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2月26日(水)2025年のベスト1 町田そのこ『月とアマリリス』

  • 月とアマリリス
  • 『月とアマリリス』
    町田 そのこ
    小学館
    1,870円(税込)
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北上次郎さんが生きていたら、「まさかこんな物語を町田そのこが書くなんて」と驚いたことだろう。

そして『星を掬う』の書評(本の雑誌 2021年12月号)で、「この作者がぐんぐん巧くなっていることに留意。『52ヘルツのクジラたち』は心にしみる話ではあっても、まだぎくしゃくしていたことは否めない。次の『コンビニ兄弟』は意外に器用であることを示した作品だったが、そうか、あの『コンビニ兄弟』があったから、この『星を掬う』が生まれたのかも。」と書いていたその成長の到達点が、この『月とアマリリス』(小学館)になるのだろう。

なにせあの町田そのこが、ミステリを書いたのだ。しかも横山秀夫や奥田英朗のような骨太のミステリを。それだけでもびっくりなのに、そこにしっかり「町田そのこ」があるのだ。

「町田そのこ」とは何かといえば、これも目黒さんの『52ヘルツのクジラたち』の評からの引用すると、「ストーリーを詳述しないほうがいいだろう。えっ、こうなるのかよ、と次々に驚かれたほうがいい。知らずに読んだほうが絶対にいい。ここに書くことが出来るのは、人間の弱さと悪意が、周囲をかくも簡単に傷つけてしまうということと、それでも希望を捨てなければ、救いは必ず現れるということだ。その残酷さと希望を、作者は鮮やかに描いている。」(本の雑誌 2020年7月号)というものだ。

横山秀夫が犯人を追い求めながら警察組織の中での男社会を描いたように、町田そのこは犯人を追いかけながら、この国にずっとある女性の生きづらさを描く。

読後たまらぬ想いが押し寄せてくる。横山秀夫の読み応え+角田光代の面白さ、そして町田そのこならではのマイノリティの眼差し。超弩級の傑作。まだ2月だけれど2025年のベスト1決定だ。

今すぐ本屋に行こう。そして町田そのこ『月とアマリリス』を読み始めるのだ。

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