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12月25日(金) 書評稼業40年

 早川書房設立70周年記念カフェ、というトークイベントが早川書房の1階にあるカフェ「クリスティ」で断続的におこなわれていて、12月18日は私も翻訳家の田口俊樹とともに出演したのだが、その3日後の21日に、高橋良平(VSSFマガジン編集長塩澤快浩)が出るというので、また「クリスティ」に行ってきた。

 この70年のSF界で重要な年をベスト10形式で発表するという形式だったが、第10位は1978年。この年は「スター・ウォーズ」公開の年だという。SF界も大盛り上がりの年だったということだが、実はその時、伴野朗『33時間』という小説を再読していたので奇遇だなと思ってしまった。伴野朗は『五十万年の死角』で江戸川乱歩賞を1976年に受賞してデビューした作家だが、その第三長編である『33時間』が刊行されたのが1978年なのである。そうか、あの年に「スター・ウォーズ」は公開されたのか。

 第1位はどの年であったのか、ということについては、いずれ「SFマガジン」に載るだろうから、そちらをお読みください。高橋良平のこの日の話が面白かったのだ。SFの歴史を語るのが主なのだが、中間小説雑誌が爆発的に売れた時代の話から、ミステリー、書店論と、話はあっちに飛び、こっちに飛び、縦横無尽である。まあ、なんでも知っているのだ。ちなみに高橋良平とは30年来の付き合いである。いや、80年代の初頭から「本の雑誌」に原稿を書いてもらったり、座談会に出てもらったりしているので、35年の付き合いか。こういう会を定期的にやってくれないか、と思ったほど、興味深いトークショーであった。

 しみじみと思ったのは、昔のことを語るなら、これくらい年度を正確に言わなければだめだよなということであった。これは何年、あれは何年と、高橋良平は実によく知っているのだ。あとで聞いてみたら、この日のために少しは調べてきたというのだが、やはり記憶力がいいのだろう。

 感じ入ってしまったのは、私もまた、過ぎ去った日々の話を書こう、とただいま思っているからだ。北上次郎としてデビューしてからこれまで、ほぼ40年になるので、「書評稼業40年」と題したエッセイを書くつもりなのである。ようするに、書評家としての日々の回顧だ。椎名の雑誌で同題のエッセイを1回だけ書いた。あとが続かず、ま、面倒くさいから書かなくてもいいかと思っていたのだが、2016年から改めて始めようと考えている。これだけ記憶力の悪い人間に、回顧録など書けるのかとの疑問もあるけれど、思い出すかぎりでいい。連続してなくてもいい。飛び飛びの回顧でもいいのだ。

 最初に文庫解説を書いたときの思い出とか、覚えていることもあるので、そういうかすかな記憶を頼りに書いていきたい。そんなものを誰が読むのか、との意見もあろうが、そんなことを考えたら原稿など書けない。

「ミステリマガジン」の5月号(2016年3月末発売)から、連載を始めます。そんな先の話をなぜ書いたのかといえば、ここに書けばもう逃げられなくなるからだ。面倒くさい、なんて言っちゃダメ。ただいま自分にそう言い聞かせている。

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