12月4日(水)窪田新之助『対馬の海に沈む』
久しぶりに寝食忘れて一気読みの傑作にぶち当たった。
窪田新之助『対馬の海に沈む』(集英社)は、事件ノンフィクションの、いや人間という無様な生き物を描いた慟哭のノンフィクションだ。
JAすなわち農協といったら、この世で一番人畜無害なひとが働いているような気がしていた。離島の対馬の農協なのだ。農家のために軽自動車に乗って、雨の日も風の日も台風の日も汗を流しているかと想っていた。
それがとんでもないのだ。22億円を超える横領をしていた職員がいたのだ。しかもその盗んだ人間は、農協の営業の中で全国有数のトップセールスマンであり、「LA(ライフアドバイザー)の神様」と崇められ、毎年のように表彰されていた人間なのだった。いったいどういうカラクリが潜んでいたのか。
日本農業新聞に勤めていた著者は、農協の暗部を間近に見ており、その事件がどうして起きたかの、さらにその一人に責任を負わせて有耶無耶にして終わることに憤りを感じ、取材を始める。
そこで口を開けるのは、弱くて、せこくて、ずる賢い人間社会の縮図だった。会社という組織、ムラ社会の仲間意識、誰にでもあるちょっとした欲望。これぞまさしく「ザ・日本」なのだった。
最後まで一気読みして本を閉じたとき、人間ってなんなのだろうと呆然とした。そして自分自身もその人間の一人なんだと愕然とした。
読後の興奮で一睡もできずに朝を迎えた。