4月11日(金)吉川英治文学賞
本屋大賞発表会の荷物が返ってきたので、その整理をしていると、小山力也さんと北原尚彦さんが連れだってやってくる。古書会館で開かれている「まど展」を物色してきたらしい。
小山さんから5月刊行の『古本屋ツアー・イン・日下三蔵邸』の再校ゲラを預かり、カバーのデザインの確認などしていただく。北原さんとは別の書籍の打ち合わせ。古本者の人との打ち合わせは金曜日(神保町)にかぎる。
合間を縫って『たずねる』の初回注文〆作業をし取次のシステムに登録、そして再校ゲラの整理をしていると、笹塚在住の読者の方が遊びにくる。目黒さんがカキフライを楽しみにしていた「とんかつ江戸家」が、店主高齢により先日閉店したと聞き腰が抜けるほど驚く。
目黒さんがあまりに急かすものだからか、店先に掲げた「カキフライはじめました」の手書きの文字が、「カキフライはじました」と「め」が抜けてしまっていたのが懐かしい。
夜、帝国ホテルへ。吉川英治文学賞の贈呈式にお招きいただいたので、角田光代さんのお祝いに伺う。
受賞スピーチでは、数年前、小説を書けなくなるスランプに陥り、このまま書けなくなったら再就職もままならないと駅ビルで開催されているエクセルとワードの使い方教室に通い始めた話をユーモア交えて真剣に語られる。エクセルの課題を必死にやっていたものの、それ以上にエッセイなどの〆切も多く、今はとにかく原稿執筆に取り組むべきではと考え直し教室通いはやめたそう。
そうした不安を抱えた中で執筆されたのが『方舟を燃やす』(新潮社)なのだが、しかし選考委員の選評を読むと「豊饒な文学世界を感じる」(浅田次郎)、「抑制を持って人間を描き切る力量に、私はいくらか羨ましさを感じた」(北方謙三)、「作品世界を完全に構築しようとする律儀さ、真面目さにおいて、空恐ろしい執念が感じられる」(桐野夏生)、「独自の文学世界を持ち、それが多くの読者に受け入れられる稀有な作家である」(林真理子)、「「これこそが小説!」と喝采を叫びたくなるような作品」(宮部みゆき)と絶賛の言葉が並んでいるのだった。
おそらく角田光代という作家が目指している「小説」とは、誰もが見たことのないさらなる高みにあるものなのだろう。