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3月28日(火)

誰も起こす必要もなく、洗面台やトイレの順番を待つことのない朝。

天気予報のアプリに息子の住む町を登録する。娘の時は世界時計にフランクフルトを登録したのだ。空を眺めて、しばし2人のことを考える。

会社に着けばそんな感傷的な想いは一気に吹き飛び、倉庫管理費のアップや輸送費の上昇や紙代の恐るべき金額に頭抱えなければならない。本当にどうやって本を作り、売っていけばいいのだろうか。

先日会った業界の先輩は、「これからは初版だけ本を作り、あとは電子書籍にしていくことになるのでは」と言っていたが、それどころか本を作ることすら困難になってしまっている。これらのコストに加えて、返品の苦労からも解き放たれる方法が電子書籍なのだというなんたる皮肉か。

頭悩ませつつ、書店さん向けDMと目黒さんのお別れ会の案内作りに勤しんでいると事務の浜田が話しかけてくる。

「昨日、杉江さんが休みだったじゃないですか。その時、助っ人さんに5月号を送る封筒にハンコ押しを頼んだんです。ほら、あまりに厚くていつもの封筒に入らないから、さらの封筒頼んだじゃないですか。あれに社判を押そうと思って。そしたら助っ人さんがハンコ見てびっくりされて。『今どき、ハンコ押してる会社なんてないですよー』って言うんですよ。えええ、うちの会社なんてハンコだらけじゃないですか。伝票も書名のハンコ押して作ってるし。そしたら助っ人さんがコピー機設定して、どんどん封筒に印刷してくれたんです。あっという間でした。ほんともうダメですね、私」

イノベーションは外からやってくる、という見本のようであった。突如引退の危機が迫ったスタンプ浜田を励まして一日が終わる。

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