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3月30日(木)

 直行で、夢の本棚を手に入れた人を取材に行く、が、途中乗り換え駅でスマホを紛失したことに気づき顔面蒼白。すべてのポケット、鞄をひっくり返し、靴を脱いでも出てこず、これまでの道筋を探しにいこうと、入場してしまったSuicaの記録解除を求めて、駅の改札に戻る。

「すみません。スマホを落としてしまったようなので探しに行きたく、今入ったばかりなのですが、入場記録を外してもらえますでしょうか」

 消え入りそうな声で呟くと、駅員さんが不思議なことを聞いてくる。

「何色ですか?」

 もちろん私のスマホは浦和レッズ仕様で真っ赤なので「赤です!」と答えると、「これですか?」と奥からスマホを取り出してくる。

「ああああああ、それです!!!」

 駅のトイレに落としていたらしく、拾って届けてくださった方がいらっしゃったのだ。なんて親切な...。拾っていただいた方はすでにおらず、駅員さんに深く深く頭を下げて、感謝を伝える。

 息子が家を出てからこうしたことが多く、どうやら私は心ここにあらずになっているようだ。スマホここにあらず、にならなくて本当によかった。

 伺った最強最高理想すぎる本棚はもはや筆舌に尽くし難い本棚であり、そちらの感想は「本の雑誌」6月号にて。

 昼、会社に戻り、書店向けDMを作り終え、また営業に出る。年度末で荷物も増え、棚卸しを控えていたりするので、邪魔にならぬよう気を付ける。

 とある書店さんで「最近は注文書を広げるだけで、売り場を見ない営業が多い」と聞き、売り場ばかり見ている自分もそれはそれでちょっと問題かもと少し反省する。

 帰宅後、昨日買った宇都宮ミゲル『一球の記憶』(朝日新聞新聞)を読み始める。昭和46年生まれの私の心を躍らせた昭和のプロ野球選手37人に「絶対忘れられない一球」を聞いて歩いたノンフィクションなのだが、冒頭から私のヒーロー・若松勉であり、いやはやたまらん。装丁も写真もレイアウトも大変よく、何よりもこの厚さ、重さが「本」というものの魅力を伝えてくる。

3月29日(水)

  • アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち
  • 『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』
    鈴木 忠平
    文藝春秋
    1,980円(税込)
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 息子が旅立つ前、最後に浦和レッズを応援したのは駒場スタジアムだった。その日の試合は浦和レッズが勝ち、スタジアムを埋めた約2万人のサポーターは、勝利に酔いしれ"We are diamonds"を歌った。

 息子は途中で歌うのをやめ、号泣していた。寂しさ、悲しみ、不安...いろんな思いに襲われたのだろう。観戦仲間のひとりがそんな息子を抱きしめ、「元気出せ!がんばれ!」と背中を叩いていた。

 結婚する時、私が妻にお願いしたのは、駒場スタジアムの近くに住むことだった。妻は快く了承してくれ、不動産屋さんを回った時に、「そんな人が年に3人くらいいるんですよ」と言われ、一緒に笑われた。

 その後、子どもが生まれ、部屋が手狭になり、引っ越すことになった。その時も僕が不動産屋さんに伝えた条件はほとんど一緒だった。「駒場スタジアムと埼玉スタジアムの間でお願いします」と。

 そうしてスタジアムに通うために何度も通った道を、まもなく家を出る息子と自転車を並べ家路についた。途中、大きな通りを渡る手前で、信号が赤になり、自転車を止めた。

 息子の横顔を見ながら、ここのところずっと言おうと思いながらも、あまりに陳腐で言えずにいた言葉を、今こそ伝えようと思った。

「お前さ」
「うん?」
 
真っ赤に目を充血させた息子が振り向く。
「あのさ、夢を持てよ」
 
しばらく間が空いて、息子が答える。
「うん」
 自分自身の、高校を卒業して本と出会い、浪人をやめ、それからの奇蹟のような人生を振り返りながらさらに言葉をかけた。
「あきらめるなよ、絶対叶うから」
「うん」

 鈴木忠平『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』(文藝春秋)は、夢を持ち続けた人、あるいは夢を見ることをあきらめなかった人たちの熱い熱い物語だった。明日、息子に送る。

3月28日(火)

誰も起こす必要もなく、洗面台やトイレの順番を待つことのない朝。

天気予報のアプリに息子の住む町を登録する。娘の時は世界時計にフランクフルトを登録したのだ。空を眺めて、しばし2人のことを考える。

会社に着けばそんな感傷的な想いは一気に吹き飛び、倉庫管理費のアップや輸送費の上昇や紙代の恐るべき金額に頭抱えなければならない。本当にどうやって本を作り、売っていけばいいのだろうか。

先日会った業界の先輩は、「これからは初版だけ本を作り、あとは電子書籍にしていくことになるのでは」と言っていたが、それどころか本を作ることすら困難になってしまっている。これらのコストに加えて、返品の苦労からも解き放たれる方法が電子書籍なのだというなんたる皮肉か。

頭悩ませつつ、書店さん向けDMと目黒さんのお別れ会の案内作りに勤しんでいると事務の浜田が話しかけてくる。

「昨日、杉江さんが休みだったじゃないですか。その時、助っ人さんに5月号を送る封筒にハンコ押しを頼んだんです。ほら、あまりに厚くていつもの封筒に入らないから、さらの封筒頼んだじゃないですか。あれに社判を押そうと思って。そしたら助っ人さんがハンコ見てびっくりされて。『今どき、ハンコ押してる会社なんてないですよー』って言うんですよ。えええ、うちの会社なんてハンコだらけじゃないですか。伝票も書名のハンコ押して作ってるし。そしたら助っ人さんがコピー機設定して、どんどん封筒に印刷してくれたんです。あっという間でした。ほんともうダメですね、私」

イノベーションは外からやってくる、という見本のようであった。突如引退の危機が迫ったスタンプ浜田を励まして一日が終わる。

3月27日(月)

息子とともに町役場に行き、転入届を出し、引っ越し作業完了。

このまま居ると妻が一年分の作り置きでも始めそうなので、「じゃあな」と手を振って別れる。

息子が「俺、がんばるよ」と言うので、「かんばらなくていいから楽しんで」と答えると、息子の顔に笑顔が広がる。

新潟駅でレンタカーを返し、1544分発上越新幹線とき330号に乗車。

静かな家に帰宅する。

3月26日(日)

新発田のルートインに泊まり、引き続き息子の引っ越し作業。

娘がドイツに旅立った時は空港で手を振るのみだったのに、言葉の通じる国内でここまで世話を焼いてるのがおかしくなる。

甘やかしてるのもわかっているのだけれど、娘は22歳で息子は18歳という4つの年の差はなかなか大きい。18歳の息子はクレジットカードも持っていなければ、キャッシュカードも使ったことがないのだ。

本日もニトリやイオンを回って必要なものを買い揃える。

息子が生まれてから今日までのことを振り返るも、不思議なことに思い出が20個くらいしか思い浮かばないのだった。

私の忘却力のなせる技なのかもしれないが、共に長年過ごしていると、思い出も平坦になっていってしまうのかもしれない。

いろんなことがあったはずなのに、今、胸にあるのは、ただただ楽しかったという思いだけだ。

3月25日(土)

 朝、7時半、キャリーケース、ポストバッグ、そしてリュックと荷物を抱え、雨降る中妻と息子と3人で近所のバス停に向かう。息子の巣立ち。

 浦和から大宮へ。大宮から上越新幹線とき311号に乗車するとあっという間の1時間で新潟に到着。レンタカーを借りて、息子の学校のある聖籠町へ向かう。新潟は雨が降っておらず曇り空。この空の下で、息子は今日から一人暮らしを始める。

 娘はドイツ、息子は新潟。いろんな人から「淋しいでしょう」と声を掛けられるが、曖昧に頷くことしかできない。たしかに淋しいことは淋しいのだけれど、すっきりとした気持ちもあれば誇らしい気持ちもある。これまでと変わらぬ想いもあれば、欠落意識もある。ひとつの感情ではとても表せないたくさんの想いが胸に湧いている。

 1時間ほど車を走らせると息子の暮らす予定のアパート(寮)に到着。築2年のまだピカピカの10畳ほどの部屋が今日から息子の棲家。すぐ近くにある人工芝の敷き詰められたサッカーグラウンドが息子の通う学校。息子はそのグラウンドをうれしそうに眺めている。

 荷物を運び込むとガス会社が来るのを待つ息子を残して、妻と買い物へ。ニトリにてフライパンやら食器など生活用品をカート2台山盛りにして購入。近場にニトリがあってよかった。その後、ドラッグストアにてこれまた買い物カゴ2つにトイレットペーパーやら洗剤やらを買い求め、息子の部屋に戻る。

 自宅から送っていた宅急便も到着しており、一気に部屋作りを開始。カーテンを取り付け、布団を並べ、クローゼットに服をかける。

 その間、生真面目な妻が備え付けられている洗濯機を回し、カビ取り清掃。しばらくするとぐんぐんと汚れが浮かび、妻が「ほらね」とまるで犯人のアジトを見つけた刑事のように胸を張る。息子には月に一度はカビ取りしなさいと厳命を下している。

 部屋が整うと5時。昼食をとっていなかったので息子は腹ペコで倒れそうと泣き顔に。車を走らせ、近場の食堂へ。私は肉そば、妻はタレカツ丼、息子は味噌チャーシュー麺とミニタレカツ丼。

 どんぶりを前にした息子は、まったく幼き頃と変わらぬ様子でにこにこと麺を啜っている。

 ふいに、こんな幼き18歳の、たいして世の中を経験していない子どもを残して、自分は浦和に帰っていいのだろうかという想いが湧いてくる。

その想いにふたをして、私もそばを啜る。

3月24日(金)

 事務の浜田に頼まれ、目黒さんのお別れの会の案内を作る。

 どんなものを作ったらいいのかわからず首を傾げていると、「こういうのです!」と見せられたのが、目黒さんの還暦を祝う会の案内だった。

 上手くできてるなあと関心していたら、私が作ったものだという。「えええ、本当に?」「本当ですよ」と言われるが、還暦のパーティに出た記憶もなく、なんだかすっかり自分で書いた文庫解説を忘れている目黒さんと変わらぬ記憶力に笑ってしまう。それにしても浜田はなぜ16年も前の案内を持っていたのだろうか。

 神保町は春の古本まつりがスタート。靖国通り沿いに並べられた古本屋さんのワゴンでは、盛林堂さんの店員として古本屋ツアー・イン・ジャパンの小山力也さんの姿も見かける。本を買いきた北原尚彦さんとすけきよさんが会社に遊びにきてくださる。

3月23日(木)

  • 日本幻獣図説 (講談社学術文庫)
  • 『日本幻獣図説 (講談社学術文庫)』
    湯本 豪一
    講談社
    1,210円(税込)
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  • 天明の浅間山大噴火 日本のポンペイ・鎌原村発掘 (講談社学術文庫)
  • 『天明の浅間山大噴火 日本のポンペイ・鎌原村発掘 (講談社学術文庫)』
    大石 慎三郎
    講談社
    924円(税込)
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    honto

雨。

午前中、日本図書普及さんを訪問し、来年度の打ち合わせと本屋大賞20回のご報告。ご提供いただいている副賞の図書カード10万円があってこその本屋大賞なのだった。外堀沿いの桜は7分咲きといったところだが、この雨で散ってしまうのだろうか。

一旦会社に戻り、事務仕事。

午後、スッキリ隊の要請があった練馬へ浜本と本の引き取りに伺う。引っ越し目前のお宅から200冊ほどの本をお預かり。その足で早稲田の古書現世に向かい、お預かりした本を下ろす。

50巻ほどの本があったので、目を揃えているとなぜか47巻がなく、46巻がダブっているではないか。これはどうしたことか?! 揃っているのといないのでは価値がだいぶ違うはず。ひとり激しく落ち込む。

ちょうど店主の向井さんのところへ企画の相談にきていた編集の前田を誘って、がっくり酒を飲む。「どうして47巻がないんだ...」と愚痴とともに生ビールをノドに流しこんでいると、向井さんから連絡が入る。

47巻はまさかの46巻のカバー剥いたら出てきましたw

いったいどうしたらそんなことが起きるんだろうか?!これぞまさに『早稲田古本劇場』だ。

急転直下で祝い酒となるが、それにしても古本屋さんというのはそこまで疑い、執念で持って、本を見つけだすものなのだった。酒を飲んで愚痴っているような私はまだまだ古本屋にはなれそうにない。

池袋の三省堂書店さんで、湯本豪一『日本幻獣図説 』(講談社学術文庫)と大石慎三郎『天明の浅間山大噴火 日本のポンペイ・鎌原村発掘』(講談社学術文庫)を購入。

3月22日(水)

巣立ちまで4日と迫った息子。息子以上に妻の準備に余念がない。余念がないどころか、まったく妥協を許さぬことWBCに出場する超一流の野球選手が如くである。一人暮らしに必要なものを紙に書き出し、それがA4の紙2枚にぎっちりなのだった。

その紙を手に、日々、10分ごとに息子に質問が飛ぶ。パンツは何枚入れたのか? パスタオルも用意したのか?

「うるせえなあ。そんなの新潟で買えばいいんだよ」

妻が"鬼軍曹"と呼ばれていた書店員時代の部下なら絶対口に出せなかったであろう反抗の言葉を息子が吐く。するとなぜか私がバックヤードに呼ばれそうになっている。

妻にしてみれば、これから一人暮らしを始める息子に日々困らず過ごしてもらいたいのだ。風邪をひいた時にはすぐに薬が取り出せるように、物が壊れた時にはドライバーで直せるように、最大の準備をしておきたいのだろう。備えあれば憂いなし。妻にとっての愛情の表現がこれなのだ。

しかし、これまで午後から雨が降るといえば傘をカバンに入れられ、帰ってくれば玄関にタオルが置かれ、足元には新聞紙まで敷かれている、まるで将棋指しの藤井くんほど先手を打たれる生活から抜け出すことが、息子にとって最も大切なことなのでもあった。

日々、妻と息子のバトルを眺めていたら、妻が強い視線を私に送ってくる。

「パパがニトリに頼んだ布団セットって、毛布はついてないよね?」

いえいえ何をおっしゃるうざきさん。私は以前あなたの近くで働いていたものですよ。毛布どころかタオルケットも枕カバーもついていて、これ1セットで一年暮らせる超優秀な布団9点セットというものを当日着で頼んでいるんですよ。

息子と違って、一切口ごたえすることなく、まるで官僚が書く報告書のように説明すると、妻からまるで蓮舫議員が如くさらに厳しい質問が飛んだのであった。

「それ、夏の間、閉まっておく袋は頼んでないでしょう?」

3月21日(火・祝)

麻布テーラーでオーダーしていた息子のスーツが届く。当たり前だがジャストフィットで、初めてのスーツとは思えぬ着慣れた感じに。それもこれも内澤旬子さんの『着せる女』のおかげだ。

父親としてほとんど何もしてこなかったけれど最後にこうしてスーツの作り方を教えられたのは、今後息子の人生に大いに役立つような気がするのであった。まあほとんどジャージを着て生きる人生だとは思うのだが。

朝ラン15キロ。桜は5分咲きといったところ。

部屋から本があふれてしまったので紐で括って実家に運ぶ。実家の本棚も当然あふれているので不要なものを改めて紐で括り、こちらは処分することに。ひとりスッキリ隊。

母親から、先週、リハビリ系病院に転院した父親の様子を聞く。去年の今頃はまったくもって元気だったものが、腰の圧迫骨折から動けなくなり、ショートステイで預けた施設でコロナになり、緊急入院したところで、心臓の問題が見つかり2度の手術をしたものの、その頃にはすっかり足腰が衰え、今は寝たきりの生活になっているのだった。果たしてリハビリに精を出し、また歩けるようになるのだろうか。

ドイツからパリに旅行へ行ってる娘は念願叶ってディズニーランドに到着したらしい。興奮のLINEが届く。何もかもが羨ましい。

3月20日(月)

  • 頬に哀しみを刻め (ハーパーBOOKS)
  • 『頬に哀しみを刻め (ハーパーBOOKS)』
    S・A コスビー,加賀山 卓朗
    ハーパーコリンズ・ジャパン
    1,320円(税込)
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通勤読書はS•A•コスビー『頬に哀しみを刻め』(ハーパーBOOKS)。会社に行ってる場合ではない面白さなのだが、会社に行かねばならぬがサラリーマン。9時半に出社。

一昨日、日経新聞で紹介された『そして市場は続く』のFAX注文がどどどと届いており、ひとまずそれに目を通す。その後、6月刊行の書籍の修正モレがないかゲラをチェックしていると本日お休みで神保町に来ていた書店員さんが会社を覗いてくださる。2人でランチへ。その後、お茶を飲みながら「本を売る」ということについてしばしお話を伺う。

結局どこまで行っても私が好きなのは、「本を売る」ということなのだった。どうしたらより本が売れるのか、それにはどんな工夫ができるのか、はたしてどんな本が売れるのか。こんな面白いことは浦和レッズの応援以外になく、 30年やってもまったく飽きず、いまだ夢中なのだった。

午後、営業にでかける。街中はたくさんの人。

3月19日(日)

昨日と一転して、晴天。暖かい。

角上とヤオフジへ車で買い出し。毎週、豚バラ1キロ、鶏ムネ1キロ、合挽1キロというように肉だけでも3キロは購入していた生活も今日で最後。これまで月に30キロ消費していたお米も今後は10キロもあれば充分だろう。

もちろんそれだけ食べていたのは息子なのだが、その息子は食べるということに関してだけは、2408チームにカテゴライズされたサッカー部において、トップチームだったらしい。

買い出しを終えた後、今度は息子も乗せて、浦和美園のイオンへ。目覚まし時計や革靴など、新たな門出に必要なものを買い揃える。

昼メシにチャーハンを作ると、息子が「父ちゃんのチャーハンもこれが最後だな」とつぶやく。こんなものは「食べるラー油」を入れただけで誰でも作れるものなのだが、息子にとっては父親の味というものになっているようだ。昼飯を食べたらなんだか眠くなり昼寝。

3時半に起きてランニング。半袖で走る。つぼみが目いっぱいに膨らんでいる桜はおそらく今週には満開になるだろう。埼スタの桜が楽しみなのだが、そこで試合が行われるのは415日と開花とのタイミングが合わないのが残念。

晩飯は息子のリクエストで焼肉。焼いたそばからどんどん息子の口に消えていき、2度のおかわりをした上に、「うまかったー」と腹をさすっている。こうした光景こそが私にとっての家族の記憶だ。

奥祐介『東京名酒場問わず語り』(草思社)読了。

 

福田和也氏に促され、編集の方が「en-taxi」に執筆していた「酒場通い」をまとめた一冊。

その年季とまさしく自身の鼻を効かせ、足と舌を頼りに懇意にした酒場は一覧にして13ページにもなるほどで、主に山手線の東側でうまい酒と肴を食せるところを惜しみなく教えてくれる。酒場の先輩から語られるが如き文章も軽妙でとてもよかった。

3月18日(土)

朝9時、雨降る中、カッパを着て、息子と2人駒場スタジアムへ。自由席に入る順番を決めるくじを引きにいく。くじ引き後は、一旦帰宅。服を乾かし、また1時間後に出発。

埼スタならば自由席はずっと雨に打たれることになるのだけれど、ここ駒場スタジアムは1階スタンドが自由席になっており、その上に2階席があるため、入場してしまえば悪天候もなんのその。息子、息子の友達2人、観戦仲間2人、観戦仲間の姪っ子の計7人で声のかぎり叫び、手を叩き、跳ね、応援す。

酒井宏樹の目の覚めるようなゴールと、これまで散々外してきた明本考浩のボレーシュートで逆転勝利。3連勝!

新潟は強かった。特に浦和レッズから移籍していったトーマス・デンのプレーは目を見張るものがあった。伊藤涼太郎は全員でつぶした感じ。これをあしらえるようになったら化け物になるのだろう。その時は浦和レッズに帰ってきてほしい。

試合後、We are Diamondsを歌っていると息子がしゃくりあげるようにして泣き出した。息子は来週から新潟の聖籠町で一人暮らしを始める。だからこうして浦和レッズを応援できるのは今日が最後なのだった。息子なりに込み上げてくるものがあるのたろう。20も年の離れた観戦仲間に強く抱きしめられ、「元気出せ!がんばれ!」と背中をばんばん叩かれている。

浦和レッズにはたくさんのサポーターがいる。息子にもこうしてたくさんのサポーターがいるのだ。安心して羽ばたけ。

3月13日(月)

駐輪場に停めていた自転車がパンクしていたので、自転車屋さんに持っていく。その自転車屋さんは、「修理大好きなお店です!」と看板を掲げた町の小さな自転車屋さんで、3年前に息子が高校に進学するとき通学用のクロスバイクを買ったのだった。

真っ黒な手でタイヤからチューブを取り出し、桶に溜めた水の中で空気が漏れるところを探しているおじさんと話していると、「お宅の息子さん素晴らしいよ。」と褒められる。

クロスバイクを買った時に息子とした約束は、2ヶ月に一度自転車屋さんに空気を入れにいくことだった。息子はその約束を守って、高校3年間空気を入れるたびにおじさんと話し込んでいたらしいのだ。

「高校生の男の子で、あんなにしっかり大人と会話できる子いないよ。この間も、『僕、春から新潟に行きます』って報告してきたから人の子だけど心配になっちゃってさ。一人暮らしできるのかなって。でもさ、『自転車も持っていきます』って言ってくれてさ。そうやって大事に乗ってくれると本当にうれしいんだ」

バンク修理が済むと、おじさんは「あちこちガタがきてるじゃねえか」と言いながら、私の自転車のブレーキを調節し、チェーンをピンと張ってくれた。

そういえば私が小学生の時、父親と同じ近所の床屋さんに通っていたのだが、ある時父親がうれしそうにして帰ってきたことがあった。「床屋のおじさんに褒められたよ。お前がちゃんと挨拶してくれるって」と。あの時の父親は、きっと今日の私みたいな気持ちだったのだろう。

すっかり乗り心地のよくなった自転車を漕ぎながら思った。遠くに行っても息子は大丈夫だと。

3月7日(火)

 2、3ヶ月ほど前、文藝春秋の営業の人から「杉江さんならこのPOPの作り手がわかるんじゃないかと思い連絡させていただきました」と電話あった。

 その営業がいうのは15年ほど前に書店員さんが作られたPOPなのだが、そんな昔のPOPの作り手なんてわかるわけないだろうと思いながら話を聞いていると、「なんかPOP姫と呼ばれてたみたいで」と伝えられ、一発で答えに辿り着く。

 それはTさんという書店員さんで、Tさんとはもう20年以上の付き合いで、今は書店を離れているけれど、ことあるごとに顔を合わせているのだった。

 作り手がわかったところでどうするのかと訊ねたら、なんとPOPを復刊して改めてその本を売り出したいというではないか。本の復刊ならともかく、POPの復刊なんてあるのだろうか?

 許諾とPOPを提供いただきたいということで、すぐにTさんに連絡すると即OKの上、POPはすでにないから書き直すとのことで、なんとパターン違いで4種のPOPを改めて書いてくれたのだった。

 今日そのPOPというか、POPを引き伸ばしたパネルを文藝春秋の営業の人から見せてもらった。確かにTさんらしい瑞々しい感性と色使いで書かれており、とてもよく仕上がっていた。

 どうして15年も前のPOPの存在に気づいたのだろうか。なんと話を聞くと、そのPOPを大切に保管していた書店員さんがいたというのだ。そしてまたこのPOPを使って販促したら良いんじゃないかと提案されたそうなのだ。

 改めて言うけどそんなことってあるだろうか? そんな昔のPOPをとっている書店員さんもすごいけれど、その提案にのる営業もすごい。

 すでに店頭ではTさんの書いたパネルをつけて販促が始まっているそうなのだが、なんともう重版がかかっているというのだ。しつこいようだけれどそんなことあるんだろうか? まさしくこれは私の大好きなPodcastのタイトルどおり、「本のそばには楽しいことがある」ではないか。

 ちなみにTさんのパネルを立てて並べられているのは、角田光代さんの『対岸の彼女』(文春文庫)だ。展開している売り場を早く見にいかなければならない。

3月6日(月)

  • 頬に哀しみを刻め (ハーパーBOOKS)
  • 『頬に哀しみを刻め (ハーパーBOOKS)』
    S・A コスビー,加賀山 卓朗
    ハーパーコリンズ・ジャパン
    1,320円(税込)
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  • 南雲を指して (完全版 十字路が見える III)
  • 『南雲を指して (完全版 十字路が見える III)』
    北方 謙三
    岩波書店
    3,080円(税込)
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 8時半に出社。今日はすごいことになるはずなので、早出し、デスクワークを終わらせておく。

 その予想どおり、10時を過ぎると電話が鳴る。とってもとっても鳴り続ける。なにかといえば先週金曜日にNHKの「あさイチ」で内澤旬子さんの『カヨと私』が紹介され、その反響による書店さんからの電話注文なのだった。

 先週の金曜日も電話鳴り止まず、事務の浜田と経理の小林、そして編集の松村までも総動員して対応したのであるが、土日に本屋さんに行ったお客さまの注文が本日一気にやってきているのであった。

 2回線ある電話が永遠に鳴り続けるその合間に、なんと「本の雑誌」4月号ができあがってくるという、まさしく私が本の雑誌社に入社していちばん忙しい日といっても過言ではない1日が始まる。

 いち早く定期購読者の方に「本の雑誌」を届けるために本を封筒に詰めなければならないが、目の前の電話は鳴っている。浜田、小林、杉江で2回線を対応しつつ、残った一人がスピーディーに封入作業に勤しむ。

 夕方、真っ白な灰となって、机にぶっつぶれる。その向こうで相変わらず電話は鳴っている。今日一日「カヨと私」と言う言葉を何度聞いただろうか。いやぶっつぶれているわけにはいかないのだ。我、直納に行かねばならぬ。というわけで電話対応を浜田に任せ、丸善丸の内本店さんに『カヨと私』を納品に向かう。

 そして帰路、神田明神にお礼参りに伺い、本を買って帰宅する。

S・A・コスビー著、加賀山卓朗訳『頬に哀しみを刻め』 (ハーパーBOOKS)
奥祐介『東京名酒場問わず語り』(草思社)
北方謙三『完全版 十字路が見えるⅢ 南雲を指して』(岩波書店)

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