8月23日(水)息子が読んだ初めての本
お盆休みで新潟から帰ってきた息子が、私の本棚を眺めポツリとつぶやいた。
「一人暮らしって暇なんだよ。俺も本読もうかな」
これまでまったく本を読んで来なかった息子が、本に興味をもった瞬間だった。
どんな話の本が読みたいか訊ねると、殺人事件が起きて、犯人を探しているとまた別の殺人が起きたりして、それで最後に「ああそうだったのか」ってぴったりハマるような話、という。
それは明らかにミステリーであり、残念ながら私はミステリーに疎いのだった。しかもミステリーの本はほとんど持っていない。この本棚をいくら眺めても息子の欲する本はないだろう。
そこで伊坂幸太郎や道尾秀介を溺愛する娘を呼び、息子のリクエストを伝えてみた。
「それなら湊かなえがいいんじゃない?」
「『告白』?」
「『リバース』がいいと思うよ。ドラマ観てたから筋もわかってるし」
なるほど。それなら本を読み慣れていない息子もとっつきやすいかもしれない。娘が自分の本棚に『リバース』を取りに戻ったところ、私の本棚を眺めていた息子が、「なにこれ面白そう!」と言って一冊の本を抜き出したのだった。
それは仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)だった。コンビニは日々利用しているし、高校生の頃サッカーショップでアルバイトしていたので、接客業を身近に感じて手を伸ばしたのだろう。
息子はそのままベットに横になり、冒頭を読み始める。息子が本を読む姿を初めて見るのだった。
息子はその本をリュックに積めて、新潟に帰っていった。
それから10日が過ぎた今日、息子からLINEが届いた。
「コンビニ最終章まできました。どハマりです。」
まさか息子が本を一冊読み終える日が来ようとは思いもしなかった。しかもどハマりするなんて考えたこともなかった。さらにシリーズの他の本を送って欲しいとリクエストしてくるとは。
暇であること。
孤独であること。
もしかするとそれが人を本に向かわせるのかもしれない。
私が本を読むようになったのも、浪人して有り余るほどの暇と初めての孤独を感じていたときだったのだ。
早速シリーズの別の本を段ボールに詰めて、新潟に送る。