1月7日(日)『橙書店にて』に憧れる
9時半に娘をアルバイト先に送り、午前中、ヤオフジと角上に買い物にいく。年末年始の喧騒もおさまり、数の子やかまぼこなどお節料理の具材はすみっこへ移動させられている。
荷物を一旦自宅に置いてから、実家に向かう。退院が近づく母親が暮らせるよう準備する必要があるのだ。車椅子での生活になるため、リビングのソファなどその妨げになりそうなものを2階にあげ、照明もリモコン付きにつけかえる。
台所や洗面所で何に使っていたのかわからない瓶やスポンジを捨てていると気持ちがスッキリするかと思いきや、どんどん苦しくなってくる。ゴミ袋に投げ入れるとともにエネルギーも吸い取られていくようだ。思い出はエネルギーを消耗する。
手を休め、再来週から私の寝室となる部屋のベッドに横になる。ぼんやりと自宅から持ってきていた田尻久子『橙書店にて』(ちくま文庫)を読む。
熊本に喫茶と雑貨と本を売るお店を営む著者による日々の暮らしを描いたエッセイ集だ。
多くはお客さんとのちょっとした交わりが綴られているのだが、それらを読んでいるとこの本に登場する人たちとともにときを過ごしたい、橙書店のある街で暮らしたい、その空間で本を選びたいと狂おしいほど憧れが湧いてくる。
田尻さんの平らな眼差しと過剰な表現のないお手本のような文章のおかげで、落ち込みそうになっていた心が掬い上げられていく。
16時に整理を終えて、自宅に向けて車を走らせる。この半年、何度こうして夕日に目を細めながら車を走らせただろう。