6月26日(水) 西條奈加『バタン島漂流記』
"漂流記"とタイトルについた本は、財布に金がなくても購入し、何を差し置いてもすぐ読むのだった。他には"探検記"や、最近は"風土記"なんて言葉にも弱いけれど、やはり圧倒的マイ・ラブ・ジャンルは"漂流記"だ。
だから西條奈加『バタン島漂流記』(光文社)を見つけた時、興奮して手を伸ばした。しかしその伸びる手が若干スローモーションになったことを白状する。
その理由のひとつは「小説」ということだった。やはり"漂流記"はノンフィクションで読みたい気持ちが強い。それでも手が伸び続けたのは、実際に起きた漂流を元にしてあるのと、江戸時代の出来事だったからだ。古い漂流ほど困難と未知が多く、面白いのだ。
しかし、それでもまだ躊躇しているところがあった。それは著者だ。はっきりとわが恥を晒すけれど、実は西條奈加の作品を読んだことなかったのだ。
もちろん直木賞を獲っていることは知っているし、それ以上に日本ファンタジーノベル大賞受賞作家のイメージが強かった。だからもしかして『バタン島漂流記』は、異世界を旅するファンタジー要素のある漂流記だったらどうしようと思ったのだ。
しかしそうは言っても"漂流記"なんてタイトルにつく本は、もはや五年に一冊くらいしか出ないので、しっかり鷲掴みにしてレジに向かたのだった。そして早速読み始めて驚いた。
ファンタジーどころか超本格的なリアリティ満載の漂流記なのだ。船の作りや船乗りの役割、そして荒れ狂う海原と自然環境と克明すぎるほどに描かれる。
漂流記だからあらすじをひとつでも紹介したら、それはもう興醒めどころか読む楽しみを奪うことになるので、一切ここで書くことはしない。江戸から尾張に帰る廻船に大変な困難が襲いかかるとだけ伝えておこう。
ノンフィクションより小説の優れているところ、小説だからこその面白さも『バタン島漂流記』には詰まっている。だからこそ最後の1ページまでぞんぶんに面白い。うち震えるほどの感動が待っている。
西條奈加、これまで読まずにいて申し訳なかった。読まずに誤解していてごめんなさい。