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3月5日(木) 広告写真

「文藝春秋」5月号(4月10日発売)のグラビアに出ることになった。「小さな大物」というグラビア企画で、幼いときから現在までを写真で振り返るという趣旨のようだ。小学校入学前の写真がないと成立しない企画らしいが、幸いなことにその時代の写真が残っていた。2歳ごろの写真である。

 全部で11枚の写真が必要とのことなので、古いアルバムを引っ張りだした。現在の写真は新たに撮るということなので、私が用意するのは10枚のみだ。

 小学生時代の遠足写真はあまりに多くの人が映っているので、どこに自分がいるのか、いくら見てもわからない。幼いころの写真はそういう遠足写真が中心で、あとは極端に少ない。毎年夏になると父親の勤めていた会社の海の家が江ノ島にあり、そこに行ったときの写真が残されていたが、いま見ると写りも鮮明ではなく、白くぼやけているものが少なくない。そこに映っている五人家族のうち、すでに三人が鬼籍に入っている。

 中学に入ったころからカメラの性能も飛躍的に増したようで、綺麗な写真が多いが、それでも高校大学時代の写真はすべて白黒である。昭和47年の(当時勤めていた)社員旅行の写真ですら白黒なのだ。昭和51年の社員旅行の写真はカラーであったから、カラー写真が一般的になったのはその間と思われる。あやしい探検隊の初期(三宅島遠征)の写真はもちろん白黒である。

「本の雑誌」の創刊以降の写真はほとんどアルバムに貼ってない。机の引き出しにばらばらに入っている。それらをひっぱりだすと、つい1枚ずつに見入ってしまう。いちばん見入ってしまったのは、池林房前の集合写真だ。
 配本の打ち上げを池林房で行い、帰りに全員で店の外で記念写真を撮ったのだろう。現在社長の浜本茂が入社した年なので、いまから30年ほど昔のことだ。当時学生の吉田伸子も映っている。当たり前のことだが、みんな、若い。

 そうして古い写真をあちこちから引っ張りだしていたら、思わぬものが出てきた。どこかの雑誌に載ったと思われるA4大の写真のコピーである。私がなんとモデルになって映っているのだ。私の体の横に大きく、「ダブルフェイスのブルゾンは同系色でシンプルに」とコピーがあり、左下に小さく、「レザーブルゾン47万2500円、ニット4万8300円、シャツ2万9400円、パンツ4万2000円、サングラス3万7800円(以上エルメネジルド ゼニア/ゼニアジャパン」とある。

 つまり広告写真である。まったく記憶にないが、そこに映っているのはまぎれもなく若き私である。47万のレザーブルゾンなんて持っていないから、この撮影のときだけ着たものだろう。いまより全然若く、全然痩せている。いったいどの雑誌に載ったものなのか、コピーであるので雑誌名の記載もなく、手がかりがない。男性ファッション雑誌と思われるが、それ以上はわからない。どこかのスタジオで撮ったものと思われるが、まったく記憶にないのだ。何なんだこれ?

 ただし、年代は特定できる。というのは、その写真の私は「ヘンな髪型」をしているのだ。正しくはオールバックというのだろうが、いま見るとクシャクシャっとして、「ヘンな髪型」としか見えない。その「ヘンな髪型」をしていたのは、本の雑誌社の事務所が新宿御苑前にあったときだから、いまから25年前ほど前のことだ。

 ここにその写真を掲げたいところだが、おそらくプロの写真家の方が撮ったものだろうから、無断で載せるわけにはいかない。その方の了承を得なければならない。しかし雑誌名もわからないから、写真家の名前も連絡先もわからず、つまり掲載はできない。だから平気で書いてしまうが、モデルのダンディな中年氏は、壁に寄り掛かり、視線は斜め下、憂いを秘めた姿なのである。はは。

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