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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年8月の課題図書ランキング

カシオペアの丘で
カシオペアの丘で(上下)
重松 清(著)
【講談社】
定価1575円(税込)
2007年5月
ISBN-9784062140027
ISBN-9784062140034
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  小松 むつみ
 
評価:★★★★☆
 なんだか「ずるいよなぁ」という感じである。こういう話には、心をズドーンと持っていかれる。ボロボロ泣きたいときにはいいけれど、正直なところ自分で進んで手に取りはしない。
 しかし、そこはさすがに重松氏、比較的多い登場人物ながら、すっと物語に入っていくことができる。うまい。幼なじみ4人の、小学生のころのエピソードに始まり、それぞれが40歳を目前にした現在が描かれていく。長い間交わることのなかった人生が、一通のメールで再び束ねられていく。
 家族とか、友人とか、身近な人の最後に立ち会うのは誰しも避けられない。当然ながら、そこには深い悲しみを伴う。しかし、そこから、それから、残された人々はどう生きるか、永遠のテーマである。

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  川畑 詩子
 
評価:★★★★☆
 とにかく、どの人の生き方もすごく丁寧。
 再会した幼なじみのシュンは、余命わずかと宣告されていた……。残された命が短いから、間違いが無いように、どの人も真摯に一生懸命にシュンに向き合う。精一杯いい人であろうとする。いや、根っからみんないい人なのだ。それが、さらにいい人、真摯な人であろうとする。あまり多くを語らない文章なのに、行間から、その気合いが濃厚に立ち上って、ちょっと息苦しいくらいだ。
 舞台は、かつては炭鉱で栄えて今では人口が減った町。慰霊の観音像と人の入りが悪い遊園地がある。架空の町なのに、歴史の重みが感じられてリアルだ。かつての炭鉱事故や、幼なじみの事故、恋人とのつらい別れなど、彼らの人間関係は複雑にからんでいる。人を傷付けたこと、傷付けられたこと、それらすべて含めて幸せだったと思えて、愛しい人たちにちゃんとさよならを言うために、愚直なまでにまっすぐに過去と向き合い、人と向き合う。お互いがかけがえ無い存在で、慈しみあっていることを2巻かけてたたみかけてくる。
 命、許す許されること、これらの重いテーマを、ストレートになげかける力作。

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  神田 宏
 
評価:★★★☆☆
 星降る夜、ふるさと北海道の丘で夢を語り合った、少年少女が時を経て再び丘に集う。しかし、その時、主人公俊介は末期の癌で余命いくばくもない。祖父の『倉田鉱業』の企業城下町として栄えた町も炭鉱の閉鎖で寂れていた。そんな、ふるさとに戻ることにした俊介。そこでの幼少時との友との再会。そして過去の忌まわしい炭鉱事故の責任者である祖父の贖罪めいた行動。夢と贖罪。そして、再生される希望の物語である。著者の『カカシの夏休み』を彷彿とさせる感動の作品であることは間違いない。が、『流星ワゴン』など、過去の作品の再生産のようなうがった見方をしてしまう私にとっては、予定調和に素直に感動はできなかった。

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  福井 雅子
 
評価:★★★★★
 複雑な因縁を抱える幼なじみ4人が、そのうちの1人がガンを告知されたことをきっかけにそれぞれの過去に向き合おうとする姿を描いた長編小説。
 幼なじみの4人はもちろんだが、そのほかの登場人物も含めて、人物の描写が丁寧で、それぞれの内面まで深く掘り下げた描写が、物語に厚みを加えている。一歩間違えれば説教臭い話になりかねない内容を美しく感動的に描ききれた訳の一つは、生き生きと魅力的な人物描写にあるだろう。「人をゆるすこと、ゆるされること」という極めて難しいテーマに挑んだ作品ながら、「難しいなあ」で終わることなく著者なりの考えが示されていて、読者は静かにしみじみと納得できる。悩める登場人物たちの会話には「そうだよね、本当に……」とつぶやきたくなる言葉がいくつも含まれていて、久しぶりに静かに感動した作品であった。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★☆
 「ゆるしたい相手を決してゆるせずに生きていくひとと、ゆるされたい相手に決してゆるしてもらえずに生きていくひとは、どちらが悲しいのだろう」――。
 北海道の炭鉱だった街で幼なじみだった、トシ、ミッチョ、シュン、ユウちゃん。皆で星を見上げた夜の夢が叶った場所、「カシオペアの丘」が、ある悲しい事件をきっかけに、大人になった4人を再び結びつける。
 自分が傷つけ、あるいは傷つけられた、他人、友達、恋人、家族――それぞれが切ない事情を胸に抱え、「カシオペアの丘」に集まった人びとが、それでも他者との関係性のなかで、本当にゆるさなければならない相手=自分と向き合っていく過程が、星が燦燦と煌く夜空をはじめとする思い出の風景を浮かび上がらせながら、瑞々しく丁寧に描かれていて、本当に美しく、そして哀しい。幼なじみの4人が、彼らを育んだ北の大地のように、時に頑固で厳しいが、強く、優しいことに救われる。

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  磯部 智子
 
評価:★★★☆☆
 良心を持つ登場人物ばかりが登場する。それのどこが悪いのかと訊かれたら、大きな声では言えないが、理想が現実を乗っ取った世界には違和感があると小さな声で言いたい。しかもその理想の比重が男性に都合よく配分されてはいないか、と付け加える。登場人物誰もが自省し、そして他者を許す強さを身に着けた大人達であり、巷間使われる「大人になる」=世の中と折り合いをつけるというのは全く逆で、青いまま成熟しているのだ。そんな人生の遊園地はどこにあるのかとも思うのだが、小説の中では、男3人女1人の幼馴染たちが実に良く「あの頃」の原型を留めている。東京に住む二人と、北海道で夫婦になった二人、物語はその中の1人俊介が肺癌を宣告された時から動き出す。恵まれた環境で育った俊介が何故故郷を捨てたのか、故郷のカシオペアの丘で遊園地の園長をつとめる敏彦は何故車椅子の生活を送らなければならないのか。そして妻の美智子は何を隠しているのか。非常に上手い作家だと思う。それぞれが重いものを背負いながら生きてきたことに説得力があり、その結果としての現在に破綻なく繋がる。しかし不惑の年齢にしてジタバタするのが人間だと考える私にとって、この贖罪と許しの物語を未だ咀嚼できる境地には至っていない。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★☆☆
 重松作品には、泣き所のツボを抑えられているようだ。北海道をメイン舞台にしたこの物語は、不況感や閉塞感に非常に近しいものがある者としては、まさにツボで、自分でも呆れるくらい、ぼうぼう涙を流しながら読んだ。
 北海道にカシオペアの丘という遊園地がある。ここは、4人の幼友達にとって故郷だ。丘を中心に、真由ちゃん家族を襲った悲劇、シュンの闘病が、縦に横に織りなしながら物語を紡いでゆく。そのどれもが、人ごとじゃない気がして、没頭して読んだ。
 泣きすぎたせいなのか、読了後に残るものは重い。明るい光もあるのだけれど、貧乏な地方の在り方に、切実な悲哀がいやになるほどリアルだからだ。大きなテーマとして、人が人を許すことが流れているが、それが普遍化されているとは感じられず、リアルなのだけど、ちょっと距離を感じてしまった。

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