、若書きでこれだけおもしろいのなら、他の知られざる作品ももちろんだが、『人間喜劇』にも挑戦してみたくなった。

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  磯部 智子
 
評価:★★★
 バルザック! まさか「新刊採点」に19世紀の文豪バルザックが課題になり、今また読むなんて。最初少し読み難いかなと思ったが、徐々にその豊かな世界に慣れていった。善良で単純、骨太で豊潤、描かれている通りの、看板に偽りのない登場人物たちが繰り広げる人間喜劇、今回のお題は恐怖だった。恐怖とは自分の中に巣食うそれを見つめることであり、時の流れとともに何に恐怖を感じるかは変遷していく訳で、当時の感覚を完全に踏襲することは出来ない。かといって楽しめなかった訳ではない。バルザックの特徴は「マニアックな人々」が「野卑と悪徳」を発揮することだと言われるが、「呪われた放浪者」である「百歳の人」が遺憾なくその役割を担い、時空を超えあらゆる人間の運命を翻弄していく。その古の過剰な人々が息づき動き回る世界に、暫しトリップし濃厚な読書を味わった

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★
 帯にある怪奇、幻想、ゴシック的恐怖という言葉に重々しさを感じ、なおかつ本体もずっしり400ページ近くあるので、読み始める前からひるむ。しかし、予想に反して、読みやすかった! ぐんぐん読めておもしろい。話の筋はそれほど込み入っておらず、ただ、何かにつけ描写がことこまかく、“……………”だけで数行を費やしていたりするのだけれど、この饒舌な描写が小説の味。
 ベランゲルト将軍が月夜にグラモン山に登り、そこから見える光景に心を奪われていると、若く美しい娘が目に入る。夜歩きする娘は誰か。挿絵も魅力的で、陰影に富み、これからの娘の運命、将軍との関わりなど、わくわくして続きを読みたくなる出だし。章ごとにこれからの筋立ての見出しもついているのも、わかりやすい。おどろおどろしながらも、軽やかなバルザック。いまどきのエンターテインメントとは一味違う、200年近く前の流行小説をこうして楽しめるのは至福。

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