5月20日(月)OJT(岡島・ジョブ・トレーニング)
「杉江さん、いま何本くらい積んだ?」
6畳ほどの部屋のすべての壁と真ん中が書棚になっている書庫で、本を抜き出し縛っていた立石書店の岡島さんが顔もあげずに訊いてきた。
岡島さんも私も、古書現世の向井さんに依頼のあった蔵書整理の助っ人に来ているのだった。
岡島さんは古本屋業界でも仕事に厳しい人と知られ、私はその厳しさを「OJT(岡島・ジョブ・トレーニング)」と呼んでいた。
岡島さんが私に訊いているのは、本を20冊から30冊に束ねた本数で、私は岡島さんと向井さんが束ねた本を駐車場に停めているハイエースに運びいれる役割を担っていた。
「本が20本に、文庫新書が20本の約40本くらいっすね」
と答えると岡島さんは爆笑した。
「どこの古本屋だよ! いや並の古本屋だって答えられないよ。」
岡島さんは爆笑しているけれど、それは最上級の褒め言葉だった。厳しいけれど、褒めるのも上手な人なのだ。
実は私は、そろそろ岡島さんに訊かれる頃だろうと思い、車に積みながら数えていたのだ。数えやすいように積んでもいたのだ。
岡島さんの仕事は、三手先まで考えて段取りをするというやり方で、5年以上の付き合いで、まさしく私はOJTされてきたのだった。
岡島さんは笑いながら話を続ける。
「本数聞かれてさ、わからないからって、数えにいかれると、それはまた困るんだよね。こっちも何となく感覚でわかってるのを、ただ確かめたいだけだからさ」
そのやりとりを、床に座ってごしごし古本を縛りながら聞いていた古書現世の向井さんが、ニュースのアナウンサーの口調で言う。
「杉江由次、(古本の)出し子。自称営業。」
「自称営業ってなんだよ! 30年やってるわ!」
三人揃って爆笑する。
本を縛って運ぶ、という単純作業をこうしたやりとりで楽しくしていく二人の仕事ぶりが私は大好きだ。
だから今日も代休を取って手伝いに来てるのだった。