第二十七回 哲学の道−伏見稲荷−亀山−四間道 その1

  • 続 京都の大路小路―新たに歩いた105路の歴史・文化・観光
  • 『続 京都の大路小路―新たに歩いた105路の歴史・文化・観光』
    千 宗室,森谷 尅久
    小学館
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  • 『バイトやめる学校 (SERIES3/4 1)』
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    1,540円(税込)
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 十一月十四日(土)から二泊三日、京都と三重に行って帰ってきた。
 ひさしぶりに旅行らしい旅行だった。このあたりから新型コロナの感染者数も増加し、旅をするのも気が重い。

 京都行きの一週間前から酒を控え、体調を整え、旅先でも無理せず、歩きすぎないことを心がけた。
 京都駅には十四時前に到着。ミニコミ『些末事研究』の福田賢治さんにとってもらったホテルは大宮(四条大宮)の近くだったので、京都駅から地図を見ず、適当に歩いて行くことにする。
 最初に歩いたのは新町通。白山湯六条店という銭湯のところでよさそうな小路があったので西に曲って六条通。ゲストハウス、旅館がけっこうある。西洞院通りに出てしばらく歩くと楊梅通という細い道があり、油小路通りへ。
 京都の道に関しては千宗室、森谷尅久監修『京都の大路小路』『続 京都の大路小路』(小学館、一九九四年、九五年)が南北、東西の路をイラスト付で紹介していてとにかく詳しい。
 堀川五条の交差点で大きな歩道橋を渡る。ここまで来れば、余裕である。
 北に向って鞍馬街道(堀川通り)を歩いて京都堀川仏光寺郵便局のところで西に曲がって仏光寺通り。猪熊通りの天道神社に寄り、待ち合わせのホテルに十五時ぴったり到着した。
 ホテルのロビーで福田賢治さん、小説家でミュージシャンの東賢次郎さんと待ち合わせ。バスで錦林車庫まで行き、ホホホ座浄土寺店へ。斜向いのホホホ座の古書店にははじめて入った。そのあと哲学の道をおっさん三人で歩く。観光客がけっこういる。大学生くらいの若者の集団も何組か見かけた。もっと人が少ないとおもったが、そうでもなかった。哲学の道を歩くのは二十年ぶりくらいか。琵琶湖疎水分流に沿った曲がりくねって道は楽しい。

 前述の『京都の大路小路』によると、大正時代に「京都帝国大学の西田幾多郎、河上肇、田辺元らの哲学者が散策したことから『哲学の道』と呼ばれる」ようになったとある。
 歩道そのものは明治期の一八九〇年に作られた。洗心橋付近には谷崎潤一郎の墓、河上肇の歌碑などもある。

 京都は古い道が多すぎて、それが当たり前というか、特別感がない。わざわざ探さなくても至るところに史蹟がある。
 今出川通りと白川通りの交差点を経て古書善行堂へ。一年くらい前に参加した古本市の売り上げを受け取る。片道の交通費分くらいか。
 古書善行堂で『都会なんて夢ばかり』(岬書店)という自伝エッセイ集を刊行したばかりの世田谷ピンポンズさんと合流する。
 そのあと出町柳の村屋へ。店に行くと、古着のリサイクルのファッションブランド「途中でやめる」の山下陽光さんが服を展示販売していて、ミニコミの座談会にも急遽参加してもらうことになった。山下さんは『バイトやめる学校』(タバブックス)の著作もあり、わたしがかれこれ三十年以上暮らしている高円寺にもいたこともある。共通の知り合いは何人かいるのだが、会ったのはこの日がはじめてだった。
 座談会のあと、タクシーに乗り、深夜〇時すぎ、餃子の王将の四条大宮店(一号店)で遅い夕食をとる。「餃子の王将発祥の地」の石碑あり。
 注文したラーメンと餃子が来るまでのあいだ、わたしは寝てしまう。王将の餃子はうまかった。

 翌日も午前中から座談会。そのあと京都から三重の帰り道で降りたことがない----以前、地図を見て気になっていた京阪の鳥羽街道駅周辺を探索してみることにした。
 鳥羽街道という駅名だが、地図を見ると駅を出てすぐ東側に奈良街道(大和街道)がある。
 駅周辺だけでも無数の寺があり、駅の西、十条通り沿いにファミリーマート師団街道深草店で地図を見る。師団街道は知らなかった。いわゆる昔の軍道のようだ。
 十条通りの何とか橋を渡って師団街道をちょっとだけ見に行く。そこまでピンとこなかったので、再び鳥羽街道駅まで戻り、奈良街道を歩くことにした。
 道幅が旧街道っぽい。南に向かって歩いていくと、千本鳥居で有名な伏見稲荷大社がある。
 伏見稲荷大社、映像や写真では何度となく見たことがあったが、想像していたよりずっと広い。気楽に寄ったら、鳥居だらけで山のほうまで続いている。ちょっとしたアスレッチックだ。おそらく通常の観光シーズンと比べれば、それでも人出は少ないほうだろうが、それでもけっこう「密」になるくらい人が歩いている。どこまでも続く鳥居。キリがないし、終わらない。これは「途中でやめる」のが正解だろう。四十分ほど伏見稲荷内をうろうろ歩いて元の道に引き返す。
 JR奈良線の稲荷駅から桃山駅へ。そこから近鉄の特急で郷里の三重県鈴鹿市までの帰り道、松阪あたりで途中下車し、文学館か資料館に寄ろうと考えていた。
 ところが丹波橋駅に行ったら、電車の遅延でいつ動くかわからないといわれる。仕方がないので再び桃山駅に戻り、JRで奈良駅方面に向うことにした。ここからは勘で動く。こういうときにスマホを持っていれば、乗り換え案内がつかえて便利なのだろうが、なければないでどうにかなる。
 後から判明したのは、奈良駅まで行かず、二つ手前の木津駅で乗り換えたほうが早かった(そういえば、高校生がたくさん降りていた)。三重から奈良や大阪や京都に行くときはほとんど近鉄に乗っていたのでJRの路線に疎い。
 奈良駅から大和路線で加茂駅、そこから関西本線の亀山駅を目指す。山の景色をたっぷり堪能し、亀山駅に到着したのは十八時前。十八時十二分の平田町行きのバスに乗る。三交バスの終バスが十八時五十分。
 伏見稲荷を途中で引き返さず、そのままさまよい続けていたら、終バスに間に合わなかったかもしれない。
 そのときはJR関西本線で亀山駅から東海道の庄野宿のもよりの加佐登駅まで行って郷里の家まで歩いて帰ればいい。ただし加佐登駅の周辺は店が何もなく、真っ暗闇の道を歩くのは、できれば避けたかった。バスに乗れてよかった。