6月20日(金)神宮球場
夕方、中学校時代の友達Hから神宮球場で野球を観るから来ないかと連絡が届く。
明日は出張で朝7時18分発の新幹線に乗らなければならないのだった。ナイターを観に行けば、たとえ9時に試合が終わったとしても、私が家に帰り着くのは10時半を過ぎてしまうだろう。
Hから連絡が来たのは2年ぶりだった。チケットが余っただけかもしれないが、何か話したいことがあるのかもしれなかった。私は毎日朝四時に起きているので、早起きは苦ではなかった。寝不足は新幹線で解消できるかもしれない。
神宮球場に着くとすぐに試合が始まった。「ヤクルトひどいよねえ」と挨拶を交わしていると、いきなりオリックスの宗にツーランホームランを打たれ2点取られた。
私が持ち込んだ紙パックのワインで乾杯し、Hが買ってきたかっぱえびせんをつまむ。
3回裏にヤクルトが追いついて3対3になったところで、Hは東京音頭で掲げたミニチュアのビニール傘をカバンにしまいながら、「オヤジが2月に亡くなったんだ」とつぶやいた。
Hのお父さんとは高校生くらいのときに駅の本屋さんでばったり会ったことがあった。おじさんは頭をかきながら、「明日、採用面接をしなきゃならないんだけど、何を聞いたらいいのかわからないから面接の本を買いにきたんだ」と棚の前で笑っていた。たしか製薬会社に勤めていたと思うのだけれて、自然体で生きてる感じの人だった。
ヤクルトはせっかく追いついたのに直後に小川が満塁のピンチを招き、そこからヒットとホームランで5点取られてしまった。
Hは「つば九郎も同じ頃死んじゃったしさ」とワインを飲み干した。
すんなり負けてくれればいいものの、ヤクルトは8回に追いつき同点とし、あろうことか延長戦に突入してしまった。
10回表にオリックスが2点取ったところで家路についた。
Hは「8月にまた神宮で会おうよ」と手を振った。