10月21日(火)腹式呼吸

年に一度の健康診断。朝8時8分に出版健保に着くと受付番号4番だった。初の一列目をゲット。

超音波エコーで「大きく息を吸ってー、はい止めて」と空気を吸ったり吐いたりしていると、「腹式呼吸が上手ですね」と褒められる。

腹式呼吸を褒められるのは毎年のことで、検査技師の方が変わっても必ず褒められる。腹式呼吸が上手いってなんだろうか。腹式呼吸の才能が活かせる職業というのはあるだろうか。

午後、都内某所にある辺境ドトール跡にできた辺境オシャレカフェにて、高野秀行さんと打ち合わせ。5年前に暗礁に乗り上げていた単行本の企画が、異常気象による海面上昇の影響を受け浮上し、ゆらゆらと動き出す。

また沈没してしまっては困るということで、会社に戻ってテキストを編み直し、再編集したものを高野さんに送る。今度こそ無事に航海できますように。

10月20日(月)宿泊料金

朝、介護施設からの迎えの車に母親を乗せると、「お世話になりました」と頭を下げられたた。

目頭が熱くなるのをグッと堪え、「二泊三日の宿泊料金は28000円になります」と答えると、「高いけど、またよろしくお願いします」と母親は笑った。

昼、西村賢太さんを敬愛する品品さんと鶯谷の信濃路で待ち合わせし一献。赤ウインナー揚げや串カツ、チャーシュー麺を食す。

夜、「おすすめ文庫王国2026」の座談会を10時までかけて収録する。われながらよく働くものだ。

10月19日(日)金木犀

母親の車椅子を押して、父親の墓参りと散歩。

母親の今後のことを考える。平日のショートステイと休日の週末実家介護を続けてまもなく2年となろうとしており、先週のコロナのように母親が体調を崩したときに対応できないことがわかった。そして正直にいえば私もだいぶ飽きてきた。

次なる介護の方法をケアマネジャーさんに相談すると、「サ高住」と呼ばれる「サービス付き高齢者向け住宅」を教えられた。母親が今、世話になっている施設もその受け入れをしており、ひとまずそこに様子を聞いてもらうこととした。

本当にこれでいいのだろうか。そもそもなにがいいのだろうか。誰にとっていいことなのだろうか。

いつかこうして金木犀の香りに包まれる中、車椅子を押した日々を愛おしく思う日が来るのだろうか。

10月18日(土)ケア

先週は下鴨中通ブックフェスで施設に預けっぱなしだった母親を迎えにいき、週末実家介護が始まる。もはや何日施設にいたのかもわかっていない様子なので、罪悪感を覚えずに済む。

午前中、新しいケアマネージャーさんがやってくる。これまでお世話になっていた人が体調を崩されたということでの急遽交代となったのだが、今度の人はケアマネージャーと想像したらこんな人というそのもので、頼りになりそう。

午後は往診のお医者さんが来て、インフルエンザの予防接種をしてもらう。

ケアマネージャーさんにしてもお医者さんや看護師さんにしても、手続きや検診だけをすれば仕事は済むのに、「私もこの間まで母親の介護してたんです」とか「今、96歳の叔母の面倒をみてます」なんて雑談混じりにしてくれ、私の苦労が私だけではないというか、気軽に相談していいんですよという空気を伝えてくれるのが本当にありがたい。

人は、何気ない一言で傷つくこともあるけれど、何気ない言葉で救われることもたくさんある。これが「ケア」というものなのかもしれない。

10月17日(金)早朝出社

仕事の山積み解消のため7時半に出社。着いてコーヒーを淹れていると事務の浜田からスマホにメッセージが届く。

「おはようございます!
神保町ブックフェスティバルの在庫移動、月曜日で間に合うので、代休取って下さい!!」

働きすぎを心配してくれて大変ありがたいのだが、もう会社に着いているのだった。

とにかく今日中に作られねばならぬのは書店さん向けDMなのだった。これがいつもなら新刊のチラシに、本の雑誌通信という月刊情報紙と一覧注文書の3種三枚なんだけれど、今回は一月の新刊が2点あり、特大号になる一月号の定期改正用紙も同封せねばならず、4種7枚を作られなばならないのだった。

InDesignを開き、コーヒーを一口飲んで、手を動かしていく。

出版業というのはつくづく不思議な業界だと思う。たった紙っぺら一枚に書名と著者名とちょっとした内容紹介が書かれたチラシだけで注文が集まるのだ。

もちろんそれまでの信頼の積み重ねというのもあるのだけれど、このチラシ一枚から売れ行きを想像できる書店員さんの能力というのは特殊能力なのではなかろうか。

逆にいえば出版社の売上の最初の一歩は、すべてこのチラシ一枚にかかっているのである。「千里の道も一歩から」というが、「10万部のペストセラーもチラシ一枚から」なのだった。

『おすすめ文庫王国2026』.近藤康太郎『本をすすめる』、伊野尾宏之『本屋の人生』のチラシを黙々と作り、作業開始から4時間が過ぎた11時半にはDM4種7枚が出来上がる。

昼、偕成社の営業・塚田さんがやってくる。その手には定年を記念して作られたZINE『旅する、本屋巡る。』(ツカヌンティウスよしゆき名義)が握られていた。早速、購入。

塚田さんは書店営業で全国1000軒以上の本屋さんを訪問しており、今回のこのZINEはその集大成のようなものだ。

素晴らしいのはこのお店で何冊の注文をとったとか自慢話は皆無で、まるで旅行記のように食や酒やサウナと共に記しているところである。働いているところを見せないのが真の営業なのだ。

その塚田さんとランチ&コーヒーし、午後も集中してデスクワークを処理していき、勤務時間が11時間を過ぎた頃、だいぶ見通しが立つ。

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