第24回

 その撮影から4日ほど明けて、「所ジョージのすっごいですね~!写真教室」の撮影。本来は編集長の担当で、コメント取材はもちろん毎月なのだが、TVのレギュラーを何本も抱えている所さんのスケジュールに合わせ、撮影は3か月分まとめ撮りをしていた。たまたま、その日は編集長に用事(多分、ゴルフ(笑))が出来てしまったので、ピンチヒッターの立ち会いだ。オレは、「投稿写真」のレギュラー陣の中でも一番のVIP相手に何か粗相をしたら大変だとかなり緊張して、所さんの到着前のセッテイングの間に、何度もトイレに行く始末。その上、一応身だしなみもと、トイレでちょこっと手ぐしを入れて戻ったら、
「何、髪の毛なんか直してるんだよ」
 外注カメラマンの中でもひょうきんなS崎カメラマンから、ドヤされた。この時の衣装は、初夏、真夏、秋の季節に合わせて、ステテコに腹巻姿の下町オヤジ風(9月号)、短パン水着とTシャツに袖なしのヨットパーカーを羽織った海辺の監視員風(10月号)、ウインドブレーカーにジャージの体育教師風(11月号)の3点。実は、監視員風の衣装の全てとウインドブレーカーはオレの私物だ。衣装に関しては、もちろん事前にスタイリストと打ち合わせ済みだったのだが、撮影前夜になってスタイリストから、電話が入る。
「どうしても見つからないから、大橋さんの方でお願い」
 プロのスタイリストとして、これはいかがなものかと思ったが、撮影に支障をきたすのも困る。夜中なので、ショップは閉まっている。しかたなく自宅のタンスの中を引っかき回して、なんとか揃えたのだった。
 
 そんなこんなで所さんが到着。挨拶もそこそこに撮影が始まると、着替えるのも早いし、ストロボのチャージに合わせて、「ホレッ」「こんなので」「ヤッ」「ズ~ン」自分で自分に合いの手を入れながら、どんどんポーズを決める。それまで、ほとんど素人に近いモデルの撮影にしか立ち会った事のないオレは、(流石にプロは違う)と呻ってしまった。
「ねえ、この衣装さ」
 監視員風の撮影中、所さんがスタイリストを呼んだ。
(ヤバ、古着なのがバレちゃったかな)
 ドキッとしたが、
「化繊入ってない? 俺、自然素材じゃないとかぶれちゃうんだよネ」
 ホッと胸をなで下ろした。
 
 撮影後のコメント取材もラジオのDJノリで、チラッと見るや否や、矢継ぎ早に気の利いたセリフが飛び出してくる。また、どうみても駆け出しのオレを見下すようなこともなく、気さくに接してくれた。
 取材を含めた所要時間は、一時間足らず。新人アイドルのインタビューでは、2~3時間掛かるのを考えると異常な早さだ。"一秒たりとも無駄にしない"超売れっコのプロの芸能人の姿をまざまざと見せつけられた。

 所さんほどの大物が、なぜ「投稿写真」のレギュラーをずっと(創刊から10年超)続けていたのか、疑問に思っていた読者も多かったと思う。確かに創刊('84)の頃は、ブレイク前だったし、(ま、いいか)くらいの気持ちで事務所がオファーを受けてくれたことは想像に難くない。しかし、ブレイク後も続けるのは、ギャラ的にもタレントイメージ的なメリットとしてもプラスな面はないといっていい(むしろマイナスだ)。オレ自身もそれについては、兼々クエスチョンだったので、ある時、直接編集長に訊いてみた。
「俺も不思議なんだけどさ。事務所からは辞めたいとは言ってこないんだよ。毎月、アポを取る時の感触だと、嫌々って印象なんだけど。ホント、いつ切られてもおかしくないんだよなあ。ニャンニャン写真とかを無修正で見れるって、他の芸人なんかからうらやましがられたりしてるらしいよ。でもそんなのは関係なくて、ブレイク前からの付き合いってのが大きいんだと思うよ」
 
 超売れっコのプロの芸能人は、とても義理堅い人だったのだ。