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5月30日(土)逃げ切る

  • 本をひらく
  • 『本をひらく』
    杉江由次,大森皓太
    本の雑誌社
    1,540円(税込)
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朝、JRの快速に乗って、京都へ。大垣書店イオンモールKYOTO店で始まっている「会いにゆける出版社」フェスを覗き、フェア商品を並べ直す。すでに5冊納品していた『マンションポエム東京論』が残り1冊になっており、幸先の良いスタート。

本日の店頭販売イベントに来られていた出版社の人が大森皓太さんとの京都『本をひらく』を手に取られた際、私の年齢が54歳だと知ったと同時に、「私、その世代の人大嫌いなんです。自分たちは逃げ切れるとかいうんですよね。こっちはこれから何十年もその大変な出版業界で働いていかなきゃならないのに」と怒り出したのでびっくりする。

その方はおそらく20代で、まあ、そう思うこともあるだろう。私自身も、そういう発言をおっさんたちから聞いて向っ腹を立てたことがあるし、同世代の中でそうこぼす人がいて、縁を切ったことがないわけではない。

しかし私は逃げ切れるなんて1ミリも考えたこともないし、なにから逃げ切るのかもわからないし、ならばその手にもつ『本をひらく』なんて本も出していない。

若者の耳元で、「そういうことを言う奴はぶっ●した方がいいですよ」と思わず二度言ってしまった。

夕方、新幹線に乗って、帰宅。

5月29日(金)大阪小書店トライアングル

昨夜、6月刊行の信濃八太郎『ミニシアターをたずねて』を入稿し、今朝は東京駅9時9分発のぞみ245号に乗って新大阪へ向かう。綱渡りのようなスケジュールであるが、知らぬ間にイベントが決まっていたので致し方なし。

11時36分に新大阪に着くと、いつもはJRで大阪駅を目指すものが、本日は御堂筋線に乗って天王寺、天王寺で近鉄南大阪線(大阪阿部野橋と駅名が変わる)に乗り換え一駅乗車し河堀口で降りると、BOOK'N BOOTHはすぐそこだ。

私は気づいてしまったのだけれど、本屋好きの人はこれから説明する大阪新・町の本屋&独立系書店トライアングルをこうして回るといい。

河堀口のBOOK'N BOOTHを後にしたら、次は近鉄南大阪線3駅乗って針中野を目指すのだ。駅すぐの商店街にtoi bookがある。そしてtoi booksを楽しんだら近鉄南大阪線に乗って阿倍野に戻る。そこから路面電車に乗るか、御堂筋線に乗るかはそれぞれだが、路面電車の乗り方がわからない私は、御堂筋線で二駅西田辺まで行き、本屋 亜笠不文律に向かった。

三店三様、本屋さんって本当に一軒一軒まったく異なり、その個性が素晴らしいのだということがわかるトライアングルである。

夜、ジュンク堂書店大阪本店さんにて、スズキナオさんと世田谷ピンポンズさんのトークイベントに立ち会う。意外なことに深夜高速バスのことで盛り上がる。

打ち上げは駅前ビルを徘徊し、どうにか第2ビルで店を見つける。地下街なのに店からはみ出すように人々が酒を飲んでおり、しかもどの店からもぐわんぐわんと反響する酔っ払いの雄叫びが聞こえてくる。大阪カオス。

5月28日(木)心配

上京された本の森セルバの横田さんと会社でお話ししていると、青土社のエノ氏がノックもなく駆け込んでくる。

「杉江さん、大丈夫ですか!?」

先週の日記を読んで私のことを心配し、お見舞いにかけつけてくれたらしい。

聞けばエノ氏も昨年12月に私とまったく同じ症状で動けなくなり、四ツ谷で救急車を呼んだという。

そうして運び込まれた病院でいろんな検査をしたものの、どこも異常は見つからず、お医者さんからは過労だろうと言われたそう。たしかにエノ氏は忙しそうに走り回っており、疲れてもいるはずだ。

「仕事がもう脳の処理能力を超えているんですよ。とにかく脳を休ませないとダメです。それには寝ることですよ」

これまで見たことのないエノ氏の優しさに触れ、思わず涙が出そうになる。

エノ氏は、横田さんからいただいたきび大福を2個持って帰っていった。

5月27日(水)蔵書一代

千葉県某市にスッキリ隊出動。庭の広い大きな邸宅の一部が書斎になっているのだが、書斎が2フロアで、吹き抜けの壁一面本棚、そして小さな階段で二階にあがれるという夢のような環境なのだった。

夢のような部屋から本をどんどん運び出すのは忍びないのあるけれど、書斎主の終活とのことで、心に蓋をして車に積んでいく。蔵書一代。

5月26日(火)どん底

午後、世田谷ピンポンズさんが来社され、『都会なんて夢ばかり』と『感傷は僕の背骨』のサイン本を作っていただく。

夜、新宿三丁目の「どん底」にて、Nuts Book Standの平沢二拍さん、『陰の書店員になりたくて!』の有原拾太郎さん、そしてWEB本の雑誌「今週はこれを読め! コミック編」の田中香織さんと酒。3人は同時期にとある書店で働いていたため、同窓会のような話で盛り上がる。ドライカレーがたいそう美味しかった。

5月25日(月)ジュウリョクピエロ

実家より出社し、デスクワークをしていると担当作品累計1200万部超の編集者がやってくる。今一番見たいような、見たくないような人である。というか昨日のオークスでジュウリョクピエロが勝利した際、初の歴史的快挙を成し遂げた女性ジョッキー以上に一番に顔が浮かんだ人である。

まさか今日やってくるとは!?と驚いていると、『重力ピエロ』の文庫解説を北上次郎さんが書いており、G1制覇のご報告にあがられたという。

わかったようなわからないような理由であるが、北上さんが感謝されるならそれに越したことはない。ちなみにオークス制覇を受け、『重力ピエロ』は売れているそうだ。本が売れるきっかけとしても歴史的快挙なのではなかろうか。

夜、本屋大賞の反省会。2時間みっちり話し合う。

5月24日(日)カレンダー

母親が健康な頃、使っていたベッドの脇にカレンダーが貼られており、その過ぎた日にはマジックで日付の上にバツ印が記されている。

バツ印は、2023年の5月26日の金曜日が最後になっており、その翌日の27日土曜日の午後、母親は脳梗塞になったのだった。

今、私はそのベッドで寝ており、そのカレンダーはそのままにしている。

母親はどういう想いで1日を終えたあとにバツ印をつけていたのだろうか。やっと1日が終わったと解放された気持ちだったのか、それともまた1日終わってしまったという寂しい思いを抱えていたのだろうか。それともボケるのが心配で、日付を間違えないように印をつけていたのか。

母親が脳梗塞になってからまもなく3年が経つ。

5月23日(土)犬

週末実家介護のため、2週間ぶりに母親を施設に迎えにいく。5月6月は飛び石で週末に仕事があり、来週はまた施設にいてもらうこととなる。2週に一度だと母親を迎えにいく喜びが湧いてくる。

夕方、中学の同級生ダボが遊びに来て、しばし雑談。母親は、ダボが連れてきた愛犬とたわむれたいそううれしそう。

5月22日(金)出張旅費

体調は回復。しかし過信せず、そろりそろりと会社に行く。

出張旅費の精算をする。私は出張旅費の精算が好きだ。出張から帰るとすぐにNumbersを立ち上げ、領収書を並べて打ち込んでいく。すべてを終えると風呂に入ったようなスッキリとした気分になる。

午後、北原尚彦さん、小山力也さん、小野純一さんの3氏による座談会を収録する。

5月21日(木)休むこと

夜、名古屋から乗った新幹線を終点の東京駅で降り、京浜東北線のホームに立つと身震いした。名古屋の汗ばむ陽気から10度以上は下がっているのではなかろうか。慌ててジャケットを羽織った。

ホームに入ってきた京浜東北線に乗り込んだあたりから何やら体調が怪しくなる。頭が痛く、冷や汗が流れ、吐き気がし、心臓が激しく鼓動を打つ。いつも電車で座ることもないのだが、秋葉原駅で席が空くとすかさず座り込んでしまった。

ふと、自分は死ぬのではないかと思った。

ここのところ休みもなく働いており、しかもなぜか営業の私が毎月新刊を作るプレッシャーにさらされている。そういえば先週あたりから頭痛がしていたのだ。体力と精神力を過信し、ついに身体と心の限界を超えてしまったのかもしれない。

震える指でスマホをいじり検索する。悪寒、震え、頭痛、吐き気、耳鳴り、冷や汗、心筋梗塞、くも膜下、脳梗塞、うつ病...。

深呼吸をしてパニックになりそうな自分を抑え、震える身体を抱きしめる。とにかく無事、家に帰りたい。家に帰って、家族の顔を見たい。3年前に他界した父親に祈る。「オヤジ、頼む。まだ俺を生かしてください」

途中下車して救急車を呼ぼうかと思ったが、どうにか乗り換えの南浦和にたどり着き、いつもは一段抜かしで駆け上がる階段をゆっくりゆっくり登った。家まで、もう少し。もう少し。

たった一駅をこれまでで一番長く感じ東浦和に着くと、見慣れた景色が身体を包む。もう大丈夫。そう言い聞かせて、家に向かってゆっくり歩く。玄関を開け、すぐにベッドに横になる。私の帰宅に気づいた子供たちが代わる代わる顔を覗かせる。

「おかえり」
「ただいま」

骨折した腕を吊る息子からその後の様子を聞き、娘は出張でなぜか本が増えて帰ってきた私の荷物を笑って見ている。しばらく横になっていると、動悸もおさまり平常に戻った。

寒暖差の影響かもしれないし、新幹線の中で飲んだビールのせいかもしれない。もしかすると単なる気のせいかもしれない。

いややはり過労やストレスからくる変調か、もっと深刻な病気の予兆なのかもしれない。今日は父親が助けてくれたのかもしれない。

休もう。休まなければならない。

5月20日(水)約束

3月の終わり頃、とある書店さんからFAXで送られてきた注文書に手書きのメッセージが記されていた。そこには「杉江さん、まだいらっしゃいませんね」と書かれていた。

それを目にした瞬間、胸を抉られた。「ご挨拶に伺います!」とメールでやりとりしてから一年が過ぎていたのだ。

こういう約束を守れない人間が、私は一番嫌いだった。いつの間にか自分が一番嫌いな人間になっていた。

すぐに新幹線のチケットとホテルを予約した。訪問を約束した本屋さんは愛知の豊前にあったのだ。

今日、やっと約束を果たせた。その書店員さんは、本を愛し、本を売ることを愛し、たくさん本を売るために試行錯誤を繰り返し、そして本音で語る素敵な書店員さんだった。

なんでもっと早く会いに来なかったんだろうと思ったけれど、こうして出会えたのだからよかったのだと思い直した。

そしてまだ、果たせてない数々の約束が思い浮かんだ。

5月19日(火)著作権継承者

午前中、秋に刊行する本に関して、著作権継承者の方と打ち合わせをする。

本作りは何一つ同じことはないので、気を引き締めて話を伺う。

午後、内田剛さんとPodcastの収録。本の話を思う存分できる幸せな時間だ。

5月18日(月)深酒

昨日、会社をそのままにして帰ってきてしまったので原状回復せねばと8時に出社する。

事務の浜田も早めに出社してくるかと思いきや、定時の10時ぎりぎりにやってきた。なんだか顔色が悪いので心配していると、「昨日家で深酒しちゃって」とふらふらと片付けを始める。

本を運び、重いオリコンを持ち上げ、棚にしまっていると汗が吹き出てくる。浜田にとっては二日酔い解消にもってこい...なのだろうか。

社内の現状回復を終えたところで、市ヶ谷の地方小出版流通センターさんに今月の新刊、世田谷ピンポンズ『都会なんて夢ばかり』と『感傷は僕の背骨』の見本を届けにいく。

外は暑く、歩いていると汗が流れ落ちる。見本出しも浜田に任せればよかったか。

5月17日(日)神保町ブックフリマ2026

社内を開放して本を売るイベント、神保町ブックフリマのため9時半に出社。前日の様子を浜田から聞き、売り場を整える。

開店の11時前からお客さんがやってきて、坪内祐三さんの『私家版 文庫千趣』を買い求めていかれる。

佐久間さんからお預かりしたこの貴重な本を、読者にどう届けるかというのは浜田や松村とずいぶん議論したのだった。

いつも通りネットショップを使えば簡単なのだが、まずは坪内さんがスタッフライターとまで言ってくれた「本の雑誌」の読者に届けるのが大切なのではと二人から提案され、ならばと「本の雑誌」6月号に案内と購入方法を掲載し、それと同時にこうして相対して直接買いに来られる機会に販売することにしたのだ。

購入したい人にはかなりご面倒をおかけすることになっているのだけれど、きっとこの「面倒」を坪内さんは好んでくれるだろう。

閉店の5時まで、たくさんの人が『文庫千趣』を買い求めに来てくださった。

5月16日(土)ウツノミヤブックライツ

7時37分大宮発やまびこ123号に乗車し、宇都宮に8時着くと、すでに主催者のうさぎやの人たちが、駅前の広場に机やテントを並べていた。トラックから降ろしているテントのおもりはひとつ20キロもあり、みなさん首に巻いたタオルで汗を拭いながら、一致団結して準備にあたっている。

本のために、本を求める人のために、こうして文字通り汗を流している人たちがいるおかげで、本を届けることができるのだ。あわてて広場に向かい、設営のお手伝いをする。

イベント開始の11時前からたくさんの人がやってきて、各ブースで本を手に取られる。ウツノミヤブックライツは2019年に宇都宮二荒山神社の前で開催され、その後コロナによる中断があり、こうしてやっと2回目の開催となったのだった。

その7年の月日の間にずいぶんと本をめぐる環境が変わったことを思い知る。以前はZINEのブースなどなかったし、こんなに早くからお客さんが来ることもなかった。本のイベントが一般的になり、ZINEが隆盛を極めていることの象徴のようだ。

感慨深くイベントを見つめていると、「宇都宮によく来てくださいました」と声をかけてくださる「本の雑誌」の読者の方がお見えになり、いつものことながら胸がいっぱいになる。

ただ、雑誌を作っている会社なのだ。しかも私は、椎名誠でもなく目黒考二でもなく一介のスタッフでしかない。それなのにこうして愛着を持って接していただけることに、どう答えたらいいのかわからないほど感動と感謝を覚える。

雑誌って、本て、なんなんだろうなと考えているうちに楽しいお祭りは終わる。

5月15日(金)骨折

仕事をしていると腕に包帯を巻き、首から吊られている息子の写真が送られてきた。病院に行った結果、手首の骨折で全治1ヶ月半とのこと。不幸中の幸いは、利き手でない左手だったことか。

泣きそうな顔をしつつ、息子の目の前にはバーガーキングの大きなワッパーが広げられており、身体が洗えないから父ちゃん早く帰ってきてとメッセージがついていた。

5月14日(木)息子

夜遅く、息子が帰ってくるなり、妻が慌てた様子で声をかけている。車で事故でもしかたのかと焦ったが、仕事の後にしていたサッカーで転び、腕をついたら変な方向に曲がってしまったという。

その腕は真っ赤に腫れており、痛い痛いと顔をしかめている。こんな夜に開いている病院はなく、今夜は冷やして寝るしかないだろう。

息子の、あんなに救いをもとめる表情をひさしぶりに見た。私は父親であり、息子はどんなに大きくなっても息子なのだった。

5月13日(水)お店

  • 本、お届けします。――注文配達専門「さかえだ書店」
  • 『本、お届けします。――注文配達専門「さかえだ書店」』
    栄田浩己
    秀明大学出版会
    1,650円(税込)
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往来堂書店さんより『本屋の人生』の注文をいただいたので直納に伺うと、雑誌や書籍の大量な納品と格闘しているところだった。

これはご迷惑だったかもと後退りしそうになるも、店長の笈入さんから「注文したあとにもしかしたらイベントに間に合わないかと思っても持ってきてもらえないか電話しようとしていたんですよ」と言われ、直納してよかったと安堵する。

往来堂書店さんの前のバス停からバスに乗り、上富士前で下車。するとそこはBOOKS青いカバさんのすぐ近く。バスを使いこなせるようなったら一流の営業マンからもしれない。「本の雑誌」6月号をカバさんに納品にあがる。

水曜日の本日は、元サンブックス浜田山の店長木村さんが店番をしており、読んだばかりの栄田浩己『本、お届けします。 注文配達専門「さかえだ書店」』(秀明大学出版会)を例にとり、木村さんも無店舗の配達専門の本屋を開いたらどうかと提案してみる。しかし木村さんは、いや本屋をやるなら「お店」があるのが必須条件という。

夕方、府中に移動して、高野秀行さんと打ち合わせ。忙しそうなので飲まずに仕事の話をだけして別れる。

5月12日(火)僥倖

  • 本の雑誌516号2026年6月号
  • 『本の雑誌516号2026年6月号』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
    880円(税込)
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「本の雑誌」6月号搬入日。今月も無事出来上がってきたことにほっとする。

11時に池袋の梟書茶房へ。ここはドトールが運営している本と珈琲のお店で、かもめブックスの柳下さんがセレクトした本をカバーをかけて中身がわからないようにして販売しているのだった。

たしかオープン時に取材か何かで来たことがあったのだけれど、ふくろう文庫は今も大人気で毎月何百冊を売れているそう。本の売り方はいろいろあるもんだ。

本日の打ち合わせは、ここで本屋大賞のトークイベントをしてくれないかというリクエストで、人が集まるのか不安いっぱいなのだけれど、店長さんもたいそう本が好きなようなのでお引き受けする。

午後は表参道に移動し、編集の近藤と合流する。近藤の打ち合わせについて行くことにしたのだけれど、なぜならその打ち合わせの相手が田島照久さんだというからだった。

田島照久さんといえば私にとっては大好きな尾崎豊のアルバムデザインをされていた方であり、尾崎亡き今、人生で会いたい人の10本指に入る人なのだった。

あまりミーハーになることのない私だが、本日はどうにも抑えることができず、尾崎のことやアルバムジャケットの制作秘話などを夢中になって伺ってしまう。

いつだかとある編集者が「この仕事のいいところは会いたい人に会えること」と言っていたが、まさしく本日その僥倖を授かる。

5月11日(月)茶紙

印刷会社の人から今月の新刊より納品時の包装が変わりますと報告を受ける。

印刷所で出来上がった本は、10冊とか15冊単位で茶色い紙(わが社では茶紙と呼んでいる)に包まれ納品されてくるのだけれど、その包み方が六面すべて覆われるキャラメル包装だったのだが、これからは海苔を巻くような天と地二面が空いた包装になるという。

てっきり茶紙がないのかと思ったらそうではなく、包んだ紙を留めるクラフトテープが不足しているという。キャラメル包装だと三カ所留める必要があるが、海苔巻き包装なら一カ所で済むから使用量を減らすことができるらしい。

他の資材は大丈夫なのかと訊くと、トラックで本を運ぶ時に荷崩れしないように巻く巨大なラップ(あとで他の人に教わったらストレッチフィルムというらしい)が不足し始めており、こちらはなくなったら本を運べず本当に大変なことになりますと深刻そうな表情を浮かべて話す。また各種材料が急激に値上がりしており、いつ印刷製本費に転嫁するかわからない状況だともいう。

SNSで噂を目にしていたのたけれど、ついに我が社にも戦争の影響がやってきた。いったいいつまで本を作ることができるのだろうか。

5月10日(日)睡眠不足解消

晴れ。午前中、母親の車椅子を押して、父親のお墓参りと散歩。午後は黙々と7月刊行予定のさらば青春の光『さらばのこの本ダレが書いとんねん!』の修正をゲラに転記していく。

週末実家介護は、一週間の睡眠不足解消と(なにせ母親に合わせて8時には寝ている)、溜まっているデスクワークの解消に最適だ。

あんなに毎週母親の友達が遊びにきていたのに、いまやその友達もそれぞれ体調を崩し、誰も来ない週末が続いている。

5月9日(土)平静な心

週末実家介護のため母親を施設に迎えにいく。

先週は母親といて妙にイライラしていたのだが、あれは月曜日に文学フリマを控えていたプレッシャーとGWもショートステイに預けることの罪悪感によるものだったよう。今週は平静な心で母親と共に過ごす。結局自分次第ということだ。

5月8日(金)坪内祐三『文庫千趣』

夜、すずらん通りの揚子江菜館へ。坪内祐三さんの68回目の誕生日であり、佐久間さんが私家版として刊行した『文庫千趣』のお披露目会なのだった。円卓3つに坪内さんの担当をされていた編集者が20数名一堂に会し、まるで『酒中日記』オールスターズのよう。

ずしりと重い文庫6冊箱入りのその本を手にし、みな思うのは坪内さんこと。ひとりひとり挨拶していくとなぜかみな怒られたエピソードを語り、さらに口を揃えて怒る人がいなくなってしまった現代を嘆くのであった。

よく怒る人と言われている私は、怒るってやっぱり大事なんだなあと頷いていると、隣に座っていた佐久間さんが「いやいや理不尽に怒られて離れていってしまった人はここに来てませんから」と頭を抱えており、確かにそのとおりと思い直す。

それにしても約25年、1056回続いた「週刊文春」連載の「文庫本を狙え!」はすごい連載だった。こうして一冊(六冊)にまとまってみると一冊一冊の紹介だけではなく、1056回通しての意味が生まれてくる。

坪内さんはその意味も考えて連載を続けていたのだ。

文庫千趣.JPG

5月7日(木)お釣り銭

電車の中で手帳に今日やることを書き出したら、余白からはみ出すほどで、そのまま帰りたくなる。

重い足取りで会社に辿り着くと、文学フリマから返送した荷物が届き、さっそく残部数から売上を確認。たくさん用意していた釣り銭はほとんど使うことがなく、会社で両替する。どうやら文学フリマはお客さんが出店者を気遣い、お釣りがでないよう小銭を用意してくださっているようだ。

2時過ぎにデスクワークを終え、外に出る。本屋さんに行くのは1週間ぶり。

5月6日(水)GW最終日

GW最終日。といってもGWの間も、介護、介護、文フリ、休息で、特別なことはしていないのだった。

その文学フリマで購入しようと考えていたもののブースから離れることができず、ネット注文していた玉置標本『さぬきうどんを食べ歩く旅』が届いたので、むさぼり読む。

副題にあるとおり二度の二泊三日の高松行きで、さぬきうどんを14杯と17杯食べた記録で、一言でさぬきうどんと言っても店の形態からうどんの作り方などそれぞれに個性があることがわかる。

一日何食も食べ歩いているにも関わらず一杯一杯のうどんを愛し、実直に食べている姿がたいへん素晴らしい。

5月5日(火)有原拾太郎『陰の書店員になりたくて!2 松本死闘篇』

思いのほか疲れていたようで晴天なのにまったく走る気力が湧いてこず、終日ベッドに寝転んでぼんやり過ごす。

そんな中、昨日の文学フリマで唯一手にすることができた本、有原拾太郎『陰の書店員になりたくて!2 松本死闘篇』(トロッコ出版)を読み出したところ、これがめっちゃくちゃ面白く一気に読んでしまった。

とある大手書店チェーンの社員だった著者が、新宿店の閉店から松本に新規店をオープンする際に店長に任命されるところからの苦闘が記されている。

仕事柄、書店員さんにはたくさん接しているものの店長という業務(苦労)はほとんど知る機会がなく、お金や人事の管理はともかく(この書店の採用試験も掲載されており興味深い)まさか店長が提携先の駐車場や健康診断をしれくれる病院を探したりしているとは露とは思わず驚いた。

著者は若干腰がひけたように働いているものの、実は前作の『陰の書店員になりたくて! 論理棚学論考』(トロッコ出版)同様、今作でも元棚主義から地域一番店への売場の変更や、先輩から「狂ってる」と言われた本の意味に捉われずに工学的に売り場を作るために照明を落とした店内を徘徊して考えるなど、しっかり突き詰めて働いており、大変興味深い書店論にもなっている。

これから書店店長になる人のバイブルになるであろうし、現在書店店長をしている人の肩をそっと抱いてくれる本でもある。

5月4日(月)文学フリマ

文学フリマの曜日を勘違いしていたのに気づいたのが金曜日の夜のこと。娘が月曜日の天気を心配しており、なぜにと思ったら文学フリマじゃん!と指摘されたのだった。

てっきり火曜日だと思っていたので阿鼻叫喚。なにせ月曜日の朝まで私は実家におり、母親の介護の送り出しをせねばならない。車がやってくるのは8時50分なのだ。それから東京ビッグサイトに向かったのでは会場設営に間に合わないのである。

というわけで朝7時過ぎ、妻がやってきて、母親の送り出しを任せる。わが遊びのため妻に迷惑をかけてしまったことにうなだれる。

今回の文学フリマ東京は、高野秀行・内澤旬子エンタメノンフ文芸部で出店しており、ということは内澤さんも小豆島からやってくるのだ。

三人とも日頃から本を刊行して生活を成り立たせている身であり、要するに出版は仕事なのであるけれど、こうしてGWの真ん中に高い移動費や忙しいスケジュールを調整し、自ずと一同集結しているのはいったいなんなんだろうか。

とどのつまり高野さんも内澤さんもそして私も、紙の本、紙に印刷され束ねられたものを愛しており、もはや愛しているというよりは本自体が自分そのものであり、本を作り、売ることしか自分の存在を確認できないのではなかろうか。

閉会の5時までしっかり本(ZINE)を売り、お会計係として手伝いに来てくれた娘と帰る。充実の一日。こんな素敵な場を運営していただいている方々に深く感謝。

5月3日(日)カレンダー

母親がじーっとカレンダーを見つめている。日付も曜日の感覚もなかろうにと思うのだけれど、こういうときはなぜか頭がすっきり冴え渡っており、今週がゴールデンウィークであることをしっかり認識している。

母親の発する「水曜日まで休みなのね」という言葉の裏には「水曜日まで自分は自宅にいれるはず」という想いが込められており、それを否定することになる私の心を深くえぐってくる。

「おれは仕事だよ」と嘘をつくと(文学フリマに出店するから嘘でもないのだが)、「じゃあ私はここで一人で留守番してればいいのね」と、できもしないことを言われ、さらに深く心をえぐられる。

深呼吸をひとつして、母親の顔を見ずに「明日は朝、介護の車が迎えにくるよ」と伝える。

5月2日(土)辻村深月『ファイア・ドーム』

  • ファイア・ドーム (上)
  • 『ファイア・ドーム (上)』
    辻村 深月
    小学館
    2,090円(税込)
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  • ファイア・ドーム (下)
  • 『ファイア・ドーム (下)』
    辻村 深月
    小学館
    2,090円(税込)
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二泊三日の週末実家介護の間に読もうと持ってきていたプルーフ、辻村深月『ファイア・ドーム』が息つく暇もない面白さで、上下900ページを一気読みしてしまった。

手垢のついた慣用句で大変恥ずかしいのだけれど、ページを捲る手が止まらないどころか、一行一行読み進むのがもどかしいほどで、しかし最初の一行から最後の一行まで何度もクライマックスが押し寄せる圧巻の物語。日本小説史に名を刻む超ウルトラ大傑作であり、ここまで傑作の小説を私は今まで読んだことがない。

発売は6月5日(金)となっているので、その週末は予定を入れずにいた方がいい。レンジでチンして食べられるものも用意しておくといいだろう。

本が発売されたら私も購入してもう一度読む。10年に一冊、いや30年に一冊の大傑作を迎える準備をしっかりしておこう。

5月1日(金)物販必需品

朝、メールをチェックすると、いつぞやインタビューいただいた「出版フィールドワークプロジェクト」の原稿が届いており、その修正にとりかかる。これが結構一大事で、10時過ぎまでかかってしまい、それから出社。

今日からGWでもいいのではないかと考えていたのだが、ひとまず会社に顔を出すと、京都新聞の営業マンIさんが顔を出す。他の出版社もカレンダーどおり働いているらしい。

帰りに100円ショップに立ち寄り、先日ビーナイスの杉田さんに教わった透明の養生テープを購入する。物販でとても役立つらしい。

物販必需品といえば、ガムテープ、養生テープ、両面テープ、コインケース、手提げ金庫、電卓、カッター、領収書、返送用の送り状、敷き布あたりだろうか。

4月30日(木)ギリギリセーフ

内澤旬子さんが文学フリマに向けて作られたZINE『「食べない事情」を聞いてみた』が印刷製本を終えプリントパックから届く。正真正銘ギリギリセーフ。そのまま文学フリマの会場に向けて発送する。

午前中、イラストレーターの信濃八太郎さんが来社され、著者校をお戻しただく。検討課題となっていた本のタイトルは、いろいろと案を出しあった末に、『ミニシアターをたずねて』という当初の案に確定する。

午後は著者校の引き写し作業に勤しむ。この作業は嫌いではない。

4月29日(水・祝)田中達也

午後、財布の中に本日横浜Kアリーナで開催されるサンボマスターのチケットが入っているのに、私は埼玉スタジアムのゴール裏にいた。

わが愛する浦和レッズの危機であり、13年前「サッカーをあきらめるわけにはいきません」といって泣きながら浦和を離れた田中達也が火中の栗を拾い監督になったのだ。その大事な試合に埼スタにいないでどうするというのか、だ。

たとえクラブを愛せなくても、ピッチで必死に戦う選手たちを応援しなければならない。試合開始前、コールリーダーの人が言っていた。「それとこれとは別で、やることやりましょう」。まさにそのとおりだ。私たちサポーターは、そこで浦和レッズの選手が戦っているなら全身全霊をかけて応援するしかないのだ。

試合開始早々、左サイドバックの長沼が解き放たれた猟犬が如く最前線に飛び出し、まるでFWのようなポジションに立った。いったい何が起こっているのだろうかと思うと逆サイドの石原は3パックの左の位置に立っており、その石原の前方の空いたスペースには、天才・中島翔哉が顔を出している。

監督解任によるブーストというよりは、しっかりサッカーが変わっているではないか。2対0で勝利し連敗を脱出する。今日は勝っても「We are Daimonds」は歌わない。歌わないことを支持して帰る。

4月28日(火)愛を試される

  • フットボール・マネー: 資本主義と権力闘争のゲーム
  • 『フットボール・マネー: 資本主義と権力闘争のゲーム』
    ミゲル・デラニー,山中 拓磨
    平凡社
    3,960円(税込)
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昼、ぼんやりXを見ていたら、浦和レッズがマチェイ・スコルジャ監督との契約を解除し、アシスタントコーチだった田中達也が暫定的に監督に就任するという発表が目に飛び込んでくる。

そこからは仕事にならず...。

いったいこのクラブは何を目指しているのだろうか。
これまでで最も愛を試されているのではなかろうか。

サッカークラブを愛するということは、もうひとつ人生を抱えるようなものだ。しかもそのもうひとつの人生はほとんどがうまいこといかない人生なのだ。

ミゲル・デラニー『フットボール・マネー』(平凡社)という約5センチの鈍器サッカー本を買って帰る。

4月27日(月)終わりのない旅

  • 都会なんて夢ばかり
  • 『都会なんて夢ばかり』
    世田谷ピンポンズ
    本の雑誌社
    1,980円(税込)
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  • 感傷は僕の背骨
  • 『感傷は僕の背骨』
    世田谷ピンポンズ
    本の雑誌社
    1,980円(税込)
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世田谷ピンポンズさんの『都会なんて夢ばかり』と『感傷は僕の背骨』を校了する。デザイナーの松本さんから修正データも届き、校正をモリモト印刷のSさんに戻しながら、いい本が作れたなあという感慨に浸る。

この本は必要としている人がいて、そういう人の、大切な一冊になるはずだ。その「大切な一冊」としての本が、作れた気がする。あとは届けるだけ。出版とは、終わりのない旅なのだ。

午後、高野秀行さんのZINE『伸びしろマンがゆく!』や『チャットGPT対高野秀行 キプロス墓参り篇』などを段ボールに詰め、指定されたクロネコヤマトで発送する。段ボール箱4箱。売り逃したくたいので、ついついたくさん詰めてしまう。

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