11月16日(日)砥上裕將『龍の守る町』
「お前たちは、馬鹿みたいに優しくていい。お前たちは消防士だ。察官でも自衛官でもない。決して人を制圧することのない、人を救うためだけに鍛え上げられたプロだ。」
言われてみればそうだ。消防士というのは人を救うためにいるのだ。そんな消防士を主人公にした小説が胸熱でないわけがない。しかし、ただ胸熱なだけではない。
砥上裕將『龍の守る町』(講談社)のまず優れた点は主人公を司令室に置いたところだろう。そう、119番をすると「火事ですか? 救急ですか?」と問いかけ、できるだけ速やかに情報を聞き出し、救急車や消防車を出動させる部署だ。
横山秀夫が新しかったのは刑事ではなく警察の裏方を主人公にしたことにあったと思うのだけど、この小説もまさしくその点が素晴らしく、実際の火災現場に行かない者による葛藤やそもそも司令室とはどんなことをする仕事なのかというのにとても興味を惹かれながら読み進むこととなる。
さらにこの著者の優れた点はそれぞれのキャラクター造形が上手い。最高の消防士でありながら五年前の大災害からトラウマを抱える秋月をはじめ、司令室の面々や消防士の人たちもそれぞれ個性豊かで輪郭がくっきりしている
最後は涙あふれる展開で、あやうく嗚咽しそうになってしまった。
砥上裕將は『線は、僕が描く』の著者で、この本が出たとき北上次郎さんに薦められ、「北上ラジオ」を収録・配信したのだった。そういう著者の新刊は、北上さんがもう読めない分、私が引き継いで読んでいかねばならないと謎の使命感が湧いてくる。
そうして北上さんのお眼鏡どおり、その著者はどんどん面白い作品を書いているのだった。






