9月26日(金)木野寿彦『降りる人』
『降りる人』というタイトルと、「悲しみを抱いた期間工の日常と秘密」という帯のコピーに惹かれ読み出した第16回小説野性時代新人賞受賞作がとてもよかった。
地方の工場と住み込みのアパートをバスで往復する単調な日々が描かれているのだけれど、その内側にある静かな叫びが、静かだからこそとても胸に伝わってくるのだった。
それはまるで映画「パーフェクトデイズ」か令和日本のトレインスポッティングのよう。労働小説であり、友情小説であり、恋愛小説であり、そしてなにより青春小説だ。すべてがパッとしないけれども、それこそが私たちの人生だろう。
帯の裏面の端っこに担当編集者による「この小説に救われる人が、必ずいる。そう強く思えた作品です。」という言葉が記されているのだけれど、これもまた思わずこらえきれずこぼれて落ちてしまったようなささやかな叫びで、それもまたこの作品をとてもよく表している。
こんなに素晴らしい作品と木野寿彦という作家を世に送り出してくれてありがとうと角川書店と小説野性時代新人賞に感謝したくなる。私がもし文芸(小説)の編集者ならすぐさま原稿依頼するだろう。