10月2日(木)第一級の資料

朝、会社に着くと、事務の浜田が「杉江さん、10年前の今日何があったか覚えてますか?」と聞いてくる。

昨日の晩飯すら覚えていないのに10年前のことなんて頭の片隅にもなく首を振ると、「杉江さんと神宮球場へ応援に行って、ヤクルトスワローズが優勝した日です! 炎の営業日誌にそう書いてありました」と教えてくれた。

そういえば浜田夫妻と神宮に行き、バックネット裏で観戦したことがあった。すぐ近くに野村監督とサッチーが観戦にきていて、松井さんがマネージャーのようにお世話をしていたのだ。今思えば、あの時、大好きな野村監督にサインをもらったおけばよかったのだ。

浜田はそう報告すると、「炎の営業日誌って便利ですよね。会社で何が起きたかすぐわかる。後に本の雑誌の研究をする人が現れたら第一級の資料ですよ」と言って、事務仕事に戻っていった。

たしかにそれは一理あるが、社員同士で野球を見に行っていたなんていうのはまったく役に立たない情報だろう。

それにしてもかつてはもっと社内で起きていたことを書いていたのだが、最近は少し内省的になりすぎていたかもしれない。

というわけで、本の雑誌社の本日は、事務の浜田、進行の松村、単行本編集の近藤、そして私の安定の4人が出社。

経理の小林は7月に遅すぎる定年退職をし、編集発行人の浜本はコロナ以降ひきこもりになってしまったのかほとんど会社に来ず、定期的に会社に遊びにきてくれる西上心太さんから「レアキャラ」と呼ばれている。おそらくトップシークレットなスポンサーを回っているか、国とのパイプ作りで首相官邸に出入りし、読者と社員のため日々汗水流してくれているのだろう。

小林から経理を引き継いだ浜田は、元小林の机と自身の机を行ったり来たりし、本の雑誌社の大谷翔平と呼ばれている。

書籍の校了間近な近藤は口数少なくゲラと格闘している。

進行の松村は来月号や「おすすめ文庫王国2026」の原稿依頼に勤しんでいる。

そして私も「おすすめ文庫王国2026」の「刊行予告」の原稿依頼のメールを各出版社の編集者の方々、約40人にメールを送っていた。

そのすべての作業を終え、ほっと一息ついたところに進行の松村が青い顔してやってきて、「杉江さんが送っている依頼メール、〆切が一カ月間違ってます。11月じゃもう校了してます!」と叫んだ。

本日は上記以外特に事件もなく、本の雑誌社の一日が終わった。

10月1日(水)退院

雨で走れず不本意な気持ちを抱えて出社。

通勤途中、病院から電話があり、母親の退院日が決まる。

たった一週間で退院できたと喜ぶ気持ちはあまりなく、わが週末実家介護が母親の体調次第で崩壊するとわかった気の重さに包まれる。まあ、世の中すべての事項が健康前提にできているのだが......。

それにしてもすでに母親より妻といる年月の方が長く、実家で暮らすより長い日々を今の町で暮らしていても、病院に行けば医師や看護師から「息子さん」と呼ばれ、介護施設に電話する際には「息子です」と名乗っているのだった。

子供が産まれたとき親になるという責任に押しつぶされそうになったが、今は息子であることの責任に押しつぶされそうだ。

午前中はゲラを読み込み、気になる点をチェックしていく。

午後、伊野尾書店の伊野尾さんにそのゲラを届けにいく。店頭に貼られている閉店の告知を見て、散々話を聞いていたにも関わらず現実なんだと思い知る。

しばし店内をうろつきながらおつかいに出ている伊野尾さんを待つ。そこは小さいながら宇宙のように広く、各ジャンルともこんなのがあったのかと驚く本が棚にささっている。

それでも本屋さんは閉店する。閉店せざる得ない、のだ。

戻ってきた伊野尾さんにゲラを渡し、しばし打ち合わせ。

その後、神保町に戻り、ブックフェスティバルと同日に開催されるBOOKCAMPのキックオフミーティングという名の打ち合わせに向かうと、なぜか16時半スタートのはずが5分前に到着したのにも関わらず、すでに始まっていて焦る。

隣に座るS出版社のKさんが、小声で「はじめのメールに書かれていた開催時間が間違えていたらしいです」と教えてくれる。

長年サッカーを見ているけれど、キックオフ時間が変更になるなんて雷雨以外経験がなく、30分ほど説明を拝聴し帰社。

18時半までデスクワークに勤しんで仕事を終える。

9月30日(火)神保町日記2025

9時半に出社。喉元過ぎれば熱さを忘れるというけれど、今年の暑さは彼岸を過ぎて涼しくなっても絶対忘れられない。あれは人が暮らせる暑さではなかった。よくぞ無事乗り越えられたものだ。

神保町ブックフェスティバルで盛り上がるものを作りたいと言われ企画した、本の雑誌社初のZINE『神保町日記2025』が無事出来上がってきたので撫でまわす。本の雑誌社全社員(といっても5名)の7月15日から8月14日までの1ヶ月間を綴った日記なのだが、最終日の8月14日を終え、「みんな毎日日記を書きたくなったでしょう? いつもでホームページで連載スタートできるよ」と提案すると、全員ぶるぶると首を震わせたのだった。ならばもう20年以上日記を書き、公開している私を、もう少し褒め称えてもいいのではなかろうか。

昼、先日本の雑誌スッキリ隊で蔵書整理をさせていただいたSさんが来社され、立石書店岡島さんがもってきた買取代金をお支払いする。まだずいぶんと本を残っているそうで、それは10月になってからスッキリ隊出動となるそう。

午後は10月11日、12日に京都府立京都学・歴彩館で開催される下鴨中通ブックフェアの荷物の準備。大変分厚い北上次郎『新刊めったくたガイド大大全』を何冊持っていくかで頭を悩ませる。

夕方、デザイナーの松本さんから伊野尾宏之『本屋の人生(仮)』の本文レイアウトが届く。すっきり清潔感と気品があり、それでいて偉そうではなく、素晴らしい組版。この瞬間こそ本作りで一番うれしい瞬間だ。

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9月29日(月)キャブレターにひとしずく

会社を休み、改めて入院の手続きのため病院に向かう。母親の容態もそうなのだが、いつの間にか担当が変わっており、一度も会っておらず連絡すらとれないケアマネジャーのことを考え、鬱々とした気持ちで車を走らせていると、ラジオから流れてきた曲に魂を鷲掴みにされ、一気に気持ちが奮い立つ。

なーんかちっちぇな
なーんかちっちぇな
はみだしながら
はみだしながら
ぶっ壊れても知らないぜ

それは、ザ・クロマニヨンズの「キャブレターにひとしずく」という新曲だった。

月曜日だからかたいそう混み合う病院で、30分ほど待って入院の手続きを終え、その後病院にいるソーシャルワーカーにケアマネジャーの件を相談する。

帰路、我が教会でもある埼玉スタジアムに立ち寄り、ぼんやり聖地を眺める。

午後、病院から電話がかかってくる。母親は熱も下がり、食欲もあり、とっても元気だという。これから介護施設と連絡をとり、退院の日取りを決めるそう。ひと安心。

9月28日(日)スーパーマルサン

午前中、誰もいない実家に行き、歯ブラシやコップ、割り箸など母親の入院の荷物を作る。1時を待って病院に行き、ナースステーションに荷物を預ける。母の様子はわからず。

日曜日ということでたくさんの人が面会に来ており、当たり前のことだけれど、家族に病人を抱えているのは私だけではないのだとほっとする。

来週の京都出張で大変お世話になる予定の140Bの青木さんに現状の連絡を入れると、「何かあったら車で埼玉まで送るから安心して京都に来てください」と返事があった。

帰り道、気分転換がてらテレビでも有名な激安スーパー「スーパーマルサン」に行ってみると、妻が発狂するほど安く、品数も豊富。これからの週末実家介護の楽しみがひとつ増える。

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